軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第103話 世界樹の森の戦い7

いまぼくはレベル26だから、なにも召喚していないときの最大MPは260。

ランク8の使い魔、火エレと風エレを召喚しているから、最大値が128削れて、最大MP132。

さらに、ついさっきまでインヴィジブル・スカウトが召喚されていた。

ほかにもちまちま魔法を使っていたから、実際のMPは60強まで削れている。

ランク8の使い魔をもう一体召喚することは、断念せざるを得ないだろう。

ぼくのMPは付与魔法にも使わなきゃいけない。

一応、道中で風エレにもキーン・ウェポン、フィジカル・アップ、マイティ・アームをかけてある。

さらに火エレと風エレの両方にクリア・マインドとスマート・オペレイションをかける。

どうやらメイジ・アラクネの魔法は小技系が多いようなので、クリア・マインドはその対策だ。

また各種グレーター・エレメンタルは攻撃魔法も使えるので、スマート・オペレイションで火力増加を狙う。

エレメンタルの魔法は、攻撃魔法ばかりのようだが、遠距離火力が増えるのはおおきい。

ぼくはディフレクション・スペルをミアに使う。

ミアは全体化されたフライをかけなおす。

さらにもう一度、ディフレクション・スペル。

ミアが、今度はグレーター・インヴィジビリティをかける。

これは激しく動いても姿が消えたままという、インヴィジビリティの強化版だ。

しかし持続時間は、ランクにつきたったの六秒から九秒。

現在のミアで、最短四十二秒、最長でも六十三秒しか保たない。

だが、それだけあれば充分だ。

ようは、敵中を突破して、メイジとチャンピオンのところまで辿り着ければいい。

シー・インヴィジビリティがかかっているぼく以外は仲間の姿すら見えなくなるから、互いに手を繋いでおくよう指示する。

サイレント・フィールドはいらないだろう。

戦場はひどくうるさい。

最後に、ディフレクション・スペルからのヘイスト。

全員の身体が輝く。

でもこの輝きが見えているのは、ぼくひとりだ。

「出発!」

ぼくは宣言する。

ミアとルシアが手を繋ぎ、先頭に立って飛び出す。

ぼくはアリス、たまきと手を繋ぎ、その後を追う。

二体のエレメンタルは、なんとなくぼくの方向がわかるのか、黙ってついてくる。

高さ二十メートルほどを飛び、戦場を横切る。

アラクネたちの上空を風のように過ぎ去る。

メイジとチャンピオン、レジェンドの姿は、すぐに発見できた。

ミアとルシアが、近くの頑丈そうな木の枝にとまる。

ルシアが精神を集中し、魔力解放を起動する。

魔力解放には、少し時間がかかるという。

数秒が経過する。

ルシアの周囲で、強い風が吹いたような気がした。

それを感じ取ったのか、ミアは慌てて自分も魔法の使用態勢に入る。

予定よりちょっと早い。

でも仕方がない、メイジ殲滅は最重要課題だ。

ぼくたちは、ミアとルシアの上を飛び越え、メイジの頭も越えてチャンピオンに肉薄する。

「いけ、たまき、アリス」

囁き、手を離す。

アリスとたまきは、さらに加速し、一直線にチャンピオンへ突っ込む。

ぼくはくるりと振りかえり、火エレと風エレに静止を命じる。

二体のエレメンタルを盾にして……。

「ファイア・ストーム」

先にルシアの魔法が放たれる。

メイジたちの至近距離で、巨大な爆発が起こる。

爆炎が吹き荒れた。

直後にミアもライトニング・アローを放ったはずだが、あまりにも炎の爆発がおおきかったせいで、まったくわからない。

それどころか、すさまじい爆風がぼくのもとに押し寄せてくる。

幸いにして、ファイア・エレメンタルがその身を呈してぼくをかばってくれた。

周囲の木々が、爆発の衝撃で根こそぎ吹き飛ぶ。

爆風は、至近距離にいた雑魚アラクネも巻き込んだ。

何体かのアラクネの手足がちぎれ飛ぶさまが見える。

そうして転がったアラクネの身体が、ほかのアラクネに衝突する。

アラクネの頭が、床に落ちたトマトのように潰れる。

連鎖的に被害がひろがる。

地面がめくれあがり、土煙がまいあがる。

すげぇ、これが魔力解放つき魔法の威力か。

十倍のMPを消費するとはいえ、この威力なら……。

あ、ぼくがレベルアップした。

白い部屋にて。

ぼくたちは顔を見合わせる。

口をそろえて「レベルアップした」と告げる。

「全員レベルアップですか……」

アリスが苦笑いする。

聞けば、ルシアの魔法の衝撃で自分とたまきまで吹き飛ばされ、チャンピオンに先制攻撃を仕掛けられなかったのだという。

「申し訳ありません……」

「ん。あれはしゃあない」

ミアがいう通り、ルシアを責めるのは酷だ。

誰もあんな威力は想像できない。

それに、あんなすさまじい爆発の中心にいたのだ、敵のメイジはほぼ全滅だろう。

そうじゃなきゃ、こんなに莫大な経験値は入らない。

と、ルシアが身体をよろけさせた。

ぼくは、慌てて彼女を支える。

あ、この子、案外おっぱい大きいかも?

