軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇058 白き護衛獣

「……知ってる天井だ」

目を開けると見慣れた私のベッドの天蓋が見えた。あ、天井じゃないや。間違えた。

さっきのは夢? 創世の女神様たちに会って話をしたような……。

「いっづ!?」

起き上がろうとしたら全身に痛みが走った。ぐぁ~……これって身体強化の反動だよね……! やっぱりきたかぁ……!

だけど前のよりは痛くない気がする。なんでだろ? 暗黒竜の時よりさらに強い身体強化を使ったのに。

起き上がるのを諦めて、再びぽすんとベッドに沈み込む私。

「お嬢様!? お気づきになられましたか!?」

「アリサさん?」

呻く私を発見したメイドのアリサさんがこっちへ駆け寄ってくる。いや、大丈夫だから。そんなに慌てんでも。

「すぐに旦那様と奥様にお知らせを!」

「は、はい! わかりました!」

アリサさんの声でそばにいたもう一人のメイドさんが慌ただしく部屋を出ていく。

やがてドタドタとけたたましい何人もの足音とともにお父様とお母様が部屋に飛び込んできた。

「サクラリエル!」

「サクラちゃん!」

「いだぁ!?」

涙ぐんだ二人が私に抱きついてくる。動かされた筋肉に私が悲鳴を上げると、二人ともパッと離れてくれた。

「ご、ごめんなさいね! サクラちゃんが気が付いて嬉しくて……!」

「だ、大丈夫です。動かすと筋肉が痛いだけなんで……」

そんなに喜んで貰えると悪い気はしないが、大袈裟だなぁ。二人とも心配症だから仕方ないか。

「一週間も意識が戻らなかったからみんな心配してたんだよ。私もアシュレイもなにかあったらと不安で……」

「はぇ?」

お父様の言葉に私の口から間抜けな声が漏れる。

一週間? 一週間ってどゆこと!? 私、一週間も寝込んでいたの!?

お父様の話によると、騎士団本部で倒れた私はすぐにここに担ぎ込まれ、医者に診てもらったり、回復魔法を施されたりしたらしいが、身体に全く異常はなく、なのに目を覚さないという状態になっていたらしい。

一週間も寝てたのか……そりゃ心配もするわ。どうりで筋肉痛が軽いわけだ。いや、一週間経ってもこの痛みってヤバい気もするけど……。

「それで身体の不調はないのかい?」

「はい。全身が痛みますけれど、これは前と同じ筋肉痛だと思います。数日もすれば動けるようになるかと……」

「その身体強化は使わない方がいいね。まだ成長期の君の身体が耐えられないんだ。今回はこの程度ですんだけれども、次はもっと昏睡する可能性もある」

「そうですね……わかりました」

お父様の忠告に私は素直に頷く。使う気はなかったんだけどさ……。あの場でなんとかディスコードを止めないといけなかったから……。

両親を心配させるのは私だって本意ではない。身体強化レベル2はしばらく封印だな。

それに昏睡状態になったのは聖剣の身体強化のせいかな? 女神様たちにあちらの世界に呼ばれたからなのでは? と思う自分がいる。

果たしてあれは夢だったのか? うーむ。

「「サクラリエル様!」」

私がそんな益体もないことを考えていると、バンッ! と扉を開けて、ステレオで叫びながらエステルとビアンカが部屋に飛び込んできた。

そのまま私に飛び付かんばかりに駆け寄ってきたが、両手を広げたお母様にブロックされる。

「サクラちゃんは今すっごい筋肉痛だから抱きつくのはダメよ?」

先ほど私に抱きついたお母様の言葉に、二人はハッと気がついたようにこくこくと頷く。

「すみません、お目覚めになられたと聞いて居ても立っても居られず……」

「どこも異常はありませんよね? なにかあるなら私が治しますから!」

「大丈夫よ。前と同じであと数日も寝てれば完全に治るわ」

あまりにも心配する二人に大丈夫だと笑ってみせる。顔の筋肉まで筋肉痛じゃなくてよかったよ。

それから私は倒れた後のことをみんなから聞いてベッドの上で過ごした。

結局あんなことがあったので、試合は中断、そのままお開きとなり、優勝者は無しということになった。

グロリアは憑き物が落ちたかのように大人しくなったそうだ。ただひとつ、ディスコードのことを思い出すのか、抜き身の剣を見ると異常なほど怯えるようになってしまったらしい。

ディスコードに取り込まれたことがトラウマになってしまったのかもしれない。剣に触れられないのでは、騎士として身を立てることはもはや不可能だろう。

ディスコードの入手経路は違法な物を取り扱う闇市場だったとか。グロリアの父である第二騎士団長が娘可愛さに違法と知りつつ手に入れたという。

むろん、このことが明るみになったことで、彼は団長から降格された。それだけではなくこの度の騒動も含めて、グロリアのバルカローラ家は爵位を落とし、男爵位となった。

まあ、あの場にはエリオットもいたしね。下手すりゃ次期皇王陛下が大怪我、あるいは亡くなっていたかもしれないわけだし。

騎士団の人たちに大きな怪我はなかった。それはよかったのだけれども、騎士団の危機を小さな身を挺して救った『聖剣の姫君』の名声がまたしても上がってしまった……。

あれだけの目撃者がいると、たとえ公爵家、いや皇家の力を持ってしてもその噂を止めることはできなかっただろう。

また噂に尾鰭が付くんだろうなァ……。

ふと右手を見ると、またサモニア様の紋章がレベルアップしていた。

これはたぶん黒騎士のイベントをクリアしたからなんだろうなぁ……。エリオットの時と同じく、こっちも十年前倒しで終わらせてしまった。と言うか、本当は私じゃなくてエステルとジーンが終わらせるんだけれども。

