軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第104話 世界樹の森の戦い8

もとの場所に戻ってすぐ。

まだ熱気が押し寄せるなか、ぼくは視線をチャンピオン・アラクネに移した。

アリスが空中で身をひねり、いったいなにが起こったのかときょろきょろしているチャンピオンに刺突を繰り出す。

だがチャンピオンは、なにか異常を感知したのか、とっさに身をひねる。

アリスの槍は、チャンピオン・アラクネのわき腹をかするだけに終わる。

敵リーダーの皮膚が破け、青い血が四散する。

ほぼ同時に、たまきがレジェンドと交戦を開始していた。

赤黒い肌のアラクネは、空中のたまきが不完全な体勢から繰り出した一撃を、まるで彼女が見えているかのように避けてみせる。

レジェンドが口をおおきくあける。

まずい、蜘蛛の糸が来る!

たまきも、さすがにそれはわかっているのか、剣を振るった勢いで身体を回転させて軌道を変更する。

空中、広範囲に吐き出された蜘蛛の糸を回避……。

できなかった。

レジェンドの蜘蛛の糸は、ほかのアラクネよりはるかに広範囲に広がった。

たまきの逃げ道を完全にふさいでいた。

しかも、それらの糸は、やわらかく粘々しているわけではなかった。

槍のように鋭い鋼糸が、たまきの左肩と右のわき腹、それに右の太股を貫く。

たまきの押し殺した悲鳴があがる。

「たまき!」

「だいじょうぶ、こんなのっ」

たまきは身をひねり、鋼糸を無理に引き抜くと、そのまま空中でスピンしてレジェンドの背後に移動する。

レジェンドは、やはりたまきの動きが見えているのだろう、地面に降りた彼女に向き直り、赤黒い穂先を持った銀柄の槍を構える。

「アリス、そっちにエレを送る! 回復を……」

「はい、たまきちゃん!」

ぼくはファイア・エレメンタルとウィンド・エレメンタルに合図を送り、チャンピオン・アラクネのもとへ向かわせる。

チャンピオン・アラクネは、アリスとほぼ互角の攻防をしていたものの、二体のエレメンタルが殴りかかったことにより注意をそらされる。

アリスはその隙に数歩、距離を取る。

「レンジド・ヒール」

アリスの治療魔法によって、たまきの傷が癒えていく。

「よっしゃあ、これでいけるわっ」

たまきは勇んでレジェンドに打ちかかる。

そのタイミングで、周囲のアラクネたちが、一斉にぼくたちに視線を移す。

あ、グレーター・インヴィジビリティがきれたか……。

次の瞬間、背後でまた、おおきな爆発が起こる。

さっきよりはだいぶ規模が小さいが、それでも爆風でぼくが吹き飛ばされる。

ああ、これはルシアか……。

彼女の身体はだいじょうぶか、とスピンしながら確認してみれば、ふらつくルシアをミアが支えていた。

ミアはルシアを抱えたまま周囲のアラクネに風魔法ランク6のテンペストを使う。

魔法の暴風が、蜘蛛人間たちを吹き飛ばす。

ミアはルシアを抱えたまま、ぼくの方へ飛んできた。

「ん。メイジは全部、片づいたはず」

「そうか、お疲れ。あとはチャンピオンとレジェンドだけど……」

アリスとたまきの方を向く。

アリスは、エレメンタル二体と共に、チャンピオンを確実に追い詰めつつあった。

だがたまきは、レジェンド相手に防戦一方である。

幸いにして、周囲のアラクネは、あまりに高次元の戦いに介入の隙を見つけられないでいるが……。

そのアラクネたちが、一斉に上空のぼくたちを見る。

蜘蛛人間たちが弓に矢をつがえる。

ですよねー。

「ミア」

「テンペスト」

突風が巻きあがり、数十本の矢は、ぼくたちに到達する前にあらぬ方向へ飛んでいく。

とはいえ……これはまずいな。

もう全員で離脱してしまうか。

だとしても周囲のかく乱は重要だ。

まずは作戦通りに、仕込みを行うべきだろう。

「ミア、ルシア」

「ん。ポイズン・スモッグ」

「はい! ドレッド・フレア」

ミアとルシアが連続で魔法を放つ。

毒の雲がアラクネたちのもとに出現する。

さらに、ゆらめく青白い炎があちこちに出現する。

それを見たアラクネたちは、武器を取り落とし、恐慌状態となって三々五々、逃げ出す。

火魔法ランク6のドレッド・フレアは、幻影の炎を出現させ、それを見てしまった者に対して著しい恐怖心を抱かせるという魔法だ。

こういった戦場では、たいへんおおきなちからを発揮する。

現在のルシアのMPでは、使えてあと四回。

とはいえ、ここで出し惜しみはなしだ。

「気絶するまで使ってくれ」

「はい」

ぼくの指示通り、ルシアは連続してドレッド・フレアを使う。

過酷な命令に、文句ひとついわない。

銀髪のエルフは、五個目の炎を出したあと、ちから尽きて全身を脱力させる。

「重い。カズっち」

「わかった、ぼくに貸して」

ぼくは、ミアからルシアの身柄を引き渡され、弛緩したその身体を支える。

やわらかい少女の身体の感触。

それと、汗の臭い。

「興奮する?」

「それどころじゃない」

意地を張って嘘をつきつつ、さて、と周囲を確認し……。

ファンファーレと、レベルアップを告げる声。

どうやら、ミアの毒雲がモンスターを倒したようだ。

白い部屋で、ぼくたちは互いの無事を確かめる。

