軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11.挨拶

後日、父からの提案を断るためにも、そしてシオン様を紹介するためにも、私とシオン様は私の実家、ヴェセル伯爵家へ赴いた。

伯爵家の応接室にて。

待機していると静かに扉が開き、父が入ってきた。

「セレス」

父は私を見た。それから隣に立つシオン様を見て、表情が止まった。

「……この方は」

「私の婚約者です」

父の眉が動いた。

「婚約者?いつの間に」

「ご挨拶が遅れました」

シオン様が一歩前に出た。

完璧な礼だった。所作に一分の隙もない。そして顔を上げたときの笑顔は、磨き抜かれたものだった。

「シオン・ラングヴェルトと申します。セレスとは王城で共に仕事をしております」

「ラング……ヴェルト、だと」

父の顔色が変わった。

「ラングヴェルト公爵家の、ご令息、ですか」

「次男です。家督は兄が継ぎますが、私自身は王城にて宰相職を目指しております。任を拝命した際には侯爵の爵位を賜る予定となっております」

父は完全に固まっていた。

シオン様は笑顔のまま続けた。

「セレスのことは私にお任せください。必ず幸せにしてみせます。どうかお許しをいただけますでしょうか」

応接室が静かになった。

私は隣に立ちながら、ぼんやりと考えていた。

そういえばシオン様は公爵家の令息だった。将来は宰相になる予定で、なった暁には侯爵の爵位が与えられる。

近い未来、王城で最も権限を持つ文官になる人物だ。

今まで全く意識していなかった。

天才的な頭脳を持っていて、よく笑う人で、本の話ができる人で、飄々としていて何を考えてるかわからなくて……

家柄など、考えたことなかった。

今更ながら、とんでもない人と婚約したのだと気づいた。

「……わかりました」

父が口を開いた。

「セレスをよろしくお願いします」

当然だった。断れるわけがない。公爵家の令息で将来の宰相候補。伯爵家に断る理由など一つもない。

「セレス」

父が私を見た。

「苦労をかけたな。王城でよく頑張った」

私は少しの間、父の顔を見た。

今まで一度も向けられたことのない、穏やかな表情だった。

今更何を言うんだ、と内心でそう思った。

婚約破棄のときも、家を出るときも、一切何も言わなかった人が。

シオン様の肩書を聞いた途端にこの顔だ。

あまりにも浅ましい。

だが私は表情に出さなかった。

「ありがとうございます」

それだけ答えた。

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帰りの馬車の中、シオン様は背もたれに身を預けて言った。

「やった、お許しゲット。いやぁ、緊張したあ」

「緊張してたんですか?父が断るなんてありえないのに」

「それでも緊張したんだよ。僕、頑張ってたでしょ」

「見たことない笑顔ではありましたね」

「社交用の顔。どう、かっこよかった?」

「普段の方が好きです」

本心でそう思った。

いつもと違う顔は少しだけ違和感だったから。

その言葉を聞いたシオン様は何故か嬉しそうだった

私は窓の外に視線をやる。馬車が王都の石畳を進んでいった。

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その頃、ヴェセル伯爵家の一室では。

「どうして!」

エリーは声を荒げていた。

「お義姉様がラングヴェルト公爵家の令息と婚約するなんて聞いてない!」

「エリー、落ち着きなさい」

父の声は静かだった。

「納得できない!お義姉様は地味で愛想もなくて、社交界だって満足にできないのに!なんであんな方が!」

「エリー」

「私の方がずっとふさわしいはずよ!私がシオン様と婚約したい!」

「できない」

父は短く言った。

「相手はラングヴェルト公爵家だ。万が一にも無礼があればどうなるか……」

「でも!」

「お前は今の婚約者との準備を進めなさい」

エリーは唇を噛んだ。

見下すつもりだった。義姉が望まぬ縁談に引きずられていく様を、遠くから笑うつもりだった。

それなのに。

あの地味で愛想のない義姉が、公爵家の令息と、あんな美しい将来の宰相と婚約するなんて。

「不公平だわ……!」

エリーは終始不機嫌だった。

傍らでは義母がうつむいていた。

その顔は、真っ青だった。