軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇127 ポイント特典3

「さっむ!」

起きてすぐ、あまりの寒さに驚いた。

貧民街(スラム) よりはマシとはいえ、久々の寒さに布団にもう一度潜り込みたくなる。

私の布団の中で丸くなる琥珀さんを起こさないように、窓の方へと向かい、カーテンを開けると一面の雪景色が広がっていた。

「うわあ、積もったなあ……」

皇都は私が住んでいた町よりもそこそこ雪が降るとは聞いていた。

ストラム先生の授業によると、この世界の気候は地球のように赤道から遠ざかるほど寒くなる、というような常識はなく、精霊の住まう地により変化する、とのことだった。

つまり、氷や雪の精霊が住むところは寒く、火や熱の精霊が住み着くところは暑いといった感じに。

精霊は滅多に住処を変えないので、それ以外のバランスが取れている土地にはきちんと春夏秋冬がある。 皇国(うち) もそれだ。

ティファの女王国なんかだと、火の精霊が多いため、年中暑い。冬は少し涼しい、というレベルなんだとか。

逆にリーシャの帝国の方だと、雪や氷の精霊がやや多いため、皇国より冬は寒いとか。

だから例年より暑かったり寒かったりするのは、精霊がいつもより多くその地に訪れている、と見られているらしい。今年は雪や氷の精霊が多くやってきたのかもしれない。

やがてアリサさんと律がやってきて、着替えと共に暖炉に火を入れてくれた。

暖炉は好きだ。パチパチと爆ぜる音を聞きながら、揺らめく炎を眺めていると、なんとなくリラックスして、ボーッとしてしまう。

「今日は寒いので上着を一枚羽織りましょうか」

「ん」

アリサさんに言われるがまま、いつもより一枚上着を多く着る。公爵家だからといって、エアコン全完備なんて状態ではない。部屋は暖炉などがあってそれなりに暖かいが、廊下はやはり冷える。

さらにいうなら部屋が広いため、なかなかあったまらないんだよね……。

夏もなかなか厳しかったが、冬もそれなりに厳しいよね。 貧民街(スラム) とは違って、凍死しないだけ遥かにマシだが。

お父様、お母様と朝食を摂っていたときに、エステルのユーフォニアム男爵家から遣いが来て、今日のユリアさんの剣術稽古とエステルの授業はお休みに、という申し出があった。

「この雪では仕方ないわね」

「さすがにサクラリエルのキッチンカーでも雪を掻き分けては進めないか」

お母様とお父様が苦笑しながらそんなことをのたまう。

そりゃね、除雪車じゃないんだから。ユーフォニアム男爵家に預けてあるキッチンカーもお昼には消えてしまうから、エステルたちは明日、馬車で来ることになるなあ。

ユーフォニアム男爵家のみんなが来ないので、必然的にビアンカも休みだ。ううむ、みんなで雪合戦とかしたかったな。

その後、お父様の希望でラーメン屋『豊楽苑』を呼び出すことになった。

私の呼び出す店舗はエアコンがついてるからね。どうせ仕事をするなら空調の効いた場所でやりたいのだろう。店内の設備なら使うことはできるので、夏は冷房で大活躍したエアコンは冬は暖房で大活躍だ。

寒い日のラーメンも最高だし。うん、お昼は味噌ラーメンといこう。

「あ、ポイントが貯まった」

今回の『豊楽苑』を呼び出したことにより、ユミナリア様からもらった加護である『ポイントカード』のポイントが貯まった。三つ目だ。また特典が貰える。

一つ目は遠くても聞き耳ができる『猫耳カチューシャ』。

二つ目は思っている愛を吐き出してしまう『告白飴』。

どうにもこの特典って、神様がお遊びで作ったアイテムとしか思えないんだよなあ……。いや、効果は凄いんだけども。

部屋に戻り、私がそんなことを漏らすと、足下にいた琥珀さんが言いにくそうに口を開く。

『まあ、その、神々は飽きっぽい方が多いのでな。作ったはいいが、そのまま放置、という物も多いのだ。おそらくユミナリア様がその中から、あまり地上に影響を与えない、魔導具レベルのものを小さき 主(あるじ) にくれているんだろう』

リサイクルってこと? 神々のガラクタを下げ渡されているわけか……。いや、すごいことなんだけどね?

「まあいいや。えっと、特典下さい」

ポン、とポイントカードから光の球が飛び出し、目の前にあったテーブルの上になにかが落ちてきた。これは……印鑑?

いや、違うな。あ、アレだ。手紙を封蝋する時、押すやつ。シーリングスタンプ、だっけ。

さらにその上に一枚のカードが落ちてきた。なにか書いてあるぞ?

「えっと、『転送シーリングスタンプ』……?」

このカードって説明書? ええと、なになに……このスタンプで封蝋した手紙はその相手の下へ瞬時に転送されます……って、え? コレって……。

一日に十回まで使用可能。使用者が会ったことのない人物には届けられない。宛名だけでいいの? 住所とかいらないのかな?

