軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇131 女神様の呼び出し

「あっ、あの、 下界(した) で突然私が消えたりして大騒ぎになってませんか?」

『小さき 主(あるじ) よ、心配するな。意識だけが呼ばれているだけだ。下界の時は動いてはおらん。なにも問題はない』

いつの間にか横にいた琥珀さんが、私の疑問に答えてくれた。

「久しぶりじゃな、琥珀。下界を満喫しておるか?」

『は。久しぶりにのびのびとさせていただいております』

のびのび……? 琥珀さんって私の護衛だよね? 下界に降りるって、完全にバカンス感覚なんだろうか……?

「えーっと、それで今回はなんで呼ばれたんでしょうか……?」

「なに、そなたらが教会に来たので挨拶をとな。いろいろと頑張っておるようじゃし」

いや、そりゃ頑張りますよ。自分の破滅に関わってくるんだから……。

「上から見てたけど、なんかまた変なことに巻き込まれているようね」

「どうしても因果は巡ってくるから……。頑張ってね、サクラちゃん」

リーンベルテ様は面白そうに、リンゼヴェール様は心配そうにこちらを見ている。

変なこと、って、ジェレミー先生ルートのことか? って、上から見てたんかい。

私の心を読んだのか、ユミナリア様が苦笑しながら口を開く。

「私たちのミスで貴女はこちらの世界へ来てしまったようなものですから。せめて見守るくらいはしないと……」

「それに貴女の行動は斜め上で面白い。攻略対象の先生に胸ぐら掴んで絡んだのは最高だった」

「それは忘れて!」

サクラクレリア様の言葉にあの時の恥ずかしさが蘇ってくる。いや、違うんですよ、あの時はあまりのショックに暴走してしまってね!?

「プライバシーの侵害って言葉は神様の世界にはないの……?」

「ないこともないが、適用されるのは同じ神族だけじゃなあ」

ガックリと四つん這いになる私にスゥティアラ様が笑いながらそう答える。くそう、上位存在め。

こっちはパメラ先生を助けるためにいろいろと頑張って……って。

「あっ、あのっ! パメラ先生が死んでしまう原因ってなにか教えてもらえたりは……!」

「えっと……ごめんね。それをしてしまうと、完全に神託ということになって、サクラちゃんは『九女神の巫女』って運命のレールに乗ってしまうの。そうなってしまうと、そこから運命を変えるのはさらに厳しくなるから……」

リンゼヴェール様が申し訳なさそうな顔をして答えてくれた。『九女神の巫女』? それって【聖女】に認定されてしまうってことか……?

それはできれば避けたい。下手したら福音王国に連れて行かれてしまうかもしれないし……。

「ズルはできんということじゃな。運命を変えたければ己の手で変えねばならん。お主は今までもそうしてきたじゃろ? 信じよ、されば道は開かれる」

「厳しいなあ……」

ええぃ、やったるよ! やってやりますよ! やりゃいいんでしょ!? 後で文句言わないでね!

「なんで逆ギレしてんのかしら……。まあ、ちゃんと注意深く見守っていれば、何かしらの異変には気がつくと思うけどね。後は貴女たちの頑張り次第よ」

リーンベルテ様がちょっとヒントっぽいことを口にする。見守っていればってのは、パメラ先生をだよね? なにかパメラ先生、あるいはその周囲に異変が起こる。それはすぐにパメラ先生の生命を奪うものじゃなくて、幾ばくかの猶予がある。それに私たちが間に合えばパメラ先生は助かる……ってことなのかな。

「私からもアドバイス」

「あ、はい」

サクラクレリア様が真剣な顔でぴっ、と指を一本立てる。なにかまたヒントをくれるのかしら? 私はピッと背筋をまっすぐに伸ばしてありがたいお言葉を待つ。

「もうちょっとギターを練習した方がいい。あと、この世界の人たちに意味はわからないだろうけど、歌もちゃんと歌った方がいいと思う」

「そっちっスか」

パメラ先生生存ルートの話じゃなかった。いや、音楽と歌の女神様からしたら気になるんだろうけども!

だけど歌はなあ……。そんな下手じゃないとは思うけど、あれって男性の歌だから、女の子の私が歌っても、軽い感じになるような……。

「そんなことない。歌い方次第でどうにでもなる」

「聞かせてあげたら?」

「ん」

リーンベルテ様の言葉にサクラクレリア様が立ち上がって一歩前に出る。え? 歌うの?

アカペラでサクラクレリア様から放たれた、伸びやかで美しい歌声が私の鼓膜に飛び込んできた。

それはいろいろな感情を呼び起こすような、とても切なくて、それでいて希望に満ちたような……。

この気持ちをなんと表したらいいのかわからない。わからないけど、とても心に響く。

『そばにいてほしい』。その切なる願いが、祈りが、私の胸を打つ。

その歌声に自然と私の目から涙がポロポロと溢れた。

「────こんな感じ」

歌い終わったサクラクレリア様に、私は無意識にぱちぱちと一生懸命に拍手をしていた。ブラボー! すごい! さすがは女神様なだけある。お菓子ばっかり食べてる、マイペースなのんびり女神様じゃなかった。私の中でサクラクレリア様の株がうなぎのぼりだ。

「なにげに失礼」

「す、すみません!」

ジトッとしたサクラクレリア様の視線に思わず頭を下げる。しまった、心を読まれた!

