軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第123話 新たな可能性

和平派。

ぼくたちも襲われた、光の民のなかにいた親モンスター勢力。

いったいどうして、モンスターと人間が手を結ぶことができたのか。

その答えが、これだ。

ドッペルゲンガー。

人間に化けて、人間勢力のなかに潜伏していたモンスターの存在である。

ハガンさんを殺したあの和平派の男が、モンスターと共生……いや寄生されていた理由も、それで説明できるだろう。

つまり、こういうことだ。

ドッペルゲンガーというモンスターは、スパイとして、破壊工作員として、人間のコミュニティに入り込む。

話し合いでか、脅してか、あるいは強制的にモンスターを寄生させてか、手先を増やす。

そしてときには、ぼくたちを襲ったように、積極的な破壊活動を行なうのだろう。

これまで人類側勢力にドッペルゲンガーの正体が露呈しなかったのは、彼らがとても慎重に行動していたからだ。

決定機を狙っていた。

対していま、彼らは正体を表してでも転移門を止めたがっていた。

それだけ、ぼくたちを恐れていたのか。

そうかもしれない。

ドッペルゲンガーがいつからこの地に現れたのかは、わからない。

ただ、シバが生きているという噂がたったのは今朝になってからだというから……。

生前のシバに接触していたとしたら、昨日には一部の生徒と入れ替わっていたのだろうか。

当然、あの浮遊要塞がここに来るよりずっと前だ。

初日からいて、オークたちとは別系統で動いていたのか。

それとも今日になってから、そう、たとえばグロブスターによる転移でやってきたとか。

真相はわからない。

これから先、判明するかどうかも不明だ。

とにかく、今日になってから、ドッペルゲンガーがシバに化けていたのだとしたら。

彼らは当然、周囲の生徒からレベルアップの仕組みについて聞いただろう。

さぞや驚愕したに違いない。

二日前まで無力な一般人だった人々が、オークを倒していくだけで、限りなく強くなっていくのだから。

ドッペルゲンガーは、高等部の男子たちの口から、ぼくたち精鋭部隊の戦闘力を聞きだしているだろう。

そうじゃなくても、たまきに聞いたところ、生徒に化けていたドッペルゲンガーに、メキシュ・グラウ退治のことなどをぺらぺらしゃべってしまったそうだ。

彼女を責めるわけにはいかないだろう。

急速に成長していく異世界人のなかでも、特に多くのモンスターを倒した者たち。

神兵級すら連続して退けてのけた、おそるべきイレギュラー。

そんなやつらを光の民と合流させるのは得策ではないと、そう判断したのか。

だからこそ彼らは、身バレの危険を冒してでも、ぼくたちを封じ込めようとした。

己の命を賭し、本来の方針を曲げてでも、ぼくたちを排除しようとしたのである。

転移門が破壊される直前、啓子さんを向こう側に送ることができたのは幸いだった。

もし、向こう側にいってしまったドッペルゲンガー三体が暴れまわったら……。

生徒たちに、どれだけの被害が広がったことだろう。

あるいは、リーンさんを暗殺するべく暗躍し……あまつさえ成功してしまったら。

育芸館組も高等部組も、ひどく追い詰められてしまうだろう。

いや、それどころではなく、この世界の人類の生存すら絶望的になろう。

そういう意味で、最悪だけは回避した。

そのかわり。

ぼくたちは、敵地となった学校の山のなかで、孤立した。

十分後。

すでに日は暮れている。

リーンさんたちのもとに戻る方法がなくなったぼくたち五人は、いま、森のなかに隠れていた。

暗闇のなか、ぼくは五人全員にナイトサイトをかける。

その直後。

浮遊要塞から発射された光線が、高等部の本校舎を一撃で破砕した。

「ん。危なかった。ぐずぐずしてたら、一網打尽にされてた」

ミアが落ちついた様子で呟き、ひょいと肩をすくめる。

ルシアも、まったくだとばかりにうなずく。

ふたりとも、一見、冷静なようだった。

アリスとたまきは、不安げにぼくを見上げる。

ぼくとしてはふたりの反応の方が正常に思えた。

実際のところ……ぼくたちはいま、めちゃくちゃ追いつめられているわけだし。

