軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71 再会(1)

「いやー、友達の姉ちゃんに会うのは、何だか緊張するな!」

…相変わらず能天気なアルには救われるな。

封を切った手紙は、実に様子がおかしかった。

いつもは米粒くらい小さな文字で、びっしりと文字がしたためられているのに、その手紙にはデカデカとした真っ赤な文字で、まるで血で書いたような鉄分を感じる真っ赤な文字で、こう書かれていた。

1枚目

今日お家で待ってるね?

2枚目

もしこの手紙を無視すれば

3枚目は白紙だった。

いや、正確に言うと、粘り気が感じられる真っ赤な紙に、文字は何も書いていなかった。

これがホントの赤紙かぁ…

ひぃ!

怖すぎる!

俺はその手紙を見て、クラスメイト達の健康を気遣う余裕がなくなった。

1人で姉上と顔を合わす勇気はとてもない。

といって無視する勇気はもっと無い。

こいつらは血祭りに挙げられるかもしれないが、まずは俺が無事に、明日の朝日を見る事が何よりも優先だ。

そう判断した俺は、クラスメイト達を巻き込む事にした。

『あ、あ、姉上は珍しく今日暇みたいだな!

俺は今日今から王都の子爵邸に帰るから、姉上に会いたい奴は一緒に行こう!』

俺が震える手でこう宣言したら、皆は怪訝な顔をしたが、話を聞いていたクラスメイト達、フェイ、ジュエ、ケイト、アル、ライオの5人が付いてくる事になった。

フェイは王都の有名デザイナーがデザインしたと思しき、高級そうなヒラヒラとしたベージュの服、ジュエはシックだが一目で高級品と分かる、仕立ての良さを感じさせるネイビーのワンピースを着ている。

まるでご両親への挨拶のような気合だ。

これから向かう場所がどれほどの危険地帯かも知らずに…

「アルは相変わらず能天気だな。

ところでライオにフェイと、ジュエ。

お前らいきなり休日の予定を変えて大丈夫なのか?

何ヶ月も予定が詰まってる、なんて言ってたが」

ジュエは、これから自分が血祭りに挙げられるとも知らず、ルンルンと答えた。

「ええ、最近やっと家の方も落ち着いてきましたから。

もっとも、たとえ陛下との会食予定が入っていても、この一大イベントを見送る選択肢はありませんけどねっ」

遠足気分か…

だが、やっぱり同行はやめる、という危険は低そうだ。

となると少しは釘を刺しておいた方が安全度が高いか…

「先に言っておくが、レッドカーペット事件からも分かる通り、俺の姉上は怒ると怖い。

はっきり言って、この場の全員でかかっても一度暴れ始めた姉上を制止できるかはかなり怪しい…

普通にしていたら大丈夫だから、くれぐれも挑発したりしないようにな」

そのセリフを聞いて、ライオのバカがこんな事を言った。

「ほう?

無論、挑発などの不作法な事をするつもりはないが、機会があればぜひ手合わせをお願いしたいものだ」

呆れ果てて言葉もない。

俺は即座に首を振った。

「ジュエは、死者の蘇生は出来るのか?」

「…そんな魔法は歴史上でも聞いた事すらありません…

もちろん、体外魔法研究部の『鉄の掟』第1条が、魔法士たる者、無限の可能性を追求する覚悟を持て、なのは理解していますが……

すみません、まだ着手すらできていません」

て事は、存在しなそうだな。

だがその前向きな回答は素晴らしい。

わざわざ水を差すことも無いだろう。

俺は頷いた。

「死者蘇生は聖魔法の極致だからな。

焦らず取り組めばいいさ。

というわけだ、ライオ。

姉上に組み打ちを申し込むなら、先に責任を問わない旨をしたためた誓約書と、遺書を書け。

人を殴るという行為に全く躊躇の無い人だから、運が悪いと死にかねん」

俺が真剣な顔でライオに忠告したら、ライオは掌を上に向けて、『やれやれ』といった顔をした。

俺は忠告したからな!

みんな聞いたからな!

