作品タイトル不明
第124話 三日目の終わり
ま、ともあれ。
敵地で孤立して、明日をも知れぬなか、皆が気落ちしてないのは幸いだ。
いや、よく考えたら、この三日間、ずっとそんな状況だった気もするけど……。
今日は、格別にヒドい。
ぼくたちは五人きりで、仲間のあてはなく、敵はかつてなく強大。
なにより、世界の命運をかけた明日の戦いに参加できなければ……。
「なんとかなるよ、カズさん!」
「そうです。みんなで考えれば、きっといい案を思いつきます。もっとわたしたちを頼ってください」
たまきとアリスが、ぼくの肩を叩き、順番にぎゅっと抱きしめてくれる。
ついでとばかりにルシアも、ぼくをぎゅっとする。
「えーと、無理しなくてもいいんだけど」
「いえ、やってみたかったので」
亡国の王女様は、ぼくの頭を抱きかかえながら、後頭部をぽんぽんと叩く。
ルシアの胸は、たまき以上、アリス以下だと思いました。
まる。
さて、それからぼくたちは、作戦会議をひらいた。
いろいろな意見が出て、いろいろな反論が生まれる。
「兄からちょろまかしてきた。これ、役に立つ?」
ミアがリュックサックから取り出したのは、数枚のメモ用紙だった。
細かい丁寧な文字でびっしりと記入されているのは、どこにどんな物資が貯蔵されているかというリストである。
「これ……結城先輩が?」
「生徒を探しに行くとき、もし役に立つなら、って」
万一、周囲の物資を利用しなきゃいけないような事態を考えたのか?
過保護というか、ミアを信用しきっているというか……。
いやまあ、こいつがそれだけ使えるのは、間違いのない事実だけど。
「助かるよ。いろいろ調べてみれば、役立つこともあるかも」
「いろいろ配置を変えたりしたっぽいから、いらなさそうな施設も目を通した方がいい」
配置変更って、ナニしてるんだあのひと。
きっと、よからぬことを考えてたんだろうなあ。
ミアから渡されたメモを読みこんでいくうち、結城先輩の意図が見えてきた。
ああ……そういう……。
でも、それじゃ、ここをこうして……。
ぼくたちは、メモをもとに、さらなる議論を行った。
基本計画の策定までに、何度も休憩した。
いくつもの状況を想定して、さまざまなプランが立てられた。
計画が少しずつ練り込まれていく。
「ま、とりあえず、こんなものでいいか」
とぼくたちが立ち上がるまでに、どれだけの時間が経過したのか、わからない。
この空間ではお腹がすかないけれど、気分転換をかねて、三回、サモン・フィーストで宴会をした。
ちなみにルシアは、宴会のたびに、甘いものばかりをがっつりと食べた。
口のなかをケーキでいっぱいにして、まるでハムスターのような顔になっていた。
その格好のままぼくと視線が合うと、頬にチョコレートの欠片をくっつけたまま、無言で顔全体を桃色に染めた。
「ん。くいしんぼう属性とは、あざとい……」
「カズさんはいいました。わたくしはもはや一介の兵士、食事のマナーに気を使う必要などないと!」
なぜか、えっへんと胸を張っていた。
あの、あれは別にケーキを馬鹿食いして太れって意味じゃないんだけど。
「ま、この部屋でいくら食べても、現実では太らないわけだから……いいんじゃないかな」
「カズさん、あなたはいいひとですね」
あまり表情を変えず、しかし目を細めてルシアはそんなことをいう。
きっと喜んでくれているのだろう。
気を利かせたアリスが、ナプキンでルシアの口もとを拭いてやっていた。
「それじゃ、この部屋を出るぞ」
皆がうなずく。
そこに悲壮感はない。
なお、たまきのスキルポイントはひとまず保留ということになった。
明日、少し動いてから、改めて考えることにする。
基本的には肉体スキルでいいと思うんだけど。
たまき:レベル25 剣術9/肉体1 スキルポイント4
ルシア:レベル19 火魔法8 スキルポイント2
※
それからさらに、森の奥へと進む。
オークたちは、オーガと連携して攻撃してきた。
厄介なことだった。
オーガ四体、蜂二体、アーチャー・オーク二体、雑魚オーク七体を倒した。
途中でミアがレベルアップし、25になった。
ミア:レベル25 地魔法4/風魔法8 スキルポイント4
一時間ほどでモンスターが出没する一帯を抜け、山の裏側に出る。
適当なキャンプ地を探した。
背後が切り立った崖で、周囲の木々も密であればなおよい。
暗視のおかげで、そう苦労せず、理想的な場所が見つかった。
ぼくはサモン・フォートレスで、カモフラージュされた小屋を建てた。
うまく偽装され、一見、ただの茂みにしか思えないが……。
一歩、扉をくぐると、5LDKで二階建ての、木製のコテージだった。
リビングに暖炉があるけれど、火は灯されていない。
ちょっと確認したところ、各部屋で明かりをつけても外にはいっさい光が漏れなかった。
多少、騒いでも、外からは聞こえない。
そのかわり、窓がなかった。
「外に使い魔の狼を四体、呼んでおくよ」
見張りとしては、そのぐらいで充分だろう。
で、さて。
ぼくは二階の一室で、ルシアと共に儀式を開始する。