彼女たちに安心感を与えてやるのは、なかなかに困難なことであるように思う。

とりあえず……。

「もう少し森の奥に移動しよう。啓子さんによれば、山の反対側までいけば、オークもほとんど出なかったって話だし……」

もっとも、あの浮遊要塞が山の反対側にもオーガの部隊を落としている可能性はある。

けして油断はできない。

「オーガだけなら、まだしも……ザガーラズィナーとかいうやつは、現時点じゃどうしようもないからね」

最大の懸念は、そこだ。

今日、相手にした二体の神兵級すら上まわる戦力、魔王軍の幹部のひとり、鬼将ザガーラズィナー。

そんな化け物が浮遊要塞にいる限り、ぼくたちとしては逃げまわる以外の選択肢がない。

ザガーラズィナーはいまのところ居城から動いていないようだが、もしそいつがぼくたちに興味を示したら……。

ぞっとする。

できれば、ずっと慢心していて欲しい。

暗視魔法で周囲に注意しつつ、山の裏手に向かって歩きだす。

森のなか、草木をかきわけ、黙々と進む。

不安でいっぱいだった。

でも、皆の手前、ぼくがそれを表に出すことはできない。

「あのね、カズさん……」

「待て、たまき。森のなかじゃ、安全が確認できない。話し合いはあとにしてくれ」

ぼくは、なにかいいたげなたまきを制して、黙らせる。

いま雑談はまずい。

こんな視界がきかない森のなかで、オーガの先制攻撃を喰らったら……考えただけでもぞっとする。

敵がオークなら、いまのぼくたちなら、一撃程度は耐えられるだろう。

だが馬鹿力のオーガは、別格にヤバい。

身長三メートルの体躯から繰り出される攻撃の破壊力は、オークとは比べものにならない。

とはいえそれは、あくまで先制攻撃を受けた場合だ。

ぼくたちが先に敵を見つけてしまえば、どうということはない。

だからこそ、隠密行動が必要だった。

途中、オーガの部隊を発見する。

進路を遮るようにうろうろしていたので、殲滅を選択。

雑魚オーガを7体ばかり倒したところで、たまきとルシアが同時にレベルアップした。

白い部屋で確認したところ、たまきはレベル25、ミアはレベル24になっていた。

聞けば、ドッペルゲンガーになっていた高等部のひとたちを助けるとき、オーガの集団と交戦したのだという。

雑魚オーガ10体に、それを率いるメイジ1体。

結構な戦力だ。

やーまー、ミアがメイジを押さえている間にたまきが雑魚を切り刻んでしまえば、どうとでもなるんだろうけど。

で、ようやくとばかりにたまきが口をひらく。

「あのね、カズさん、たいへんなの! これ、見て!」

たまきが指し示したPCの画面には、たまきのステータスが表示されている。

問題は、スキルの欄だった。

剣術9となっている部分が赤い文字になり、そこをクリックすると……。

派生スキル、というサブウインドウが生まれた。

ぼくは生唾を飲む。

「これって……」

「うん! ね、すごいでしょ!」

なんでもっとはやく、といいかけて、ぼくは口をつぐんだ。

そりゃあ、理不尽すぎる話だからだ。

たまきがずっと、なにかいいたそうにしていたのは、これか。

「これが、ぼくたちの次の可能性……」

派生スキル。

PCのウィンドウ上に新たに生まれたそれを見て、ぼくたちはQ&Aで確認を行った。

まず、派生スキルというサブウィンドウが生まれているのは、なにかのスキルをランク9にした者だけ。

いまのところ、ぼくの召喚魔法とたまきの剣術がランク9である。

なるほど、だから真っ先にたまきが気づいたのか。

で、たまきのPCの画面を覗き込んでみる。

赤くなった剣術という文字の横に展開されているサブウィンドウには、単語がひとつ。

重剣術。

文字は、灰色だ。

マウスを動かしカーソルを合わせると、必要条件【肉体】とあった。

ぼくの方は、召喚魔法の横にサブウィンドウが展開される。

そこに表示される単語は、強化召喚。

Q&Aしてみる。

派生スキルとは、ランク9になったスキルをさらに強化する手段である。

ふたつのスキルをランク9にしたうえで、派生スキルにスキルポイントを注ぐことで取得可能となる。

「上級スキル、みたいなものか。実質的な、レベル10以上……」

ぼくは理解する。

