軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第117話 オーガ・ファランクス1

ぼくたち五人は、高等部のグラウンドの隅に布陣した。

背後は垣根で、右手にサッカーゴール。

昨日はグラウンドのあちこちに死体が転がっていたはずだが、いまは綺麗に掃除されている。

オーガたちが陣形を組んで攻めてきやすい場所だった。

だからこそ、あえてここで待つ。

数は、敵の方が多い。

でも、こちらにはルシアがいる。

ならば広域に攻撃できる、ひらけた地形の方がいいだろうと判断した。

それと、育芸館を一撃で破壊した、あの要塞砲。

育芸館の前の庭にひとが集まっていたから、それを殲滅するために放った一撃なのだろう。

もしぼくたちが暴れるなら、被害が本校舎に及ばない場所である方がいい。

問題は、あの要塞砲がぼくたちに狙いをつけてきた場合、どうやってかわすかだが……。

啓子さんが、ひとつ、提案をしてきた。

「タイミングを合わせてリフレクションでいいんじゃないかなー」

それができれば苦労はないよ!

と思ったけど、聞けば啓子さん、エリート・オークの振りおろしの一撃とか、蜂の尾針なんかをことごとくカウンターできるらしい。

彼女の動体視力は図抜けていると、結城先輩が太鼓判を押した。

あー、はい。

つまり、ぼくみたいにカウンターできるかどうかも怪しい人間はいらないってことですね。

……むしろ、啓子さんが異常なだけだと思うけど。

「じゃあ、砲撃がきそうなら、なるべく逃げて……それも無理そうなら、リフレクション、頼みます」

「任せなさーい! どーんと大船に乗ったつもりでいいのよー!」

啓子さんはえっへんと胸を張る。

まあ、期待するとしよう。

ちなみに啓子さんは、今回、白い剣を持っていた。

昨日の夜、ぼくたちが倒したジェネラルの剣だ。

いろいろあって、彼女が持っているのが一番、ということになったらしい。

そういや、ジェネラルの剣って、あの場に放置したままだったなあ。

育芸館組は、ほとんどみんな槍を使っているし。

たしかに、彼女が持つのが最適なんだろう。

さて、空飛ぶオーガ、三十体と少しの部隊は、森の上空を飛び、まっすぐぼくたちに接近してくる。

高さは二十メートルほど。

彼我の距離が二百メートルを切ったあたりで……。

「撃て」

「はい。……ファイア・ストーム」

ファイア・ストームは、火魔法のランク7だ。

ルシアはこれを、特殊能力の魔力解放を用い、MP三倍消費で放った。

対象は、上空から襲い来るオーガ。

オーガたちは適度に散開している。

互いの距離は五メートルほど。

まず間違いなく、魔法の攻撃を警戒しているんだろう。

ってことは、だ。

敵は、ここにいるぼくたちが無力じゃないことを知っている。

ただなんとなくこの山にやってきたんじゃなくて、ぼくたちがいるからこそこの山に来たということだ。

そんな敵集団に対して、まずはちから試しのつもりの一撃だったが……。

ファイア・ストームが、三十体以上のオーガ集団の中央に着弾する。

激しい爆発と共に、炎の雲が渦巻く。

「何体、倒した?」

ぼくのその言葉は、たくさん倒せていて欲しいというただの祈りにすぎなかった。

特段、誰かに確認を求めたわけじゃなかった。

だが。

「んー、二体だけみたいねー」

爆雲が晴れる前に、額に手をかざした啓子さんがいう。

げ、少なすぎる。

「直前に盾を構えていたわー。あとねー、高度を下げて森に入ろうとしてるわー」

なるほど、盾で防いだか。

森のなかに入るという退避行動は、想定内だ。

こちらとしては少しでも時間を稼ぎたいのだから。

「ルシアと雪野さんは、オーガが森から出てきたところで攻撃。数を減らすのと、時間稼ぎだ」