ルシアが床に特殊な文様の魔法陣らしきものを描き、ぼくが巻物に従って儀式を遂行する。
「なんか、黒魔法っぽい! カズさん、悪人っぽい!」
たまきが妙にはしゃいでいる。
嬉しそうだなあ。
儀式は成功した。
ぼくは、出現した幻獣と専従契約を結んだ。
詳しいことはまた明日、試すことになった。
※
その後、サモン・フィーストによる豪華なディナーを楽しんだ。
ルシアは、またケーキばかり、がっつりと食べた。
「そんなに気にいった?」
「こんなに甘いものが、こんなにたくさんあるなんて、夢のようです」
「ルシアの国では、こういうものってなかったのか」
「あったかもしれませんが、わたくしの口には入りませんでした」
聞けば、幼いころから粗食に耐える訓練と戦闘訓練を積んできたという。
スパルタな育てられかたをしているなあ。
しゃべりながらも、ルシアはものすごい勢いでケーキを口に運ぶ。
「ひょっとして、スニッカーズも結構気に入った?」
「はい、とても素晴らしい。あとどれくらい、あるのでしょう」
「育芸館と一緒に吹き飛んだ、かな」
ルシアはあまり表情を変えず「そうですか」といった。
でも、いまのぼくには、ものすごくしょんぼりしていることがわかる。
彼女の感情を読み取ることにも慣れてきた気がした。
「ん、ずるい。無口系で大食いでエルフ耳なんて、属性過多」
「ぼくには、もうきみがなにをいってるのかよくわからないよ」
いや、正確にいえば「わかるけど、わかりたくない」か。
こいつは、もう……。
「ミア、あなたを不快にさせた原因を教えていただけますか」
「教えてあげてもいいけど、その前に耳をもふもふ……」
「冗談でいってるんだから、気にするな」
ミアの頭に拳骨を落として、おとなしくさせた。
ミアは涙目で「うーっ」と睨んでくる。
「そうやって同情を買おうとするから」
「ちっ」
あ、こいつ舌打ちしやがった。
※
備えつけの風呂に順次、入った。
残念ながら、混浴するほどのスペースはなかった。
本当に残念だ……。
ふた部屋に分かれて寝るかどうか、と協議したすえ、二階の一番おおきな部屋に寝袋を運び、全員で横になることになった。
安全面でも、その方がいいだろう。
今朝のように、建物が奇襲される可能性は常に存在する。
「エロいことをしてもいい、よ?」
湯上り、あざとくもだぶだぶのシャツを着てすり寄ってきたミアの額を、ぺしりと叩いておく。
そんなことをいった当の本人は、明かりを消したとたん、あっというまに寝息を立てはじめた。
ま、今日は……疲れたよなあ。
逆にぼくは、眼が冴えて眠れなかった。
トイレにいくふりをして階下に降り、外に出る。
アラート・テリトリーをかけたのはぼくだから、どのラインを踏み越えたら反応があるか、よく理解している。
アラート・テリトリーのラインを踏み越えないよう注意して、コテージの脇を歩く。
外で見張りをしていた使い魔の狼たちが寄って来た。
頭を撫でてやると、気持ちよさそうに鳴いた。
かわいいやつらめ。
ちなみにインヴィジブル・スカウトも一体、いる。
屋根の上で全方位を監視してもらっていた。
一応、守りは万全、のはずだ。
コテージの扉が開いて、ぼくに続き、誰かが出てきた。
月明かりのなか、黒髪が銀色に輝く。
アリスだった。
「眠れなくて」
アリスはそういって、苦笑いする。
ぼくのそばに寄ってきた。
ぼくたちは、コテージの壁に背を持たれ、並んで草の上に座った。
見上げれば、ふたつの月が昇っている。
どちらも、ほぼ満月に近い。
「明日、この世界が滅ぶかもしれないだなんて……」
アリスが呟く。
「信じられません」
ぼくの肩に顔を載せてきた。
その身体が、小刻みに震えている。
彼女が眠れないのは、日中の戦いで興奮していたからではないのだと気づく。
不安なのだ。
明日がどうなるかわからなくて、怯えている。
明日、この世界の人類は、乾坤一擲、最後の大博打に出る。
なのにぼくたちは、彼らとの連絡手段さえ閉ざされ、大陸の外れの森で逃げ隠れするだけ。
そんな状況で、恐怖を抱かないはずがない。
でも。
「なんとかなるよ。ううん、なんとかする。ぼくたちで、なんとかしてみせるんだ」
なんの確信もない言葉だった。
でも、いまぼくがいわなきゃいけない言葉だった。
「だから、アリス。きみは、ぼくのそばにいてくれ。きみが支えてくれるなら、ぼくはどこまでも戦える」
アリスがぼくを見上げる。
ぼくは、にやりとしてみせる。
内心、虚勢がバレないかドキドキしていた。
いまさらではあるけど、彼女の前でくらい、強い男でありたかった。
はたしてアリスは……。
くすりと笑う。
ぼくの後ろ首に手をまわして、唇を重ねる。
「はい。ずっと、カズさんのそばにいます」
長いキスのあと、アリスはまっすぐにぼくの瞳を覗きこんで、そういった。
「わたし、信じていますから」
月明かりの差すなか、ぼくとアリスの影がひとつに重なる。
※
かくして、ぼくたちの三日目が終わった。
激震の一日が。
そして。
四日目が始まる。
終末を予言された四日目だ。