たまきは、レジェンドの鋼糸や不気味な槍の攻撃を何度も受けそこない、全身から血を流していた。

アリスがそのつど治療魔法をかけているものの、じり貧の様相である。

アリスはあまり傷を負っていない。

二体のエレメンタルと共にチャンピオンを圧倒している。

ただ、たまきのフォローとして時折、レンジド・ヒールを入れているせいか、チャンピオンに対して決定打を出せていないようだ。

ルシアはぐったりしている。

ミアとぼくは、特に支障がない。

ただしぼくのMPは、かなり枯渇してきている。

「とりあえず」

とミアがいう。

「がんばったルシアちんへのご褒美に、カズっちの膝枕を進呈しよう」

なぜおまえが仕切る。

そもそも、きみやアリスやたまきならともかく、ルシアはそんなことで喜ばないだろう。

と思ったら……。

「それが褒美だというのでしたら、喜んで受け取るとしましょう」

ルシアは、恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。

いやまあ、喜んでくれるならいいんですけどね。

正座して、ぐったりしたルシアの頭を膝に乗せる。

透き通るような銀の髪の毛は、びっしょりと汗に濡れて貼りついている。

身体つきも、アリスやたまきよりいっそう、女らしい。

特に腰のあたりが丸みを帯びている気がする。

ひとことでいって、ちょっと性的にアレです。

そう、アレ。

ぼくは必死で、余計なことを考えないようにする。

「そういえば、ルシアって何歳なんだ」

「数えで十七になります」

数え年とは、生まれたときを一歳、その翌年の正月から二歳、と数える方法だ。

ぼくも数え年だと十七になる。

つまり、彼女とぼくの年齢は同じだ。

そのことを伝えると、ルシアは、はにかんだ笑みを浮かべた。

「わたくしは、同年代の者と会話する機会が少なかったのです。嬉しく思います」

「リーンさんは?」

「光の民の寿命は、わたくしたちよりだいぶ長いのですよ」

ああ、そういうひとたちなんだ。

つまりロリバ……。

「ロリババア!」

ミアが叫ぶ。

ああ、こいつ本当にもう!

いや、ぼくも同じこと考えたけどさ、口に出すなよ……。

「でも精神的には、あまり変わらないんじゃないか」

「リーンは、幼いころから予言の使い手として特別な訓練を受けてきましたので、普通の同年齢の者とはだいぶ……それをいえば、わたくしもですが」

「なるほど、まわりに特殊なひとしかいなかったと」

ぼくたちは全員、普通の学校に通っていたんだから、特殊じゃないよなあ。

いや、そもそも現代人にとっての特殊じゃないと、このファンタジー世界の人々にとっての特殊じゃないは、だいぶ違うかもしれないけど。

「ん。とりあえず、ルシア。いまさらだけど、友達」

ミアがそういって、右手の人差し指を差し出してくる。

「人差し指と人差し指で触れ合えば、光って宙に浮く。ユウジョウ!」

待て、それは宇宙人とのプロトコルだ。

あと最後のはネオサイタマのプロトコルだ。

ルシアはきょとんとした顔で、しかしつきあいよく、ミアと人差し指をくっつける。

もちろん光なんて発生しないし、宙に浮きもしない。

友情は……発生した、のかなあ。

「やはり自転車がないとダメか……」

「翻訳がうまくいってないようですが、それはみなさんの世界にある道具ですね」

「うん。リーンさんがぼくたちの山を見つけてくれたら、ルシアも一緒に戻ってくれるか? だいぶオークに壊されたかもしれないけど、まだ使える自転車が残っていると思う」

「はい。楽しみです」

よし、とぼくはうなずく。

この戦いが終わったからって、彼女を手離したりしない。

もちろん、戦力的な意味で。

やー、だって、ねえ。

この超火力は、もうやみつきですよ。

いまさらリーンさんが返せっていったって、返してやるもんかですよ。

じゅるり。

あ、よだれが。

なんてことを考えていたら、ルシアがくすりと笑った。

「ご心配なさらずとも、わたくしは、みなさんと共に最後まで戦わせていただくつもりです」

「あー、考えていることが顔に出ていたか」

「この程度は、最初から予想がついておりました。いえ、むしろ、わたくしがみなさんにとって必要不可欠な戦力となることが必要だったのです」

それは……リーンさんがぼくたちにつける、猫の首に鈴、的な意味でかな?

あるいは、ルシア。

きみ自身の目的に関わることだろうか。

はたして銀髪紅眼の少女は、またもぼくの考えを盗み読みしたかのように、口もとだけで笑う。

「わたくしは、モンスターと戦うために生み出された存在です。故郷が失われ、守るべきものがなくなっても、想いだけは残ります」

それは、ぼくにはやはり、長月桜のような無謀な想いにしか思えなかった。

自殺と紙一重の行動に近いのではないのかと……。

まあ、いいだろう。

充分に休憩し、打ち合わせを終えたあと。

ぼくたちは、白い部屋を抜ける。

和久:レベル28 付与魔法5/召喚魔法8 スキルポイント5

とにかく、まずチャンピオンを倒すこと。

それが不可能なら、迅速に逃走する態勢を整えること。

ぼくがやらなきゃいけないのは、その見極めだ。