軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14.招待状

その日の午後、仕事が一段落したころだった。

シオン様が書類の束の中から一通の封書を取り出した。

「セレス、ちょっといい?」

「はい」

「これ」

差し出された封書を受け取る。封蝋に押された紋章は王家のものだった。

「……王族からですか」

「うん。夜会の招待状」

開封して、中を読んだ。

丁寧な文面だった。しかし内容は明快だ。

宰相候補の婚約の噂を聞いた。定例の夜会に二人で出席するように、と。

「婚約の話が伝わったんですね」

「そりゃあね。宰相候補の婚約者となれば王族も気になるんだろうね」

つまり出席せざるを得ない。

招待ではなく、事実上の召集だ。

私は封書を丁寧に折り畳んで、シオン様に返した。

「わかりました、出席します」

「……ごめんね」

シオン様の声が少し低くなった。

「社交界、嫌いだよね」

「……。シオン様」

私は少し考えてから、口を開いた。

「一つだけ頼みたいことがあります」

「なに?」

「会場内で、私のそばを離れないと誓ってください」

シオン様が少し目を開いた。

社交界が苦手な理由は、煌びやかさや人の多さだけではない。

あの夜のことを、今でも覚えている。

シャンデリアの光の中、義妹と元婚約者が並んで歩いていた。笑い合いながら、当然のように隣に立っていた。

そして私は壁際で一人、声もかけられず、かけることもできず、ただ立っていた。

あの孤独感だけは、もう二度と味わいたくなかった。

「うん。絶対離れない」

シオン様はすぐに言った。

「誓う誓う。ずっとそばにいる」

「……ありがとうございます」

「あ、常にお姫様抱っこしてようか?」

「それは勘弁してください」

「じゃあ腕を組んで離れない、でどう?」

「それで十分です」

シオン様はぱっと顔を輝かせた。子供みたいな笑顔だった。

「セレスと一緒の夜会だー」なんて言いながらはしゃいでいる。

「セレス。美味しいものいっぱい食べようね!」

「え、食事が目的ですか」

「夜会のいいところってそれだけでしょ」

「……もしかしてシオン様って社交界苦手ですか?」

「うん。めっちゃ嫌い!」

衝撃の告白だった。

「……宰相候補が」

「関係ないよそんなの。苦手なものは苦手」

「あれだけ令嬢方に人気があるのに」

「だから嫌なんだよ。ウィンクで撃退しなきゃいけないし、気を遣うし疲れる」

「…………」

「セレスがいてくれたら気が楽だなと思って」

さらりと言った。

私はしばらくシオン様の顔を見た。

「……お互い様だったんですね」

「そうそう。だから一緒に乗り越えよう。美味しいもの食べながら」

私は思わず笑ってしまった。

「……わかりました。美味しいものを食べましょう」

「やった」

シオン様は嬉しそうに笑った。