「のんびり女神か。案外的を射ているのではないか?」

「そうね。基本面倒くさがりだし、いつもはダラッとしてるしね」

「もう、二人とも。言い過ぎですよ!」

笑い合っているスゥティアラ様とリーンベルテ様に、ユミナリア様が、めっ、とお叱りを入れる。

だけどもすごい歌だった。歌でこんなに感動したのは初めてだ。

「ただ凄すぎてとても真似できそうにないんですけど……」

「真似する必要はない。歌詞の意味をよく理解して、感情を込めて歌えばいい。声の強弱、高さ、抑揚を使い分けるのが大事」

サクラクレリア様がそんなアドバイスをくれる。感情を込めて、か。なるほど……。

一人考え込んでいると目の前がぼんやりと霞がかってきた。

『小さき 主(あるじ) よ。時間のようだ』

「おっと、帰る前にわらわの加護も与えておかんとのう。ユミナ姉様のとは違って、使えるヤツじゃ。感謝せいよ」

「なっ!? スタンプカードだって役に立ちますー!」

薄れていく意識の中で、ユミナリア様とスゥティアラ様って姉妹だったのか。どうりで似てると思った……と、どうでもいいことを私は考えていた。

◇ ◇ ◇

『小さき 主(あるじ) よ。戻ったぞ』

「はっ」

琥珀さんの声に目を開けると、いつの間にか礼拝堂に戻っていた。いや、戻ったんじゃなくて、初めからここにずっといたのか。

一瞬、今のは夢だったんじゃないかという疑問が浮かんだが、琥珀さんも認識しているし、何より私の中にスゥティアラ様がくれた加護があるのをはっきりと感じた。

【在庫保管】……これってアレだ、アイテムボックスってやつだ。私の持ってる四次元ポシェットと同じようなやつ。

私のポシェットは入口より大きいものは入らないけど、この【在庫保管】は大きなものも収納できるらしい。さらに異空間で分別もできるんだって。倒壊した建物の瓦礫を収納して、石、木、ガラスなんかに分けられるみたい。確かにこれは便利だ。

さらに収納した物の時は止まり、腐ったり冷めたり溶けたりもしないんだ。これは使える。ありがとうございます、スゥティアラ様!

さすがに生き物や召喚したキッチンカーを収納とかはできないみたいだが。

これで女神様からもらった加護は、【入店禁止】【店内BGM】【営業延長】【スタンプカード】【在庫保管】の五つになった。

残り四人の女神様からも貰えるんだろうか? これ、バレたら完全に聖女ルートまっしぐらだな……。

だから女神様たちも、私の『ギフト』の副次効果と言えるような加護にしたんだろうけどさ。

教会からの帰り道、馬車の中でお父様とお母様に【在庫保管】の話をすると、やはり驚かれた。

「これはもはや、もう一つの『ギフト』をもらったようなものだよ」

実際に、収納系の『ギフト』持ちはそれなりにいるらしい。ただ、時間が止まったり止まらなかったり、容量が大きかったり小さかったりと、人によってまちまちなんだそうだ。

自分で収納はできないが、収納できる魔導具を作れる『ギフト』ってのもあるらしい。私のポシェットなんかはそういう『ギフト』持ちによって作られた物だそうだ。

私の【在庫保管】はどれくらいの容量があるんだろう? ポシェットは六畳一間ほどだったけど。

帰ってから確認してみたが、だいたい十倍ほどの大きさだった。ううむ、名前からして大倉庫くらいの大きさを期待していたけど、普通の倉庫ぐらいだったか。

それでも私の店舗の商品をいくつか入れておくのには役にたつ。私の店って場所によっては呼び出せないからなあ。

面白いことに、どうやら収納されている時は体積が圧縮されているようで、空のダンボールの箱なんかを収納すると、その箱の体積ではなく、潰したダンボールの体積分しか使わないみたいだった。空間部分は容量に取られないってことだ。

だから思ったより物を入れておくことができる。

かといってなんでもかんでも入れてたらあっという間にキャパオーバーしちゃうから、よくよく選ばないと。プラモデルとかぬいぐるみは入れなくてもいいような気がする。

ただそうなると、食べ物ばっかりになりそうなんだよなぁ……。

まあ食べ物だって、入れておく必要があるかっていうと微妙なんだけども。ぎっしり食べ物を入れたせいで、何かを収納することができない! なんてことがないようにしないとさ。半分くらいは空けといた方がいいかも。便利な力だけど、もうちょっと検証してみないとわからないな。