軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇009 店舗召喚2

皇族の方々との初対面の次の日、目覚めると右手の紋章に変化が現れていた。

「れ、レベルアップ……?」

丸い紋章の外側に、時計の文字盤の数字のように模様が一つ増えている。確かレベルアップするたびにこの模様が増えていき、ぐるりと囲まれて紋章が大きくなるんだよね。

これは間違いなくレベルアップしたと見ていいだろう。だけどなんで?

「まさか好感度が上がったから、レベルアップした……?」

ゲームでは攻略対象の好感度が一定値を超えるか、いろんなイベントをこなすことでレベルアップしていた。

まさか昨日の出会いでエリオットの好感度が上がって……!?

……いや、ゲームの 主人公(エステル) でも出会っただけでこんなに好感度が上がることなんてなかったぞ?

エリオットの反応もそんな感じじゃなかったし、自分がそこまで傾国の美女だとはとても思えないし。

好感度以外のなにかがきっかけになっているのだろうか。

それ以外というと……エステルとの出会い? 確かに 主人公(エステル) と悪役令嬢との出会いはスチルもあるイベントのひとつだけど……。

それともただの偶然で、単にずっと召喚し続けていたからレベルアップしただけ?

うーん……。考えてもわからない。ま、まあレベルアップしたことを喜ぶとしよう。

さて、これでどんなことができるようになったのだろう。

新しい店舗を召喚できる……だよね? 駄菓子の新商品じゃないよね?

さっそく呼び出してみようと庭に向かおうとすると、お父様に止められた。なんで?

「サクラリエルの新しい【店舗召喚】がどんな店を呼び出すのかわからないからね。今、庭に教会の『試しの間』と同じ結界を張る工事をしているんだ。三日ほどで完成するからそれまで待ってくれないかな?」

説明を聞くと、結界には範囲内に収まらないほどの召喚の場合、自動的に召喚をキャンセルする機能もあるらしい。

公爵家の庭がかなり広いとはいえ、万が一大型店舗なんかを召喚して、お母様が丹精込めて作り上げた庭園を壊してしまっては申し訳がない。

逸る気持ちを抑え、私は結界ができるまで待った。

次はどんな店かな……。あ、コンビニがいいな! 久しぶりにおにぎりが食べたい! お弁当もあるよね! おでんとか肉まんとか……あ、あれは冬限定だから呼び出す時期がズレるとないかも……。

でも夏なら夏で、フラッペとか冷やし中華があるかも!

そんな期待に胸を膨らませていた私のところへ、次の日、エステルから手紙が届いた。

王都におけるユーフォニアム家の屋敷を世話したことのお礼と(あれはお母様がしたことだが)、律儀に渡した駄菓子の感想を一つずつ書き添えて。

どうやらエステルは最後に渡したラムネ菓子が気に入ったらしい。あー、あれ一個しか渡さなかったからな……。

私はエステルへ返事の手紙を書いて、一緒にあらゆるラムネ菓子を詰めた袋を送ることにした。

「お嬢様、レッスンのお時間です」

「はーい……」

手紙を書き終えて一息ついていると、メイドのアリサさんが呼びに来た。

アリサさんは十九歳。少し赤みを帯びた髪をボブカットにしている、私専属のメイドさんだ。

なんでもメイドギルドという一流のメイドを育て上げる機関から派遣されてきたらしい。

その中でもさらにエリートなのがアリサさんである。普通は皇王家などに派遣されるそうだが、一応うちも皇族なので。

見たことはないけど、戦闘も一流らしいよ。このアリサさんと騎士のターニャさんが基本的に私の護衛となる。

大袈裟な、と思わないでもないけど、一度誘拐されている身としてはなにも言えない。まったく記憶にないんだけどね……。

基本的に私はかなり自由にさせてもらっている。けれども、やはり貴族となったからには逃れられないものがいくつもあって、ダンスもそのうちの一つだ。

貴族令嬢ともなれば、いくつもの社交場へと出向かなければならない。娘がダンスの一つも踊れなければ、恥をかくのは両親であるお父様とお母様だ。

本音は面倒くさいけど、そこは頑張ってレッスンに従っている。あの二人に恥をかかせるわけにはいかない。

幸い、というか、子供にしては(中身が大人なので当たり前だが)飲み込みがいいということで、アリサさんには褒められている。

私は単純な性格だから、褒められると調子に乗ってしまい、レッスンを真面目に受け続け、今ではなかなか様になってきた。

これでどんなパーティーに出ても問題ないと太鼓判を押されたほどだ。やったね。まあ、子供たちのパーティーだろうけれども。

乗せられた気がしないでもないが、まあ良しとしとこう。

なんでも一ヶ月後にエリオットの誕生日パーティーがあるらしい。そこで私も初めて公爵令嬢として世間にお披露目となるのだ。下手な姿は見せられない。気合いを入れねば。

ただエリオットの誕生日パーティーってことは、王都にいる同年代の貴族の子女が集まるということで。

つまり『スターライト・シンフォニー』の主要キャラと遭遇する確率がグンと上がるんだよね……。

とりあえず、真っ先に浮かぶのはエリオットと同じ攻略対象である、ジーン・ルドラ・スタッカート。

シンフォニア皇国騎士団総長の息子。伯爵令息でもある。エリオットとジーンは護衛と護衛対象という関係でもあったから、間違いなく誕生パーティーには呼ばれているだろう。

しかしこのゲームの登場人物って音楽関連用語が多いよね……。うちも『フィルハーモニー』だし。まあ、覚えやすくていいけど。

タイトルからして『スターライト・シンフォニー』だからな。

かといって音楽が重要視されているストーリーでもないんだけれども。BGMは良かったけどね。単にわかりやすいってだけで付けられたネーミングなんだろう。

ジーンはよく言えば天真爛漫、悪く言えば考えなしのお馬鹿、というキャラだ。戦いにおいては天才的なセンスを持つ。ちなみに『ギフト』は【炎剣】という、わかりやすく炎を剣に纏わせたり、飛ばしたりできる『ギフト』だ。

