軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第110話 和平派

ぼくたちを襲撃した和平派の男の死体は、光の民の兵士たちが手際よく回収していった。

彼に殺されたハガンさんの遺体も、一緒に持っていかれた。

残された兄弟のもとに運ぶのだという。

なんだ。

彼にもまだ、生きている肉親がいたんじゃないか。

それなのに、死に急いで……いや、そのときはアリスの魔法で助かったわけだけど。

なのにそのアリスの行為も、結局は無駄だったのか。

やりきれない。

かぶりを振るぼくの服の裾を、ミアがちょいちょいと引っ張る。

「これからも、ひとはいっぱい、死ぬよ」

「思いつめたりは、しないよ。でも、ありがとう」

ぼくは彼女に、精一杯の笑顔を見せる。

ミアが、まじめくさってうなずく。

いつもみたいに冗談をいわないのは……彼女も、なんだかんだで少し堪えているからなんだろうか。

ミアの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。

なるべくちからを込めた。

ミアが「うーっ」と上目遣いに睨んでくる。

「カズっち、そこはぎゅっと抱きしめるところ」

「あいにくと照れ屋さんなので」

ぼくは首を振って、ルシアを見る。

ルシアが「参りましょう」とうなずく。

そうだ、いつまでも感傷に浸ってはいられない。

ハガンさんが望んでいたのは、モンスターを一体でも多く倒すこと。

その望みを叶えるためにも、いまはリーンさんのところに赴かなくては。

前回と同じ、木のうろのなか。

ぼくたちはリーンさんと向かい合って座る。

「最初に、こちらの不手際で和平派の襲撃を許したことをお許しください」

謝罪するリーンさんの声には元気がない。

どうやら、この本拠地でテロが起こったことにショックを受けているようだ。

ここに来るまでの警戒態勢も、いっそう、ものものしい。

兵士たちは、皆、ピリピリしていた。

あんな襲撃があったあとだ、無理もない。

「和平派、っていったい、なにものなんです。そもそもモンスターと交渉なんてできるんですか」

ぼくは質問を畳みかけた。

それになにより、一番聞きたいのは……。

「ぼくたちを襲った男は、マナかなにかで槍を大量につくり出して、操っていました。あれはなんですか」

「報告を受けましたが、おそらくは……特殊なモンスターが寄生していたのでしょう。詳しくは解剖の結果次第ですが」

人間と合体するモンスターってことか?

