軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55 納入所のサキ

王都東支所の横にある納入所は、夕方とあってかなりの数の納品客がいた。

俺は、この2週間、王都内で雑用の様なFランク以下の仕事ばかりをしていたので、納入所にくるのは初めてだった。

カナルディア魔物大全(本の中) でしか見た事のない魔物と、それを運び込む、歴戦の男女の姿を見て、絶賛テンション上昇中だ。

俺たちが、だだっ広い納入所に入ると、おやっさんが再び担いだグリテススネークが大いに目立ち、あちこちから視線やひそひそ声が聞こえる。

『おぃ。『りんごのリンド』だ。

かなりでけぇぞ?

やつぁほぼ遠出しねぇから、あのデカさのグリテススネークが、この辺りで出たのか?』

『さすがリンドだな。

…後ろで『ハゲタカ』を担いでるのは誰だ?

見ねぇガキだな』

『ばか。

あれが最近、『りんご』に入ったってぇ『狂犬』だろ?

リンドにハゲタカが近づくとは思えねぇし、野郎が下げてるショートボウで仕留めたのか…』

『あれがか?

丸っ切り育ちの良さそうな、ちっと芋臭いただのガキじゃねえか…

弓使いだったのか。

だが、ショートボウでハゲタカを落とすのも、相当な技量がいるぞ?』

『あぁ、さっき ゴールドラット(ラット) のベンザが、あんなガキにへこへこしてたし、間違いねぇだろ。

一見穏やかだが、スイッチが入ると途端に、血の通わない喧嘩魔道機に変貌するって話だ。

後見人(バック) のリンドも厄介だし、無闇に喧嘩を売るなよ?』

何なんだ、その『狂犬』っていうのは…

姉上じゃあるまいし。

そりゃ、あまりに理不尽なことをされた時は、丁寧に物の道理を教えたりもしたが、俺は断じて無闇矢鱈に喧嘩を売ったり、瞬間湯沸かしの如くキレて暴れ回ったりした事はないぞ?

せいぜい、ちょっと怒った事がある、くらいのものだ。

そして、あのデブ名前はベンザって言うのか…

便座を連想してしまったので、もう忘れられないだろう。

別に覚えたくないのに…

おやっさんは、そんな噂などどこ吹く風、といった感じで、颯爽と歩き、一直線に『大型』の看板がかかった、暇そうな納入窓口へと歩み寄った。

実にしぶい。

特に並ぶこともなく、窓口に着くと、この道40年、といった感じのおばちゃんが待ち受けていた。

流石に大型の獲物を、この王都で納品する人間は多くないらしい。

おやっさんよりいくらか下、くらいの年齢だろうか。

「リンドじゃないか。

あんたが来るなんて珍しいね。

そっちの子供も、ついでに私が見てあげるから、その 獲物(ロウヴァルチャー) をこっちの台に置きな」

「ここに来るのは久しぶりだな、サキ。

ま、 3週間前(こないだ) シェルの野郎と3人で飲んだばかりだがな。

今日もガキどもが一緒だったから、別に狩る気は無かったんだがなぁ。

メドウマーラの群れを追いかけて東ルーン平原まで降りてきてたやつだ。

なすり付けられちまってな…」

「へぇ〜そいつは運がなかったね。

おや、ひと突きかい。

大雑把なあんたにしては上出来じゃないか。

そっちのロウヴァルチャーを狩った子供が、マーラの相手をしてくれたお陰かい?

その歳で、その状況でしょんべん漏らさず弓を引いたなら、まぁまぁ見どころがあるね」

サキさんは、まるで見ていたかのように状況を即座に理解した。

「あぁ。

こいつがいなければ少なくとも怪我人は出てたな。

それどころか、10秒かからず20匹近くいたマーラを全滅させて、即座にこっちにフォローに走りやがったからな。

面はガキだが中々可愛げのねぇ弓を使うぞ」

「…おやっさん。14匹です」

「あん?

こまけぇことはいいじゃねぇか」

「いえ、14と20じゃ全然違います…

そこを詰めるのが大変なので」

それは俺がこの2週間で痛感している点だ。

同じ速射速度を0.1秒詰めるのでも、最初の頃と今では難易度が天と地ほど違う。

「きっひっひっ」

サキさんは笑いながら、ホースのように丸まっていたグリテススネークの胴を、台の上で一息に伸ばした。

このおばさんも力強いな…

「これだね」

頭の部分を除いた8mはありそうな胴体から、即座に俺が射った辺りの1枚の鱗を剥がした。

「子供。

名前は何と言う?」

サキさんは、剥がした鱗をクルりと指先で回転させながら、俺の名前を聞いてきた。

「え?

…レン、と呼んでください」

俺は一瞬逡巡したが、探索者ライセンスを出しながら、偽名を名乗った。

どうせこの後、納入手続きをする時にライセンスは出す事になるからだ。

サキさんは、 ライセンス(俺の名前) を見て、難しい顔で眉毛を上げた。

「……なるほどねぇ。

シェルの野郎には言ってあるのかい?」

「…まだ言ってない。

シェルは自分の目で見たがっていたし、遅かれ早かれだしな」

「きっひっひっ。

おい子供。いや、レンだったね。

お前は今後、納入に来る時はいつもこの大型窓口を使いな。

『訳あり』なんだろ?