メキシュ・グラウのような神兵級モンスターのさらに先、ザガーラズィナーやさらにその上の魔王といった脅威に対抗する手段こそが、これなのだと。

しかし、そうなると、問題はこの先、レベルをどう上げるかだ。

メンバーで一番レベルが高いぼくでも、レベル30。

派生スキルを取得するには、最低でもレベル45となり、ふたつのスキルをランク9にする必要がある。

そのうえで、この強化召喚という派生スキルがどれだけのちからを持つのか。

場合によっては、ほかのスキルを伸ばして総合力を増す方がいいという可能性も……。

「たまきは、楽でいいよな」

「え、なに、わたしディスられてる? カズさん、わたしプンプン怒っていい?」

「いや、違うよ。だって、重剣術って単語からして、明らかに剣の威力が上がるってことだろう。どう考えたって、この先の戦いで有用なスキルだ」

ちょっと不機嫌に頬を膨らませたたまきの頭を撫でて、ぼくは笑う。

いや、たまきの肉体スキルはたったの1だから、肉体スキル以外を上げて、ほかの派生スキルを狙う手もあるのだけれど。

「わたしたちは、もう、ランク9にするふたつのスキルがほとんど決まっちゃってますけど……」

アリスがいう。

「ルシアさんのふたつ目のスキルは、よく考えなきゃいけませんね」

「まだ火魔法しかとってないしなあ」

そのへんを含めて、いろいろ相談する必要があるだろう。

もっとも、まずその前に、今日と明日を生き抜くことができるかどうかなのだけれど。

「今夜の予定についてだ」

ぼくは皆を見渡して、話し出す。

「とにかく安全な場所を確保して、さっさと休む。サモン・フォートレスで偽装した砦をつくって、使い魔を見張りに立てておけば、安全に眠れると思う」

召喚魔法のランク9、サモン・フォートレスは、その名の通り堅牢な砦をつくり出す魔法だ。

砦、といってもさまざまなパターンが用意されており、今回は小型で周囲に溶け込むよう偽装されたものを召喚するつもりだった。

ちなみに、大型の砦のパーツになるようなパターンも存在する。

それらを組み合わせて、本格的な拠点を組み立てることも一応、可能であった。

MPを合計で1000くらい消費することになるので、今回の場合、あまり現実的ではないが……。

「で、とにかくさっさと寝る。明日は早く起きて、オーガを狩る。ザガーラズィナーからは逃げまわる。浮遊要塞砲に目をつけられたときも、とにかく逃げる。で、とにかくレベルアップして……」

「お待ちください、カズさん」

ルシアがぼくの言葉を遮った。

「いくらレベルアップしたところで、要塞全体のオーガを皆殺しにしたところで、レベル45にはなれません。ましてや、派生スキルを取得し、ザガーラズィナーを倒すに至るまでとなると……」

「ん。カズっち、焦ってる? そもそも、ザガーラズィナーの強さもわからないんだよ?」

ぼくは唇を噛んで視線をそらす。

冷や水を浴びせられた気分だ。

ルシアもミアも、ぼくを気遣っているのはわかるから、怒りは湧いてこないが……。

自分が、情けない。

どれほど無謀な賭けに、皆をつきあわせるつもりだった。

「ちなみに、カズっち。オーガの経験値はオーク6体分だから……5人パーティでカズっちがレベル45になるためには、オーガを684体倒さなきゃダメ」

電卓を叩きながら、ミアがいう。

お前、リュックサックのなかにそんなものまで入れてたのかよ。

「無理、だよね」

「ああ。……すまん、冷静さを欠いていた」

「ん」

ミアが、ふんすと胸を張り、ぼくの頭に手を伸ばしてくる。

背伸びしてもいささか丈が足りないため、頭を下げてミアに撫でさせてやった。

ミアはそのまま、両手でぼくの頭を抱え込み、胸に押しつける。

「なんの真似だ」

「おっぱいでカズっちを慰めようと」

残念だが、まな板を擦りつけられても困るのだ。

「気持ちだけ受け取っておこう」

「傷ついた!」

「どうしろと」

見ればアリスとたまきが笑っていた。

これは、あれか。

ミアは冗談でぼくのミスをごまかしてくれたわけか。

敵わないな、とミアを見れば、無表情で首をかしげ、「おかしい。カズっちはもっとわたしに萌えていい」とぶつぶつ呟いていた。

やっぱこいつ頭がおかしい。