それともう一つ、気になる紋章が左手の甲に浮かんでいた。

大きさは右手のサモニア様の紋章と同じくらい。

お父様たちの話によると寝ている間に現れたらしい。

この紋章のせいで目覚めないのでは? と、お父様が教会に問い合わせたそうだが、教会でもそんな紋章は記録にないと言われたそうだ。

だけど私はこの紋章は創世の九女神の紋章ではないかと疑っている。

少し大きな円のまわりを八つの小さな円が囲んでいる。これは『九曜紋』だ。

これは九つの星を表す。地球では星は運命を司るものとして古来より信仰されていた。

やはりあれは夢じゃなかった? 女神様たちの言う通り、この世界は『スターライト・シンフォニー』の元になった世界なのか。

リンゼヴェール様が言ってた加護ってのはこれのことなんだろう。どんな加護なのかさっぱりわからないけど……。

あ、念じたら消せるね、この紋章。変に目立ちたくないからよかった。

とにかく一通り話を聞いた私は、まだ筋肉痛があるので休ませてもらった。

あと二日くらい寝てればたぶん動けるようになるだろう。

気を遣ったみんなが部屋を出ていき、私は再び眠りについた。

そういえば女神様が『護衛をつける』って言ってたけど、あれってなんだったんだろ?

神様の護衛……天使でも遣わしてくれるんだろうか……。そんな馬鹿なことを考えながら私はうとうとと眠りの世界へと誘われていった。

◇ ◇ ◇

「……っ、ひぃ」

『静かに』

深夜。なんとなく目を覚ました私が見たものは、こちらを覗き込む翡翠色の二つの目であった。

人じゃない。虎だ。真っ白い大きな虎がベッドの横からこちらをじっと覗き込んでいる。

なんで私の部屋に虎が!? というか、喋ってなかった、この虎!?

『そなたがサクラリエル殿か?』

「は、はひ、そ、です……。あの、そちら様は……?」

恐怖に掠れる声で私は虎に話しかけた。言葉遣いからしてかなり知性があるように思える。すぐに私を食べたりはしない……んじゃないかな……。

『リンゼ……リンゼヴェール様とサクラクレリア様よりそなたの護衛を命じられた。四神獣が一、名は琥珀という』

「あっ、女神様たちの!?」

その言葉を聞いて、私は全身の緊張が解けていった。女神様の手配した護衛ってこれかぁ……。びっくりした……。もっと普通に現れてよ!

それにしても虎を護衛にって……。そんな危険があるのだろうか。

確かにサクラリエルの破滅ルートには、武力や暴力での死もあったけども。あ、この子の背中に乗せてもらえれば追っ手とかから逃げられるかもしれないな。

私はまだ痛む身体をゆっくりと起こす。いてて……。

「えーっと、琥珀さん? 琥珀さんが私を護衛してくれるの?」

『うむ。お二人からそう言われたのでな。久しぶりに地上で暮らすのも悪くはないかと思い、引き受けた』

なんだろう、片手間感があるな……。地上でのバカンスのついでに、みたいな感じがするんだけども。

『おおよその話は聞いている。神獣の力は神の規定により地上では使えぬが、まあ、問題はない。 我(われ) が来たからには大船に乗った気でいるがよいぞ』

おお、なんか知らんが自信たっぷりだ。これは頼もしい。

でも虎が家の中をうろつかれるとみんなびっくりすると思うんだ……。

『相変わらず人間は細かいことを気にするのだな……』

そう呟くと琥珀さんは、ポンッという軽い音と共に、まるでぬいぐるみのような小さな子虎の姿に変化した。

『これで問題はあるまい?』

「うわ! かわいい!」

ベッドにぽすんと落ちてきた琥珀さんを、私は思わず抱き上げてしまった。

猫みたいだけど手足は太くがっしりとしている。そこがまたキュートで素晴らしい!

「これならちょっと変わった猫ってことでうちでも飼えます!」

『猫ではない、虎だ!』

くわっ! と口を開けて琥珀さんが反論するが、そんな仕草もまたかわいい。これはぬいぐるみ化待ったなしだね!

でも喋る猫ってのはちょっと変わってるってレベルを超えているか……。

『我も召喚された存在には変わらぬ。サモニア様の加護を授かり、神獣の召喚獣を呼び出したとでも言っておけばよかろう』

「やっぱり創世の女神様のことは話さない方がいいのかな?」

『話しても構わぬとは思うが……。こちらの世界にある信仰組織がお主を放っておかんと思うぞ? 間違いなく聖女などに祭り上げられると思うが』

「よし、黙っとこう」

冗談じゃない。今でさえ『聖剣の姫君』などと目立つ存在にされているのに、これ以上、分不相応な肩書きなんかいるか!

創世の九女神様たちは『教会』でも謎のヴェールに包まれている。その女神様に会ったとか加護をもらったとかバレたら、確かに聖女道まっしぐらだ。冗談じゃない。

琥珀さんの言う通り、左手の紋章はサモニア様の加護ってことにしとこう。平穏が一番だよ。

もっとも私の平穏のためには次々と破滅フラグをへし折っていかないといけないわけだけど……。

はぁ、道は遠いな……。