雪野さんは、現在レベル8。

火魔法ランク5と水魔法ランク1だという。

今朝から出現した蜂退治で一気にレベルを上げたらしい。

蜂には火魔法がよく効いたからなあ。

で、その雪野さんは、啓子さんが忍者部(非公認)とかけもちで入っていた陸上部(公認)の後輩らしい。

陸上部……丸メガネと三つ編みって文学少女っぽい記号だけど……。

いやまあ、そんなの漫画の記号だけど。

そんな雪野さんとぼくの目が合う。

雪野さんは、気まずそうに視線をそらした。

ああ、うん。

高等部のひとたちは、みんな、ぼくに対してこういう態度だなあ。

ぼくがシバにいじめられていた過去を見て、知っているからだろう。

いいけどさ。

気にするな、といってまわるのも面倒だし。

ぼくはサモン・グレーター・エレメンツでグレーター・ウィンド・エレメンタルを二体、呼び出し、これに定番の付与魔法をかけておく。

敵が空から攻撃してきたときには、使い魔に直衛となってもらわなければならない。

いまはミアがいないから、ほかのメンバーは空を飛べないんだよなあ。

まあ、敵が空を飛んでくるなら、周囲への被害や同士打ちを気にすることなくルシアが魔法をぶちこめる。

たいした弱点じゃない。

「森から出てくるわよー」

啓子さんがいう。

彼女がそういってから二、三秒すると、ぼくたちにもオーガの姿が見えてきた。

丸い盾をかざし、縦六列になって、規則正しく行進してくる。

「ああいう密集陣形って、ファランクスっていうんですっけ」

「そうねー。さっきもあの盾で魔法を防いでいたみたいよー」

なるほど、あの丸盾なら、上半身をすっぽり覆うことができる。

下半身を覆う皮鎧も、そこそこ火から身を守ってくれるのだろう。

「メイジがレジ火とか、かけてるかな」

「メイジ・オーガが各種属性に対抗する防護魔法を使うことは、よく知られています」

ルシアがいった。

ですよねー。

魔法使いがいる以上、それくらいは想定してしかるべきだろう。

ルシアからすると、だからこそ初撃で多くを倒したかったというところだろうが……。

いまここで十倍ファイア・ストームとかを放って、ルシアに過度のフィードバックが来られても困る。

なにより、敵にあまり手の内を見せたくない。

あの浮遊要塞にいるモンスターどものボスとは、いまではないにしても、いつか戦わなきゃいけない気がするのだ。

「とりあえず、普通にぶっ放してみて」

ぼくの命令で、ルシアがファイア・ストームを、雪野さんがファイア・ボールを放つ。

オーガたちが、ほぼ同時に、ぴたりと動きを止めた。

一斉に盾で身を隠す。

彼らの後ろから命令が下ったのか。

それは綺麗に統一された行動だった。

直後、激しい爆発。

爆風が晴れてみれば、倒れたオーガは一体もいない。

整然と並ぶ三メートルの巨人たちは、号令に従って前進を再開する。

「なるほど、ね。ルシア、ドレッド・フレアを」

「わかりました」

火魔法ランク6のドレッド・フレアは、見るものを恐怖させる特別な炎をつくりだす魔法だ。

ぼくたちには、全員、クリア・マインドがかかっている。

さて、これは……どうか。

はたして。

ゆらめく不気味な炎を見たオーガたちの動きが、ひどく乱れた。

どうやら、メイジ・オーガの魔法に、精神系の魔法に対策できるようなものはないようだ。

あるものは隊列を外れようとし、あるものは棒立ちになって立ちつくす。

ドレッド・フレアにかかったオーガは数体だけのようだった。

だがその数体の混乱は、組織だった行動を妨げるのに充分だったようである。

僥倖だ。

とはいえ、こちらの遠隔攻撃手段は魔法だけ。

ミアがいないいま、効き目の薄い火魔法であっても、これに頼るしかない。

