作品タイトル不明
第121話 オーガ・ファランクス4
「白い部屋を出たら、雪野さんには本校舎に戻ってもらおうか。向こうとの連絡もあるし。……アリス、雑魚オーガの方は、なんとかなりそうかな」
「はい、啓子さんがすごくて……。大勢に囲まれても、背中に目があるみたいに反応して、避けて、リフレクションするんです。わたしなんて、囲まれないように逃げて、チクチクするしかないのに」
いや、きみの対応が普通だから。
オーガが混乱しているときならともかく、そこから立ち直りつつあるいま、無理をする必要なんてないから。
それに、啓子さんの戦法が通じるのは、せいぜいキャプテンくらいまでだろう。
その上、神兵級には無力だ。
きみとは得意分野が違うだけなのだ。
そういったことを、ざっと説明してみた。
啓子さんも、「そうなのよー」とうんうんうなずいている。
このひとマイペースだなあ。
「わかりました……」
アリスはまだ、首をひねっていた。
いやまあ、彼女が感覚的に理解できないのも、わからないでもないけれど。
肩を並べて戦っていれば、いつかはわかってくれるだろう。
「じゃあ、そのまま無理はせずに、オーガたちを引きつけておいて」
倒せ、とはいわない。
こっちが相手にしているキャプテンを倒せば、雑魚は勝手に逃げていくと思う。
雪野さんが離脱しても、なんとかなるくらいの戦況になっている。
そのまま、啓子さんが雪野さんを時間をかけて慰める。
なお、アンモニア臭が漂っていることについては、誰も口にしなかった。
ミアがいなくてよかったと、心の底から思う。
雪野さんには、白い部屋から出てすぐ、パーティを離脱し、本校舎に戻ってもらうことにする。
オーガたちも、いまは手一杯だから、雪野さんを追う暇はないだろう。
「ごめんなさい、あの、わたし……っ」
「充分ですよ、雪野さん。一番キツい戦闘の初期段階で、たっぷりと活躍してもらったし」
なんとか泣き止んだものの、申し訳なさそうにうつむく雪野さんに、ぼくはそうフォローする。
いちおう、向こうが上級生なんだけど……。
ここまでくると、もはや年齢より戦闘経験の方がずっと重要だからなあ。
和久:レベル29 付与魔法5/召喚魔法8 スキルポイント7
※
白い部屋から戻り、戦闘再開。
雪野さんが立ち上がり、よろめきながらも本校舎に向かって走っていく。
オーガたちが彼女には見向きもしないことを確認し、安堵する。
さて、あとはキャプテンとメイジを殲滅する手順だけど……。
風エレに翻弄されていたメイジ四体のうち、二体までもが、一気に高度を下げる。
ちっ、気づいたか。
メイジたちは、二体で風エレを引きつけておき、残る二体で後衛のぼくとルシアを狙う作戦に出たのだ。
正直、いまのタイミングで雪野さんを下がらせることができて、よかったと……。
ぼくが思った、直後。
地上に降り立ったメイジ二体が、氷の飛礫を連続してぼくたちにぶつけてくる。
「リフレクション」
「ブライト・シールド」
ギリギリで、間に合った。
ぼくとルシアは、それぞれ半透明の盾を生み出し、一体の氷魔法を反射させる。
もう一体の攻撃は甘んじて受けることになるが……。
この程度なら、まだ耐えられる。
むしろ、攻撃を反射され、自身が放った氷礫を喰らったメイジの方が、おおきな悲鳴を上げていた。
図体だけはでかいくせに、だらしない。
ぼくと一緒に無数の氷塊を喰らったルシアは、どうだろう。
ちらりと横を見る。
額から血を流しながら、ルシアは無表情で、キャプテンに束縛魔法を放っていた。
「ルシアの覚悟完了っぷり、本当に頼もしいよ」
「ありがとう、カズさん」
続いて、ルシアはメイジたちにフレイム・ジャベリンを放つ。
紅蓮の炎に包まれた槍が、メイジの一体に突き刺さる。
さらに……。
「前衛を務めます」
ルシアは地面を蹴り、浮き足だった地上のメイジ二体に突進する。
おい、ちょっと。
ルシアは二体のメイジに向かって走りながら、腰のボーン・ウィップを抜く。
マナを流すことで鞭のようにしなる、魔導具の鉄鞭だ。
まがりなりにもこの世界の王族である彼女の場合、ちゃんとした剣士としての訓練も受けているんだよなあ。
メイジといっても、敵はオーガ、身長三メートルの筋肉質の身体だ。
それを相手に突進していく勇気は、ぼくにはない。
でもルシアは、巨人に対して臆せず挑む。
メイジ・オーガが杖を振り下ろすところにタイミングを合わせ……。
「ブライト・シールド」
火魔法ランク7、一瞬だけ生み出された炎の盾で、その攻撃を受け止める。