「あれはモンスターの特殊能力、なんですか」

「あなたがたを襲った男は、この地を警護する優秀な兵士のひとりでしたが、特別なちからの持ち主ではありませんでした」

あの男の身元ははっきりしてるのか。

それにしても、人間と合体……寄生するモンスターって、怖いな。

リーンさんの態度からすると、和平派にとっては常套手段なのかもしれないけど。

それにしても、これって親衛隊から裏切り者が出たようなもの、だよね。

そりゃ、リーンさんも気落ちするよなあ。

「その男が寄生したモンスターに操られていた、とかそういうことですか」

「無論、その可能性もあります。彼は、もともと前線に出て戦ってはいません。なにものかが最近、彼に接触し、悪しき種を蒔いたということになりましょう」

あの男にこっそり近づき、モンスターを寄生させたやつがいる。

あいつが意に反してぼくたちを襲ったのか、それとも望んで行動を起こしたか、それは現時点ではわからないけれど……。

どっちにしたところで、光の民は内部に不穏分子を抱えているということになるわけか。

しかも、ことが起こったのはリーンさんのすぐ近くだった。

不注意、ではすまないだろう。

かなり重大な問題である。

彼女が厳しい表情なのも、当然だ。

「現在、男の妻と娘を拘束し、事情を聞いております。尋問でなにかわかればよいのですが……」

「拷問?」

ミアがぴくっと反応する。

おい、どうしてそこで嬉しそうになる。

ほんときみは、不謹慎のかたまりというか、残念すぎるというか……。

「いいえ、魔法を使用し、真実のみを聞きだすという方法があるのです」

なるほど、それは便利でいいなあ。

ま、じゃあ情報の方は、今後の報告待ちか。

「では、リーンさん、次ですが……」

本題に入ろう。

ぼくは改めて座布団の上に座り直す。

ぴんと背を伸ばし、リーンさんと視線を交える。

「明日、世界が滅亡するって話について、詳しく教えてください。あと、どうすればそれを回避できるのかも」

「はい。お話いたしましょう」

リーンさんも、この質問が来るのはわかっていたのだろう、真剣にうなずく。

「そもそも、この世界、いえ、いまわたしたちがいるこの大陸は、五つの神殿に支えられて海に浮いているのです」

そして、語り始める。

まるで神話のような、ぼくたちがいま踏みしめる大地の物語を。

かつてこの世界に存在した陸地は、諸島群だけだった。

古き神々は、それぞれが己に似せて、眷族、つまり人をつくり出し、それぞれの支配する島に住まわせた。

人族も、エルフも、人族に獣人と呼ばれる光の民も、それぞれを産みだした古き神に似た姿であったということだ。

もっとも、どの古き神がどの種族を産みだしたかについては、伝承から失われてしまっている。

これら古き神々は、ずっとずっと昔にこの世界から去ってしまったからだ。

己を産みだした古き神々に見放されてからも、人やエルフや光の民は生き延び、栄え、数を増やした。

次第に、陸地が足りなくなった。

どの種族も、少ない資源を奪い合いうようになった。

ちょうどそのころ、この世界に降り立った、別の神々がいた。

彼らを、先にこの地を見捨てた古き神に対して、新しき神、あるいは単に神と呼ぶ。

そのうちの一柱、魔術の神ルゴールが、陸地の少ないこの地に暮らす人々を不憫に思った。

「汝らに大地を与えよう」

ルゴールはその言葉の通り、海底に眠る大地を浮上させた。

それが、いまぼくたちがいる、この大陸であるという。

ふたたび大地が沈まぬよう、大陸各地に、五つの楔が穿たれた。

ルゴールは、喜ぶ人々にただし、と忠告した。

「五つの楔のうち、三本が倒れれば、この大地はふたたび海に沈む。その余波で、周囲の島々も滅びる。この世界に住まうすべての陸の命は、滅びのときを迎えるだろう」

人々は五つの楔を五大神殿として、聖地として崇めた。

当然のことながら、どの種族も、それら聖地を汚すような真似はしなかった。

楔の神殿は、周囲の土地をマナ的に肥沃な状態へと変化させる。

必然的に、人はその周囲に集まる。

それらは文明の中心地として、長きにわたって栄えた。

だが……百年前、モンスターが現れてから、事態は急変する。

モンスターにとっても、この五大神殿は重要な施設であるようだったのである。

モンスターの軍勢は、五大神殿に攻め込んだ。

激しい攻防が続き……。

「五大神殿のうち、ロウンの地底神殿とガル・ヤースの嵐の寺院は、すでにモンスターの手に墜ちました。残るは聖都アカシャ、ハルーランの尖塔、そして……」

リーンさんは、一度口を閉じ、そっと目を伏せた。

ぼそぼそと、祈りの言葉のようなものを呟く。

顔をあげ、ぼくたちを見る。

「みなさんもご覧になったでしょう。この地の世界樹もまた、五大神殿のひとつなのです」

なるほど、とぼくたちはうなずく。

だからこそ、二万もの軍勢が攻めてきているのか。

いや、ほかに人類側の拠点があまりないから、ってだけかもしれないけど。

モンスターがあとひとつ神殿を奪ったあと、彼らがそれをどうするのか、世界がどうなってしまうのか、それははっきりとわからない。

とはいえ、それと神託の言葉を合わせて考えれば、なにか致命的なことが起こるのは明白。

進退きわまる状況で、なおかつこの三つの地点をひとつでも落とせば、その時点で人類の敗北が決定する。

この世界、マジで詰んでるなあ。

こんな状況、皆がとっくに絶望していてもおかしくない。

つまり……。

「リーン。こういった情報は、民には伝わっておりませんね」

ルシアが、かたい口調でいった。

ま、緘口令が敷かれているよな。

適切な判断だと思う。

「ええ。我々も、神託を受けてから情報を集め、ようやくこれらの伝承が真実であると確信に至ったのは、つい最近なのですから」

「それじゃ、いまの話は……」

「モンスターが、五大神殿を奪いなにをするつもりなのかについては、不明です。ただ、致命的なことが起こることだけは、間違いありません。そして……このままただ、抵抗を続けているだけでは、残る三つの神殿を守りきることができないというのも、たしかな計算なのです」

だからこそ、さきほど聞いた通り、反攻作戦、なのか。

不利を承知でも、打って出る。

問題は、その作戦内容だが……。

「作戦は二段階に分かれます。生き残った各人類拠点から兵力を捻出し、ロウンの地底神殿とガル・ヤースの嵐の寺院を奪還します。同時に、ハルーランの尖塔と聖都アカシャを、わざとモンスターにあけわたします。そして……ふたつの地のモンスターが神殿周囲に集まったときを狙い、濃いマナが集まるこのふたつの神殿を爆破します。計算では、爆発によって地平線の彼方まで広い土地が灰塵に帰します。たとえ神兵級のモンスターが多数、集まっていようとも、全滅させることができることでしょう」

なるほど、わざと城に敵を誘い込み、そこに爆弾を仕掛けておくわけか。

苦肉の策ではあるけれど、悪くないように思える。

で、それだけじゃ大陸の破滅だから、一度奪われたふたつの拠点を奪還するわけで……。

「奪われたふたつの拠点……その、地底神殿と嵐の寺院、でしたっけ。そこの楔が、もう使いものにならなくなっているという可能性は」

「神託の結果、現在のところ楔の機能に異常はない、という回答を得ることができました」

ああ、神さまに聞いたのか。

便利だなあ神さま。

「この世界樹は、残る拠点でもっとも守りが硬いゆえ、われら光の民は守りに専念することになりましょう。みなさんは、ふたつの楔の神殿を奪還するチームに入っていただきたく思います」

「そのへんも、転移門とかでさっといけるんですか」

「はい。すでに事前準備は整っています。目的地のすぐ近くに秘密の砦を築きあげております」

行動がはやい。

さっきぼくたちを呼んでみせたように、使い魔とかを利用するからか。

魔法って便利だな。

「すぐに決断する必要がありますか」

リーンさんは首を振った。

「みなさんの今後に関わることです。ほかの方々とも、そして山に残した方々とも相談のうえ、明朝に答えを聞かせてくだされば結構です」

なんか余裕の答えだなあ。

いや、まあ、向こうもわかっているってことか。

この作戦、ぼくらには乗るしか道が残されていないってこと……。

って。

待って、いまさらっと聞き捨てならないことをいったぞ、このひと。

「ぼくたちの山が見つかったってことですか」

「はい、ついさきほど」

リーンさんは微笑んだ。

うわー、それを先にいって欲しかったよ。

意地が悪いなあ。

違うか。

会談のなりゆきによっては、取引材料にしようとしていたってことか。

ぼくたちは、まだそこまで信用されていなかったってわけかな。

「みなさんが揃ってから、転移門をひらきます」

リーンさんはそういって、うなずいてみせる。

いやまあ、この件をさっと切りだしてくれたってことは、いまは信用してくれている……のだろうか。

よくわからない。