「俺帰りたくなってきた…」

アルが不安げにつぶやいたので、俺はガッチリとアルと肩を組んだ。

危険な展開を予感させる女どもやライオと違い、能天気なアルは絶対に必要だ。

何があっても逃さない。

車を準備しましょうか?というジュエに、すぐ近くだから不要だと告げて、俺たちは王都の子爵邸、と言っても一般住宅に毛が生えた程度の、そう広くない前庭がついた唯の一軒家だが――

へと歩いた。

俺が緊張してインターホンを押すと、シアーグリーンの生地に白い小花があしらわれた、涼しげなワンピースを着た姉上が、すぐに飛び出してきた。

俺が大層引き攣った顔で、『ただいま帰りました』と、いうと、姉上はその場で感極まって、人目も憚らず泣き崩れた。

何とか姉上を宥めて、とりあえず家の中へと入ろう、と提案したところで、姉上が何とか涙を止めて言った。

「うぅ〜。

あっ!

その…まさかアレン君が、いきなりお友達を連れてくるとは思わなくて…

お家の中が少しだけ散らかってて、ちょっと片付ける時間を貰えないかな」

その問題があったか…

4ヶ月もあの姉上が一人暮らしをしていたんだ。

家の中はさぞや凄惨を極めている事だろう。

だが、そこでフェイが、気の利いた事を言った。

「僕はフェイルーン・フォン・ドラグーン。

アレンと同じ王立学園の1年Aクラスの生徒で、魔道具士志望だよ。

ローゼリア先輩の貴族学校での数々の卓越した研究成果を見た時から、一度ご挨拶したいと思っていたんだ。

魔道具士の研究拠点はぱっと見、散らかりがちだし、といって動かしたくないものも多い。

もしよければ庭でバーベキューにしない?

いきなりこんなに大人数で押しかける事になったから、うちの人間に言って機材と食材は、念のため手配させているけど」

この常識的な自己紹介と提案は実に意外だが、よく考えるとこいつも大貴族ドラグーン家を将来背負って立つ事が約束されている人間だ。

普段は微塵も感じないが、相応のバランス感覚は当然保持している、という事だろう。

ちなみに、家は研究資料が散乱している、などではなく、普通にだらしない人間が生活して、だらしなく散らかっているだけの事に違いない。

「それはありがたいな!

すみません、姉上、皆が姉上に会いたいって言うので、俺もつい自慢の姉上を紹介したくて、連れてきてしまいました!

姉上、ここはお言葉に甘えさせてもらいましょう!」

「えっ自慢!?

…初対面なのにそこまで甘えちゃっていいのかな?

しかもドラグーンのお嬢様に…」

多少気持ちを持ち直した姉上はアワアワとしながら俺とフェイを交互に見た。

「気にしなくていいよ?

さっきも言ったけど、こちらが約束もなく押しかけているからね。

むしろ迷惑をかけて申し訳ないと思っているよ」

そこで姉上は、再び『あっ!』と言った。

「あの、えっと。

迷惑ついでにお願いなんだけど…私の学校の友達がね、アレン君と会ってみたいって言っててね。

帰ってきたら連絡するって約束しちゃってるんだ…。

アレン君、いくら手紙を書いても全然帰ってきてくれないから、もしよければ同席させてもらってもいいかな…?」

姉上は、男ならずとも庇護欲を感じさせる顔で、目をウルウルさせながらフェイに頼み、フェイは快諾した。

「もちろん構わないよ!

上級魔道具研究学園の優秀な諸先輩方と、完全プライベートで交流を持てる機会なんて、そうはないからね。

むしろお願いしたいくらいさ。

皆もいいよね?」

フェイが確認すると、全員が頷いた。

「ありがとう!

じゃあ魔鳥で連絡するねっ」

魔鳥は所謂伝書鳩の魔物版で、専門の機関で訓練されて貸し出されている。

一般人でも入手可能で便利だが、そう維持費は安くないはずだが…

俺が不思議に思っていると、姉上は『学校が貸してくれてるんだ』と照れくさそうに説明した。

「じゃあ僕も、バーベキューの準備をするよう連絡するね」

フェイはそう言って、門の外に向かって手を叩いた。

どういう仕組み?!