いや、それはいいんだ。

見ればルシアは顔色を真っ青にさせていた。

大粒の汗をかいている。

「どうしたんだ、ルシア」

「どうやら……魔力解放が……」

ミアが、ぴゅーっとPCのもとまで走っていき、椅子に飛び乗る。

猛烈なスピードでキーを叩き始めた。

画面を見てうなずき、こちらに振り向く。

「ん。カズっち、魔力解放はMPが減るだけじゃない。副作用があるって」

「そういうことは先に教えておいて欲しいよなあ!」

「わたしたちが、調べなかった。それだけ」

うん、まあ、その通りだ。

ぼくたちが間抜けだった。

「ルシアはだいぶ疲れているみたいだけど、ペナルティはそれだけか?」

「そのひと次第、そのとき次第っぽい。強い痛みが走るとかも、あるとか。あんまり何度も最大で使うと、痛みで死ぬ恐れもあるって」

「最大……倍率十倍でなきゃ、大丈夫なのか」

「MP消費の倍率を下げれば、ペナルティも減少」

なるほど、それはいいことを聞いた。

いまのところ、こいつを最大でぶっぱなすのは、いくらなんでもオーバーキルだしなあ。

しばらく荒い息をついていたルシアだったが、やがて「もう、問題ありません」とぼくから離れる。

「わたくしはレベルがふたつ上がりました」

改めて、ルシアが報告する。

一気にレベル14になったという。

半端ないな、ほんと……。

まあ、そのおかげで彼女はひどい苦痛を覚え、さらにMPもかなり削れてしまった。

さっきまで最大MPは120だったはずだが、それをこの一撃で60も消費している。

一気に半減だ。

その甲斐はあった。

充分に。

アラクネの魔術師たちは、ただの一撃で壊滅状態のはずだ。

正直、ルシアのこの魔法で雑魚を掃討するのが一番効率のいいレベルアップ方法じゃないかと思えてくる。

敵が範囲攻撃を想定せず、かなり密集していたのもおおきいけど。

しかもこれで、ルシアのスキルポイントが7になった。

火魔法のレベルをさらに上げられる。

この戦闘ではもう無理だが、次はもっと派手な爆発を起こせるだろう。

と思ったけど、いまざっと調べた限りじゃ、ランク7は直接的な範囲攻撃魔法がないのか……。

残念だ。

いまの爆発でも充分って気はするけど。

「ほかには……アリスが槍術をランク7にできるな」

「はい。これでやっと、カズさんの使い魔より強くなれます」

あ、それ気にしてたんだ。

そりゃそうか……。

ぼくは苦笑いして、アリスの頭を撫でてやる。

アリスはくすぐったそうに、眼を細めて笑う。

ああ、いいなあ。

ずっと撫でていたいなあ。

「カズっち、いちゃいちゃするなら全員と」

「まあ落ちつけ」

ずい、と頭を差し出してくるミアを押しとどめる。

「いちゃいちゃして気分転換するのはいいけど、まず打ち合わせが終わってからにしよう」

「ん。……チャンピオンを倒せないっぽい?」

「そのへん、どうだ」

たまきとアリスは顔を見合わせた。

「わたし、レジェンドの方に飛ばされちゃって……まだ接触してないけど、たぶん気づかれたわ」

たまきがいう。

「ごめんね、カズさん。失敗しちゃって」

