軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75 お掃除とBBQ(2)

「あ、やっちゃった。

…でもアレン君、ホントにこの子に負け越してるの?」

姉上が不思議そうに首を傾げた。

「…いくらライオでも、初見で姉上のスピードに対応するのは無理ですよ。

それに、どうやら王都では、今から殴るぞとか、始まりの合図のようなものを声がけしてから、飛びかかるのが礼儀のようですよ?

始める前に広々とした場所に移動する事も多いです」

「えぇ!そうなの?!

ごめんね、知らなかったの」

姉上は慌ててライオに謝った。

「いや、問題ない。

ここはロヴェーヌ家だ。

こちらの家のやり方が学びたくて、こうして頼んでいるの――」

起き上がったライオは、貴公子然とした端正な顔から鼻血を垂らしながら、いきなり姉上の胴に右回し蹴りを放った。

「だからなぁ!」

くっくっく。

ライオの尋常ではない、負けず嫌いさとしつこさは俺が誰より知っている。

せいぜい姉上と遊んでもらい、姉上のガス抜きを頼むとするか。

姉上はライオの脛を膝と肘で挟み込むようにして受けた。

ビキィッ。

「ぐぁぁ!」

「あ、ごめん、すごい威力だったから、つい挟みで受けたら、足の骨、折れちゃった。

休んでてね?

ア〜レン君?あ〜そ〜ぼ?」

…ライオめ、10秒で退場とは口ほどにもない!

蹴り足の魔力ガードを怠ったな。

あいつは天才的な出力を持っているが故に、受けが雑すぎる。

俺相手には通用しても、姉上クラスになるとあの様だ。

「アル…姉上が3人で遊ぼうだって」

「えぇっ!?

俺はいいよ、魔法士だし!

ライオが瞬殺される姉ちゃん相手に、俺が何かできる訳ないだろ!」

「うるさい!

体外魔法研究部部長がそんな事でどうする!

魔法士だって屋内戦闘に迫られる可能性もあるだろう!

これは監督命令だ!」

「お前自分の家で魔法使えって言ってるのか?!

何考えてんだ!?

普通に家が壊れるぞ?!」

「ばか、姉上と遊ぶんだから、壁に穴が開くくらいは許容範囲なんだよ!

心配するな、こんな狭い家の中で、アルのとろくさい魔法なんて、姉上の前で発動できるわけがない。

アルが殴られて潰されているうちに、俺が隙をつく。

これしか無い!」

「それ俺ただの殴られ役じゃねぇか!

確かアレンがいう、タンクとかいう役割のやつだろ!

なんで魔法士の俺が殴られ役なんだ!」

「ライオのバカが瞬殺されたからだよ!」

と、このように俺とアルが言い争いをしていると、いつの間にか外に出ていたジュエが1メートルほどの長さの 両手杖(スタッフ) を持って帰ってきた。

ライオに近づいて、解読不能な古代言語で素早く祈りを捧げた後、ライオの足に向かってスタッフをかざした。

その瞬間、金色の光がライオの足を包む。

ライオは何事も無かったかのように立ち上がった。

「へぇ〜こりゃ驚いたね。

ジュエちゃんその歳で、聖魔法で骨折治すの?一瞬で?

空恐ろしいねぇ〜」

フーリ先輩は手放しでジュエを誉めた。

治されたライオ自身も驚いているし、姉上も、『ジュエちゃん、すご〜い』なんて言っている。

ジュエは照れ臭そうに微笑んだ。

「私もアレンさんが立ち上げた、体外魔法研究部の一員ですからっ!」

「あっはっは。

ローザに頼まれて、弟君の噂は大体収集してるけど、あのスカートを捲る研究部って、ちゃんと活動してるんだ?

学園の中の情報は中々正確に集まりにくくてね。

てっきり坂道部のついでにおふざけで作った、色物部活動だとばかり思っていたよ」

…このズボラな姉上が、どうやって俺の噂など収集しているのかと思ったら、この人が協力していたのか。

しかし体外魔法研究部が坂道部のついでだなんて、とんでもない誤解だ。

「ついでで作ったのは、坂道部の方です。

あんなものは基礎鍛錬なので、やろうと思えば俺は1人でもできる。

俺にとっての 本命(やりたい事) は、このアルが部長としてまとめ上げる魔法研の方です」

「へぇ?

それは意外な情報だ。

とすると、弟くんのクラスメイトの1人としか認識していなかったアル君も、只者ではなさそうだ」

俺はニヤリと笑った。

「アルは只者ですよ。先輩。

ただ、『鬼の副長、ルドルフ・オースティン』を始め、俺やライオ、ジュエなど、曲者揃いの魔法研はこいつにしか率いられない…

こいつはそういう男です」

「ヒュー。

今日は出血大サービスだね?

弟君」

先輩は笑って、アルをマジマジと見た。

姉上も、俺の意味深長な言葉を受けて、アルに興味を持ったようだ。

くっくっく。

計算通り。

これでアルの離脱は不可能だ。

「おい?!

アレンの思いつきで、適当に部長を決めただけだろ!」

「ええっと、今から殴りま〜す!」

姉上は、辿々しく始まりの合図を告げて、アルへと殴りかかった。

俺はアルに拳が当たる直前を狙って、姉上に蹴りを合わせた。

姉上は、アルへと振り抜こうとしていた拳を止めて、俺の蹴りへカウンターを合わせてきた。

何とか躱して指示を出す。

「ライオは『タンク』だ!

お前が姉上に容易く抜かれたら、戦線は簡単に瓦解する!

丁寧に受けろ!

100万の民が後ろにいると思え!

アルとフェイはフーリ先輩を止めろ!

ケイトは『ヒーラー』のジュエをフォローしつつ、全体に指示を出せ!