『おそらくはスタンプが送り手の思考を読み、転送場所を決めるのだろう。一般的に転移魔法などは、行ったことのないところへは行けなかったりするからな』

「なるほど。だから会ったことのない人には送れないのか」

知り合いにだけ送れる電子メールか。いや、電子じゃないけども。

便利は便利かな。一方的な転送だけども。

よし、ちょっと試しに書いて送ってみるか。私は机の引き出しからレターセットを取り出した。

『また特典をもらいました。一瞬で手紙を送れるシーリングスタンプだそうです。届きましたか? サクラリエル』

という手紙を書いて封筒に入れ、宛名を『クラウド・リ・フィルハーモニー様』と。

そして溶かしたシーリングワックスの上にスタンプを押す……。

スタンプは桜の花模様だった。いいね。私にぴったり。

「……転送されないけど? あっ」

なかなか転送されない手紙に首を傾げていると、唐突にフッ、と手紙が消えた。ワックスがある程度固まるまで転送されないのかしら?

さて、お父様に届いたかな? しばらく待っていると、バタバタと廊下を走る音が聞こえ、お父様とお母様が飛び込んできた。

「サクラリエル! これって……!」

「あ、届きましたか」

お父様の手には先程私が送った手紙が握られていた。

『豊楽苑』で仕事をしていたお父様の目の前に、突然現れたんだそうだ。

「宛名だけで差し出し人の名前がなかったから、警戒してしまったけど、スタンプが桜の花だったから、もしやと思ってね」

「ああ、そっか。ちゃんと私の名前も封筒に書かないと警戒されてしまいますね」

中身の手紙には書いたんだけども。

お父様とお母様に特典でもらったシーリングスタンプの効果を話すととても驚かれた。

「そのスタンプって僕にも使えるのかな?」

「どうでしょう? やってみます?」

お父様が皇王陛下に宛てて手紙を書き、スタンプを押したが、効果はなかった。どうやら私にしか使えないらしい。猫耳カチューシャはお父様にも使えたんだけどな。ぷっ、あの時の姿を思い出したら思わず笑ってしまいそうになった。

封蝋を剥がし、あらためて私がスタンプしたら、先程と同じように手紙が消えた。おそらくは皇王陛下のところへ転送されたのだろう。

「これはすごいね……。一日に十通、サクラリエルの会ったことのある人だけとはいえ、一瞬にしてその相手に手紙を送れるんだ。その効果は計り知れない……。これは兄上と相談する必要があるな……」

「え? そんなにですか?」

なんか話が大きくなってきたな……。だけど考えてみたらおかしくはないか。一瞬にして情報が送れるということは、なにに対しても先手を取れるということだ。その活用法は多岐に渡る。

どうやら今回の特典は当たりらしい。前回の『告白飴』はハズレっぽかったからなあ。

数時間後、雪の中を押して皇王陛下と宰相さんがうちまでやってきた。え、待って、そんなに?

皇王陛下たちにはポイント特典は店舗召喚の一部だという説明をした。

つまりはたくさん召喚しているから、召喚の女神サモニア様から貰えた召喚アイテムだと。

九女神様の話なんかしたら、本当に聖女にされかねないからね……。

そこからはお父様VS皇王陛下&宰相さんの交渉合戦だった。

転送できるのは毎日十通。何通まで使わせてもらえるのか、対価はどれほどか、などという交渉ですな。

私としてはここらへんはもうお父様に任せてる。私はスタンプ押すだけだし。

エリオットの誕生日パーティーとかで、国内の主だった貴族とは『一応』顔見知りではある。だからある程度は送れると思う。会ったことのない相手なら転送されないだろうし。

交渉の結果、私が個人的に送る手紙を優先し、その日の終わりに使わなかった残りの手紙分を転送して欲しい、という話になった。

要は『その日に余った手紙転送ストックを使わせてね』ということである。

私としては、寝る前にポンポンポンとスタンプすればいいだけなので何も問題はない。

転送については『レター・ポスト』なる、実在しない人物の『ギフト』ということにするらしい。ま、私の偽名ってことだ。変に探られても困るから念の為ね。

何通か送らせてもらったけど、名前はわかるが顔を全く覚えていない人物にも転送できた。どうやら会った記憶がなくても、その事実があれば送れるっぽい。

ってことは、町で、ちら、と見ただけの人でも、名前がわかれば送れるということか? 会ったっていうのかしら、それ?

視認することと、名前がわかること。その二つが条件なのかな。一方通行でしか転移できないってのがアレだけれども。

しかしこの転送システムにも穴はあって、その宛名の人物の目の前に転送されるということだ。

たとえば馬に乗って駆けている人物に送ると、当然受け取ってもらえない。まあ、『目の前になにか現れた』ということはわかるから、戻って拾ってくれるかもしれないけども。

馬車に乗って移動してるのなら問題はないのだが。

あとは、向こうの状況がわからないから、人混みの中に送られることもあるかもしれないし、大事な謁見中や会議中に送ってしまう可能性もある。

まあ、送るのは私が寝る前……だいたい夜9時過ぎとかになるだろうから、あまり問題はないかもしれないけどさ。