戦闘では頼りになる。戦闘では。

それ以外だとどこか抜けていて、そこがかわいいと人気のキャラだった。私としては少しイラッとするところだったのだが、好みは千差万別ってことね。

残りの攻略対象は学院に行くまで地方や国外にいるはずだから、会うことはないと思うけど。

問題は『他の悪役令嬢』だ。

『スターライト・シンフォニー』での前半メイン、及び、エリオットルートの悪役令嬢はこの私、サクラリエルだ。

だけど、エリオット以外のルートに 主人公(ヒロイン) が入った場合、それを邪魔する人物が出てくる。いわば個人ルートの悪役令嬢である。

例えばジーンの場合、同級生の女性騎士を目指している少女、ビアンカ・ラチア・セレナーデがそれに当たる。

彼女は幼馴染みで天衣無縫なジーンを憎からず想っていて、ジーンと仲良くなっていくヒロインに嫉妬するのだ。

そしてなにかと勝負を挑んでくる。詳細は省くが、騎士団絡みのイベントなどをこなし、最終的にはビアンカはジーンとヒロインの仲を認め、身を引く……というのがジーンルートのトゥルーエンドだが……。

この 少女(ビアンカ) 、失恋はするが五体満足平穏無事にエンディングを迎える。同じ悪役令嬢なのに私と扱い違くない?

さらにジーンルートではストーリー後半でヒロインに恥をかかされ、学園での地位を失いつつあったサクラリエルが、逆恨みで魔獣を無差別召喚して暴走するイベントもあるのだ。

それをヒロインとジーンが討ち果たすっていうね……。あ、ちなみにこれだと私、呼び出した魔獣に喰われて死んでます。一番嫌なルートだよ! ムシャムシャは嫌ァ!

……でも私の『ギフト』はもう【獣魔召喚】ではなく【店舗召喚】だしな。ムシャムシャルートはもうないと思うんだけれども……それでも不安は拭えない。

やっぱりジーンとビアンカ、あの二人には会いたくはないなぁ。

まあ、それはそれとして。

「パーティーか……。仮にも皇太子の誕生日なんだから、何かを贈った方がいいのかな?」

お父様からの話によると、エリオットは未だに六面パズルに夢中で、暇さえあればガチャガチャ回しているのだそうだ。え、まだやってんの? と私は驚いた。

まだ揃えられないのか、という意味ではなく、まだ放り投げていないのか、という意味でだ。

諦めが悪いのか、根性があるのかわからないが、よほど気に入ったのだろうか。あれ以上の贈り物というとどうすればいいのやら。

似たようなものだと、駄菓子屋に売ってた知恵の輪があるけれども。だけどこれ、六種類しかなくて、しかもそこまで難しくはないからな。六面パズルと比べたら簡単すぎるかな。

ここは男の子の定番、プラモデルでいくか? ロボットアニメのプラモデルなら騎士の人形に見えなくもないし。組立説明書も絵がメインだからなんとなくわかるんじゃないかな。駄菓子屋に売ってるのは私が子供の頃よりもさらに古いアニメのだけれどさ。

そんなことを考えていたら、あっという間に庭の工事が終わり、新たな店舗を召喚できるようになっていた。

頼みますよ、サモニア様……次はコンビニで!

「次はどんなお店なのか楽しみね」

「僕はお酒が売ってる店がいいなあ」

私の背後でお父様とお母様が私以上にワクワクしている。確かコンビニにお酒もあったよね。酒屋さんとかそれオンリーだとちょっと私は楽しめないかなあ。

二十歳になったとき、何回か先輩との付き合いでお酒も飲んだし買ったけど、そこまで好きじゃなかったからさ。

お父様が喜んでくれるならそれでもいいけども。

よし! じゃあ呼び出しますかー!

『ギフト』を自分の中で起動させると、明らかに駄菓子屋じゃない存在がある。これをこちらへ呼び出せばいいんだな。よーし。

「【店舗召喚】!」

まばゆい光が公爵家の広い庭を包む。まぶしくて目を開けていられない。

光が収まってから私が目を開くと、そこにはまた見慣れた光景が存在していた。

古びた瓦屋根に青い暖簾。普通の一軒家にはない、長い煙突。極め付けに暖簾に白抜きで書かれた『ゆ』の一文字。これって……。

────銭湯だ。間違いなくこれは銭湯だ。しかもこれって小学生の時の同級生、エミちゃんちのおばあちゃんがやっていた銭湯、『藤の湯』じゃないか!

駄菓子屋と同じく、こちらの『藤の湯』も私が中学生のころ廃業した。なに? 私の『ギフト』、廃業した店舗しか呼べないとかのルールでもあるの!?

「さ、サクラちゃん、これは?」

「えっと、お風呂屋さん……みたいです」

私はお母様にそう答えるのが精一杯であった。

アー、ビバノンノン。