私は大体ここにいるが、居なくても使えるように話を通しておいてやる」

……なるほど。

この人も、そのシェルって人と共に、おやっさんの飲み友達なんだな。

おやっさんは今日、俺の事情を汲んでこの人を紹介してくれるつもりなのだろう。

本来なら、特別扱いなど不要と突っぱねるところだが、納入の度にライセンスを出してると、いつ俺が王立学園生だと露見するかわからない。

俺は厚意に甘える事にした。

俺が頷いたのを見て、サキさんは査定を始めた。

「さて、無駄話はここまでにして、査定といこうかね。

グリテススネークの鱗が2万リアル。

頭と肉は1万リアル。

牙や内臓なんかのその他素材も5千リアル出そう。

ロウヴァルチャーは、属性無しだから、矢羽根に使える羽が2500、肉が1000リアルって所だね。

メドウマーラの魔石は1つ100リアルだよ。

よければここにサインしな」

相場が全然分からんからな。

ここはおやっさんにお任せだ。

「…サキの査定に文句をつける気は無いが、蛇はそれで大丈夫なのか?

鱗はともかく、他はちと高すぎると思うが…」

「ふん。

あんたも知っての通り、最近きな臭い噂が立っててね。

こいつの肉は食材としても捌けるが、特に頭付近は体力回復薬の素材になるから、今は相場が3割は上がってる。

こいつは毒袋もないし、内臓は普通値段をつけないんだが、最近ちょっとしたツテで買い手がいてね。

魔物食材に需要があるから値段をつけられるのさ」

これを聞いて、俺は思わず質問した。

「…蛇の内臓って美味しいんですか?」

「きっひっひ。

美味けりゃ普段も値段がつくさ。

苦くて臭くて食えたもんじゃないよ、きっひっひ」

サキさんは悪い顔で笑った。

ちょっとしたツテはソーラで間違いなさそうだ。

しかもこの表情は、そっちからも、俺の話を聞いているな。

味の方は数日後の朝のお楽しみか…

楽しみじゃないけど…

俺はおやっさんに念のため確認した。

「俺の方はどうしてもらっても構いませんが、肉を売っちゃって良いんですか?」

「あぁ、羊を2頭取ったばかりだからな。

これ以上は捌ききれず腐らせちまう。

それなら金に変えちまった方がいい。

サキ。上がりは俺とこいつで折半だ」

それを聞いて、流石に俺は断った。

ロウヴァルチャーはともかく、グリテススネークの方は、俺は牽制の矢を一発打っただけだ。

「おやっさん、それはダメです…

俺にはこの蛇を倒すすべはありませんでした。

むしろおやっさんは命の恩人なのに、金なんか受け取れません。

事前に報酬を取り決めてなければ、折半が探索者の基本だってことくらいは分かってますが、せめて蛇の分はおやっさんか、『りんご』で取ってください」

だがおやっさんは、厳しい顔で、即座に首を振った。

「ならねぇ。

それはりんごへの『施し』だ。

俺に、お前をクビにさせてぇのか?」

あまりの迫力に俺が二の句を継げずにいると、おやっさんは笑った。

「それに、お前はパーティーの後衛として、十分な働きをした。

仕留め役だけが偉いわけじゃねぇ。

だからこの金は、正当な報酬だ。

胸張って受け取れ」

「きっひっひ。

話は決まったね。

私は素材の解体で忙しいから、さっさとうせな」

2人は息ぴったりに話を切り上げた。

まぁ純粋に働きを認められた、という事ならば嬉しい。

ここは、甘んじて受けるべきだろう。

しかし、2万リアル近い稼ぎか…

今夜は奮発して、蕎麦にカボチャの天ぷらでも付けちゃおっかな。

いや、イカの天ぷらもいいかも…

う〜ん、悩む!

その後俺は、おやっさんと一緒に依頼専用窓口へ行って、サキさんに貰った納入証明を提出した。

依頼ではない、ただの素材の買い取りなら、納入所でも換金や振込手続きが可能だが、探索者の脅威である、王都近郊の平原まで降りてきているグリテススネークと、探索者の獲物を掠め取るロウヴァルチャー、そして属性持ちのメドウマーラは全て常設依頼に入っていたからだ。

そしてそこで、俺はEランクへの昇格を告げられた。

いくら何でもそれは早すぎると、今度はかなり強めに抗議したが、奥から上司だというおばちゃんが出てきて、基準を満たしていたら昇格するのがルールだからの一点張りで、お話にすらならなかった。

おやっさんにも、『そもそもオメェがFって方が無理があんだから、諦めろ。

お前の言いたい事も分かるが、できる奴が、できねぇ奴の仕事を取っちまう側面もあることを忘れるな』と言われ、俺はしぶしぶ折れた。

Fで受けられない仕事は無いが、Eランクでは受けられない仕事というのは結構あるから、苦渋の決断だ。

今回は折れるが、どうせサトワが手を回しているに決まっているため、今後の事を考えて、俺は本部へ抗議に行く事に密かに心に決めた。

そして俺は、今回の狩猟を通じて、もう一つ気がついた事がある。

俺が王都に来る時に、槍で稽古を付けてくれた田舎のC級探索者のディオは、A級にも手が届くと言われているおやっさんと槍の腕で遜色がないという事だ。

いや、槍の事はよく分からないし、ディオには手を抜かれていたので断言はできない。

だが、パワーではおやっさんかもしれないが、技の鋭さではディオの方が上なんじゃ?

とすら思える。

強さだけがランクの全てではないとは言え、なんであの人、あんなど田舎でくすぶってるんだろう…