「ルシア、雪野さん、とりあえず三発ずつ撃って。アリスと啓子さんは、左右から突入。三発目の直後に切り込んで」

手早く指示を出す。

ウィンド・エレメンタルはぼくたちの守りに使おう。

アリスと啓子さんが、左右に分かれて駆けだす。

同時に、ルシアと雪野さんは、火魔法を連続して放った。

さきほどと違い、オーガの隊列がひどく乱れている。

盾で爆風を防ぐことができず、直撃したオーガが二体、倒れ伏す。

ここで、雪野さんが「レベルアップしました」と告げた。

一瞬のあと。

ぼくたちは、おなじみの白い部屋に出現する。

今回、白い部屋の面子はいつもとだいぶ違う。

ぼく、アリス、ルシアはともかく、残りふたりは啓子さんと雪野さんだ。

雪野さんが、物珍しそうにミアベンダーを見ている。

「あ、そうか。雪野さんは、まだレベル10になってないんだっけ」

「は、はい。わたし、これでやっとレベル9……です」

なぜ、後輩のぼくに敬語。

しかも、露骨に目をそらす。

やーまー、これまでの経緯もあって、気まずいのはわかるけど。

だから、ここは……。

ぼくから歩み寄るべきだろう。

「気にしてないよ」

そういって、ぼくは後ろからアリスの肩を抱く。

アリスが「えっ、えっ、ひゃあ」と気の抜けた声をあげる。

「ぼくは一昨日までのことより、これからのことを大事にしたい。なにより、大切なひとたちを守りたい。あなたがそれに協力してくれるなら、ぼくも、雪野さん、あなたのために戦う」

「え、ええと……」

雪野さんは、少し頬を染めて、口もとに手をやり、おろおろする。

「そ、その、アリスさんと、恋人……なんですか」

「あ、うん、そうだよ」

雪野さんは、ぼくとアリスを交互に見る。

ジロジロ見る。

まじまじと見る。

「あの。おふたりって、もう、えっちは……してますよね?」

なぜいま、そんなことを聞く。

ぼくはポーカーフェイスをつくった。

でもアリスが、真っ赤になってうつむいた。

あかん、嘘がつけない子だわ。

いやまあ、別に隠してるわけじゃないし、いいけど。

「い、いえ、違うんです! ただ、その、やっぱり命のやりとりして、気持ちが高ぶって、そのあと白い部屋とかで長い時間、一緒にいるから、親密になるのかなーと! 高等部でも、カップルがいっぱいできちゃって、もうすごいんです!」

「あ、ああ、うん……そうなの、かな?」

物語だと、特に戦争ものとかで、戦いのあと気持ちが高ぶって、って話はよくある。

仲間と親密にならなきゃいけない、って意識も働くのかもしれない。

あー、そういえばギリシャかどっかで、ホモのカップルだけを集めた部隊とかあったな……。

なんかすごい強かったらしいよね……。

そりゃ、恋人を守るために互いが必死になるんだから、強いのも納得だけど……。

いや、ホモの話はいいんだ。

話を戻そう。

スキル・システムで戦っているぼくたちにとって、男女の壁はさほどない。

だから、恋人同士でチームを組む、というかチーム内部で恋人ができるというのは、結構アリなのかもしれない。

そう、だからぼくがアリスとたまき、両方と恋人なのもアリなんだ。

仕方ないじゃないか。

いまとなっては、ぼくにとって、アリスもたまきも大切なひとなんだから。

あとミアも、それとはちょっと違う意味で、とても大切なひとだ。

だからこれは仕方がない。

ぼくは悪くない。

自己正当化完了。

ま、それはそれとして……。

「とりあえず、しばらく休憩というか、時間をもらっていいかな」

ぼくはそういって、リーンさんからもらった二束の木簡の巻物を取りだす。

そう、専従契約の儀式について記された巻物と、リーンさんも契約できなかった上位の使い魔が記されているという巻物だ。

白い部屋って読書に便利だよね。