「いや、不測の事態は仕方がない。こうして状況をまとめる機会ができただけでも、よしとしよう。そうだな、じゃあもう、たまきはそのままレジェンドと交戦してくれ。倒さなくていい、押さえこむことだけを考えるんだ」

一方アリスは、位置的にチャンピオンの方が近そうだった。

爆風でバランスを崩しているようだが、彼女ならなんとか体勢を立て直せるだろう。

「ぼくの火エレと風エレも、アリスの援護に出す。三対一で、素早くチャンピオンを倒すんだ。幸いにして、まだぼくたちの姿は消えている。多少の奇襲効果は見込めるだろう」

「はい、カズさん」

問題はその間、周囲のアラクネがどう動くか、だが……。

「ミア、ルシア。きみたちはまず、生き残りのメイジがいたらそれを叩かなきゃいけない。いや……それじゃヌルいな。ルシア、生死の確認なんていらないから、もとの場所に戻ったら、同じ場所に五倍でファイア・ストームだ。……悪いが、痛みは耐えてくれ」

「それは構いませんが……よろしいのですか。ランク6の魔法を五倍で使えば、わたくしの残りMPは30になります」

「構わない。最悪、メイジだけ倒して逃走してもいい。でもメイジを残すのだけは、絶対にダメだ。あいつらは、一体でも生き残れば、アリスやたまきの脅威になる。……ぼくの行動指針について、どう思う」

「一貫していて、たいへんによろしいと考えます」

うん、ぼくもこれが最善だと判断している。

火魔法の小技もないことはないけど、それ以上に直接的な範囲火力がいまは重要だ。

あとはミアが小技でフォローしてくれればいい。

「ミア、アラクネがチャンピオンの援護をしようとしたら、ポイズン・スモッグやテンペストで時間を稼げ。倒さなくていい。邪魔をすることに専念だ」

「ん。……チャンピオンだけでいいの? たまきちんとレジェンドの戦いに介入する敵は?」

「たぶんだけど」

と前置きして、ぼくはにやりとする。

「たまきとレジェンドの戦いなんて、ちょっと人外すぎる領域になるだろ。そんなの割りこめるやつがいるとは思えない。下手をしたら、レジェンドの邪魔になりかねないだろうし」

「あー。ん、そうかも。や、アラクネはそもそも人外だけど」

そういうツッコミはいらないから!

とはいえ、まあ。

そういう感じで、ぼくたちの作戦はおおむね決定した。

「チャンピオンを倒したら、迅速に戦場を離脱する。グラビティで牽制して……ほかも臨機応変に頼む。ああ、そのころまでにはもう一度、誰かがレベルアップしているかもしれないけど」

「すでに一度、全員があがってる。レベルアップはしばらくないかも?」

どうだろうなあ。

いまの爆発でどれだけの敵を倒したか、さっぱりわからないからなあ。

「いちおう、ルシアちんのドレッド・フレアで敵を追い散らすのもアリ」

火魔法のランク6、ドレッド・フレアは、炎の幻影を見せて相手の恐怖を煽る魔法だ。

炎を見た者すべてを怯えさせ、場合によっては逃走すらさせてしまう。

これは敵味方問わずだから、使い方が難しい。

とはいえぼくたちにはクリア・マインドがかかっている。

今回、敵軍の中心部で使う分には、問題はないだろう。

「そんな感じで、速攻をかける。戦いの途中でも、ぼくが指示したら撤退開始。いいね」

全員がうなずく。

ぼくたちは所定のランクアップ処理を行い、もとの場所へ戻る。