続いて、ボーン・ウィップを振るい、メイジ・オーガの足もとにしたたかな一撃を加えてみせる。
鋼鉄の鞭を喰らったメイジは、苦痛の呻き声をあげて膝をつく。
「エクスプロージョン・ボックス、エクスプロージョン・ボックス、エクスプロージョン・ボックス」
ルシアは、野球のボールほどの大きさがある黒い球体を生み出し、動きを止めたそのオーガの足もとに転がす。
火魔法ランク7、エクスプロージョン・ボックス。
その効果は……。
ルシアが素早く距離をとる。
もう一体のメイジ・オーガが、膝をつくオーガのそばで足を止め、彼女に氷弾を放つ。
直後。
「ファイア・ブレット」
ルシアの放ったランク1の弱い炎弾が、黒い球体のひとつに命中する。
黒い球体が、爆発を起こす。
爆発は連鎖し、大柄なモンスターの身体が吹き飛んだ。
エクスプロージョン・ボックスは、ぼくたちの文明の言葉でいって手榴弾、あるいは地雷だ。
本来は、発動時に指定したカウントの後、爆発する。
強い衝撃を受けた場合も破裂する。
だが地面に転がした程度では爆発は起こらない。
よってルシアは、二体のメイジ・オーガが足を止めた瞬間を狙ってファイア・ブレッドを放ったのだ。
相乗効果により、爆発はメイジ・オーガがまとっていただろう火レジを突き破り、二体のモンスターを絶命させる。
とはいえ、これでルシアの魔法は、ほぼ打ち止めのようだった。
さすがに肩で息をしている。
そして、ぼくたちは白い部屋に。
レベルアップしたのは、アリスとルシアだ。
また打ち合わせだけで、白い部屋を出る。
アリス:レベル24 槍術7/治療魔法5 スキルポイント5
ルシア:レベル17 火魔法7 スキルポイント6
※
戦いの趨勢は、決まりつつあった。
敵のメイジ、残り二体では、グレーター・ウィンド・エレメンタルに太刀打ちできない。
キャプテンは二体の風エレを相手に善戦しているものの、完全に切り崩せるわけではなさそうである。
啓子さんとアリスが、雑魚オーガを着実に倒していく。
あとは時間さえかければ、いい。
一体、また一体と雑魚オーガが宝石に変化していく。
オーガ一体につき、青い宝石が一個、転がる。
メイジ・オーガは、一体で青い宝石が二個だ。
アリスたちと戦うオーガは、もはや十体ほど。
いや、さらに一体倒されて……。
そこで啓子さんがレベルアップする。
「わたしは、そーねー。付与魔法を上げようかしらー」
啓子さんは、のんびりとそんなことをいって、付与魔法をランク5にした。
彼女はこれで、付与魔法に関してはぼくと互角だ。
前線でディフレクション・スペルが使えるのは、戦術的に見てとてもおおきいと思う。
啓子:レベル20 偵察5/付与4→5/運動2/肉体3 スキルポイント6→1
※
白い部屋から出たあと。
もはや戦意喪失したオーガたちが、一体、また一体と背を向け、森のなかに逃げ込んでいく。
アリスと啓子さんが、無防備なその背に一撃を加え、それぞれ一体ずつ倒すが……。
ここまででいい。
あえて追わないよう、指示を出す。
「ふたりとも、戻って!」
ぼくは、風エレに追い立てられるようにして地上に降りてくるキャプテンを睨み、そう叫ぶ。
いまさらながら、空は風エレにとってアドバンテージがありすぎると考えたのだろう。
メイジの援護があるならともかく、いまやそれも望めない。
キャプテンに呼応するように、一体の風エレに苦戦する二体のメイジも地上に降りてくる。
最後の抵抗とばかりに、ぼくとルシアめがけ氷の飛礫を連続して放ってくるが……。
決断が遅い。
ぼくに向かってきたキャプテンを、ルシアが最後のちからを振り絞ったフレイム・バインドで足止めする。
ぼくはリフレクションで氷の飛礫を反射する。
雑魚をすべて追い散らしたアリスと啓子さんが、キャプテンに襲いかかる。
弱っていたとはいえ、キャプテンはさすがだった。
アリスの一撃を肩で受け、それでもなお、啓子さんに対して反撃の一撃を繰り出す。
だが……それも、悪手。
「リフレクション」
啓子さんは、完璧なタイミングでその一撃を反射する。
キャプテン・オーガの持つ銀のハンマーは、そのまま跳ね返り、自身の頭部を破砕する。
キャプテンは、青い宝石4個に変化した。
一方、ぼくのリフレクションは、メイジ二体におおきく傷を与えた。
メイジたちが、よろける。
そこに、使い魔たちが追撃の雷を落とす。
二体のメイジが、断末魔の悲鳴をあげ、崩れ落ちる。
それは、彼らのリーダーであるキャプテンの絶命とほぼ同時だった。
戦闘終了とともに、ぼく、アリス、ルシアの三人がレベルアップする。