俺は遊撃アタッカーとして動く!」

「ちょっと!

なんで私たちまで喧嘩なんて――」

「喧嘩じゃない!

挨拶を兼ねた遊びだ!」

ケイトが仰天しているが、俺は構わずフーリ先輩に殴りかかった。

こうなったらもう、全員巻き込んで手札を増やした乱戦にした方が、まだ勝機があり、かつ話も早いと判断したからだ。

探索者の荒くれ者どもの悪影響だが、確かに有効な面もある。

「いいねぇ!

ちょうど楽しそうで羨ましいと思っていたし、ローザと共闘だなんてワクワクするよ!」

王立学園首席卒業のフーリ先輩は、俺の拳を易々と掴んで言った。

「今から殴りま〜す!」

フーリ先輩は、思った以上に手強かった。

魔道具士だという事でどうかと思ったが、素手での強さに限れば、フーリ先輩の一つ下で、王立学園を首席で卒業したという、ジャスティンさんと同格くらいだろう。

姉上とフーリ先輩は、お世辞にも連携が取れているとは言い難かったが、俺たちを圧倒した。

誰かが戦線を離脱するたびに、ジュエの回復魔法で立て直しながら何とか持ち堪えていたが、その内にジュエの魔力が底をついた。

「すみません、私はここまでです…

魔力が足りませんので、次に怪我をされたら治せません」

ジュエは両膝をついた。

ぜぇぜぇと、その呼吸は荒い。

姉上は拳を収めて笑顔で言った。

「ありがとう、ジュエちゃん!

お陰でひさしぶりにアレン君とたくさん遊べたよ。

最後の、面白い魔法だね!」

姉上は、俺が最後ジュエのバフ魔法を乗せた右フックで額から流した血を拭いながら笑った。

尤も、即座に反撃の蹴りで吹っ飛ばされたが。

姉上は、『あー、すっきりしたっ』、なんてルンルンだ。

結局俺らが姉上に入れられたのは、その一撃だけ。

だが、この手狭な屋内での殴り合いで、姉上に一撃入れられ、かつ重傷者もいない結末は十分及第点と言えるだろう。

「いやー面白かった。

さすが粒ぞろいと評判になるだけはある。

個人の力はすでに私らの代の3年時の力と比較しても遜色ない。

スタミナ面はそれ以上だ。

しかも、1年ではほとんど訓練しないはずだけど、連携面がかなり進んでいるな。

噂の坂道部の活動や、一般寮での共同生活は伊達ではないな」

フーリ先輩も楽しそうに笑って、こう付け加えた。

「さて…どうやって片付けようか…」

部屋はグッチャグチャになり、一階はアルの魔法で水浸しの上に半壊状態になっていた。

ライオが悔しそうに歯をくいしばりながら言った。

「完敗、だな……

…今回の遊びで壊れたものは、俺が責任を持って弁償する。

俺が頼んで始めた遊びだからな」

「いや、気にしなくていいぞ?

ライオが言い出さなくても、どうせ姉上とは喧嘩になる事は目に見えてたからな」

ただでさえ俺がぶん殴られる予定だった分を、いくらかこいつに肩代わりしてもらったんだ。

その上、金まで払わせたんじゃ流石に悪すぎる。

「気にしないで?

兄弟喧嘩に巻き込んじゃってごめんね。

それに、私使い道のないお金が、何だか沢山あるし」

え、姉上何でそんなお金持ってるの?

「ローザは特許収入だけで、毎月数万リアルは稼いでるからな。

これからはもっと増えるだろうし」

不労所得だけで数万リアルだと?

魔道具士ってそんなに稼げるのか…

なんて羨ましい。

「いや、これはケジメだから、そこは払わせてほしい。

それともう一つ」

そう言ってライオは片膝をついて右手を胸に当て、姉上に向けて左手を差し出した。

「ローゼリア・ロヴェーヌ。

俺と結婚を前提に交際してほしい」

……

えぇ〜?

あまりの急展開に、全員がフリーズした。

いったいどこの世界に、友達の家に遊びにきたら、その姉に何度も殴られて骨まで折られて、その結果結婚を申し込む馬鹿がいるんだ。

いつもはこういった話が大好物のケイトですら、困惑している。

「ジュエ、ライオは頭を強く打ったみたいだ。

回復魔法を頼む」

「…魔力切れです」

俺は頭を振った。

医者を呼ぶしかない。

「俺は真剣だ」

ライオは真っ直ぐな目を姉上に向けている。

免疫のない姉上は、アウアウと喘いで、顔を真っ赤にして辛うじて言った。

「あの、えっと。

ごめん、私弱い人に興味ないから、無理かな」

そこじゃない!

「いや、姉上。

ライオはザイツィンガー家の長男ですよ?

この王国に3家しかない公爵家の筆頭、あのザイツィンガー家の本家本元です。

強いとか弱いとか以前に、うちみたいな貧乏子爵家が釣り合いの取れる人間ではないです」

姉上は目に見えてホッとした。

だがライオは全く引き下がる気配はない。

「今の時代、身分差など絶対的な問題ではない。

もう一度言う。

俺は真剣だ。

俺がローゼリア先輩より強くなったら、この話を受けてもらえる、そう解釈していいか?」

「いや、あの、ライオ君にはあまり才能がないから、それは無理かなぁ〜なんて…」

姉上はこの国が誇る100年に1人の神童にこんな事を言った。

ライオはニヤリと、嬉しそうに笑って立ち上がった。

「今はまだ、スタートラインに立ててすらいない、という事だな。

だが俺は諦めん。

必ずあなたよりも強くなって、いつか必ず首を縦に振らせてみせる」

「…俺、お前を兄貴って呼ぶの嫌なんだけど…」