軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42 あまり知りたくなかった事実

今日も、ヴェルネリの作る料理は非常においしく、ユリウスと一緒においしいおいしいと絶賛しっぱなしだった。

だがその後ヴェルネリの報告を聞き、ライラは言葉を失ってしまう。

(……は? カロリーナが、オルーヴァの連中に協力していた?)

「あ、の、それって……どういうこと?」

「ヘルカが気付いていたのでしょう? 昨日届いたという、あなたの父君を名乗る者からの手紙……あれは偽装だったのです」

食後の茶を飲むライラは、ヴェルネリの淡々とした説明に目を瞬かせた。

(た、確かにヘルカは疑っていたし、実際偽物だったみたい。でも、それがどうしてカロリーナに……)

「その女は、あなたの父君直筆の手紙を持っていたようです。あなたに一泡吹かせたかった女は、ユリウス様に敵対心を抱くという者と接触し、あなたを連れ出すための道具としてその手紙を渡したそうなのです」

ヴェルネリはすらすら言うが、ライラの脳では少々理解が追いつかない。

そもそも、今朝早くにやっと屋敷に戻るとすぐにユリウスと一緒に寝て、二人とも起きたのが昼過ぎ。先ほど食べたのも時間としては昼食だが二人にとっては朝食で、まだ頭もしゃっきりしていないのだ。

「つまり、カロリーナは私のことがすごく憎くて、ちょっと脅そうと思って父さんの手紙を連中に渡したってこと?」

「そんなところです。昨夜、偽装した手紙のルートを追った結果その女にたどり着いたので、シメに行ったのですが……泣きながら自白しましたよ。こんなつもりではなかった、と」

ヴェルネリが言うに、学院時代からライラのことを見下していたカロリーナは、自分よりずっと幸せそうにしているライラを妬み、「ちょっと脅かそう」と思ったそうだ。

彼女は「ユリウスに敵対する者」を名乗る魔道士と接触し、かつてライラの父が結婚式の欠席連絡として送った手紙を渡し、ライラを屋敷の外に釣り出すための道具とした。

(あれ? でもあの時……)

「ヘルカに言われて私、蒸留室に隠れていたの。でもそこに押し入ったってことは、私のおびき出しに失敗したってことで……」

「ああ、はい。ですのでその女の手出しは無駄になったどころか、 徒(いたずら) に彼女の手を犯罪に染めることになってしまったのです」

ヴェルネリは「ざまぁないですね」とふふんと笑っているが、ライラはぎこちなく唇の端を引きつらせるしかできなかった。

「まさかオルーヴァの人間だとは思わなかった、戦争を起こさせるつもりはなかった、全てを明かすから許してくれ……そう泣きつかれた私の気持ち、分かります? 相手が男であれば、蹴り倒していたかもしれません」

「う、うん……その、迷惑を掛けました……すみません」

「なぜあなたが謝るのですか? あの馬鹿女が恐れ多くもあなたに嫉妬し、無知ゆえに戦争勃発の片棒を担ぎかけただけの話。……ああ、ちなみに私は司法関係ではないので放っておいたのですが、他にも勝手に色々ぺらぺら話していましたよ。どうやら彼女、ユリウス様に脅されていたようで」

「えっ」

思わず隣を見ると、それまで黙って茶を飲んでいたユリウスがこっくり頷いた。

「うん、そういえばそうだったね」

「お、脅したのですか!? ユリウス様が!? というか、いつの間に!?」

「僕だって、誰かを脅したのは人生で初めてだからどきどきしたよ。……彼女、リスト将軍の誕生会で余計なことを言ってきたんだよね。ただでさえ君を悲しませた夫婦の片割れなのに寄ってくるのが嫌だったから、ちょっと事実を言ったんだよ」

「……事実?」

「……彼女の腹の子の父親はヨアキム・カントラではなく、彼の兄である次期男爵だったのです」

ヴェルネリの言葉に、ついにライラは自分の耳がおかしくなったのかと思った。

(は、はぁぁぁ? 何、それ!?)

「どっ!? どういうことなの!?」

「あの女が惚れていたのは、最初から義兄の方――というよりむしろ、より強い権力だったということです。義兄嫁は病弱で子が望めそうにない。だから次期男爵の浮気相手であるあの女を弟の嫁にして、生まれた子を引き取る。あわよくば、兄嫁と離縁後に適当な理由を付けて女を義兄の妾扱いにする。……男爵でさえこの計画に賛成していたようですから、救いようがありませんね」

「う、えっと……どうしてユリウス様は、それを?」

まさか直接聞くわけはないだろうし、と思っていたら、ユリウスはため息をついた。

「魔力で気付いたんだ。ヨアキム・カントラはよく知らないけれど、兄の方は面識があった。彼女のお腹の子は確かに魔道士の素質があったようだけれど、魔力の気配が兄の方にそっくりすぎた。だからそれを条件にライラに手を出さないようにって言ったんだけど……脅し方、間違えたみたいだ。すまない」

「いえ、どう考えてもあの女に非がありますよ」

ヴェルネリが励ましているが、ライラは驚くやら悲しいやら呆れるやらで、頭の中がごちゃごちゃだ。

(カロリーナは……それほどまで、私のことが憎くて妬ましかったの? ヨアキムと結婚したのも全部計画のうちで、私たちはそれに踊らされていただけ……?)

魔力による検査の結果ユリウスの予想通り、腹の子の父親が義兄であると判明したのが今朝のこと。今頃カントラ男爵家内は大荒れで、おそらく長男も次男も近いうちに離縁するだろうと言われているそうだ。

ちなみにカロリーナの手の平で転がされていたヨアキムは妻の目論見と兄の裏切りを知り、目が覚めたそうだ。今後彼は、離縁する兄嫁の生活費を支払いながら兄とカロリーナの子を育てていくのではないか、とヴェルネリは予想しているという。

(……そう考えると、ヨアキムも私を裏切ってカロリーナに流れたとはいえ、被害者でもあったということなのかな……)

カロリーナの今後は司法に任せるしかないが、ヨアキムについてはどうにかうまくやればいいと思う。それに、兄嫁や生まれてくる子に罪はないだろう。

オルーヴァとのことも、国王たちがうまく処理してくれるそうだ。

ライラの誘拐やヘルカへの傷害について問い詰めるのは難しい、と使節団の代表者に謝られたが、その分オルーヴァへの「貸し」を大きくできた。無駄な戦争を吹っかけられたり「兵器」の子どもたちを生み出したりせずに済むのならそれでいいと、ライラたちも了承したのだ。

貪欲なオルーヴァはこれからも、レンディアを狙うかもしれない。

だが今回投げ込まれたものは必ず、レンディアを守る一つの礎になるとライラは信じていた。