軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51 りんごのリンド

俺は、廃材を手土産に、『りんごの家』に立ち寄った。

おやっさんの耳に、今日の出来事を入れておいた方がいいだろうと判断したからだ。

アムールの兄貴は、『丸く収まったんだからいいじゃねえか』なんて報告を渋ったが、報連相は大切だ。

言いづらい事ほど早めに耳に入れておくのは 探索者(社会人) の基本だと言って説得した。

「随分早かったな…

まぁ大方の予想はつく。

レンが初依頼で張り切っちまったんだろう。

慣れねぇ仕事は流石に疲れたろ?

明日も来るつもりなら、今日は早めに休めよ」

おやっさんの言う通り、俺は実はかなり疲れていた。

途中から魔導建機のじいちゃんと意地の張り合いみたいになって、かなりのペースで仕事をしたからだ。

魔力的には余裕だったが、『ガラ出し』で使う筋力は、剣術や朝のダッシュとはまた別物で、明日は尻から太ももの裏、背中にかけて、かなりの筋肉痛になるだろう。

これから帰って、また慣れない弓を引くから、全身筋肉痛で起き上がるのも億劫になる事間違いなしだ。

好きな事をやっている実感があるので、全然苦じゃないが。

「ありがとうございます。

今日のところはもう帰らせてもらいます。

でもその前に、一応耳に入れておきたい事がありまして…」

俺がそう切り出すと、おやっさんは顔を顰めた。

「…初日からいったい何やらかしたんだ…?」

アムールの兄貴は、腰が面白いほど引けてたので、俺が代表して事の顛末を、出来るだけ客観的に、淡々と報告した。

「――というわけで、リンゴ・ファミリーを舐めた野郎は、キッチリ詰めておきましたので」

口を挟まず、最後まで話を聞いていたおやっさんは、話を聞き終わると、俺と兄貴に『何が、リンゴ・ファミリーだ!』と言って、拳骨を一つずつ落とした。

俺が、ぶすっとして頭をさすっていると、おやっさんは言った。

「…まぁそこまで舐められたんならしょうがねぇな。

相手が得物を抜いて、こっちが素手ならどう転んでも非は向こうにある。

怪我もさせてねぇみてぇだしな。

そんで、一番大事なのは、俺がどっかからこの話を耳にする前に、お前らが正直に事実を報告してきた事だ。

これからも、何かあったらいの一番に俺へ報告しろ。

そしたら、お前らを世話してる俺が、何があっても守ってやる。

何がどうなってんのかわかんねぇと、守りようがねぇからな」

おやっさんはダンディな感じでニカッと笑った。

その顔にアムールの兄貴は目に見えてホッとした。

俺は一応聞いてみた。

「…ところで…じゃあなんで殴られたんでしたっけ?」

「…楽しそうで、羨ましかったからだ」

……

さて、疲れもあるし、俺は席を辞そうと立ち上がった。

と、そこに外から怒鳴り声が聞こえてきた。

「今日解体現場の仕事でウチの若いのと一緒だった、アムールともう1人のガキ!

出てこいや!」

俺とおやっさんは揃ってため息をついた。

「はぁ。

こういう事が多いから、報告は大事なんだ。

俺が丸く収めてくるから、お前らは出てくんじゃあねぇぞ」

「…おやっさん。

自分の尻は、自分で拭きます」

俺は前世のアウトローフィクションに頻出する、憧れていた台詞トップスリーに入るであろうセリフを言ってみた。

「だっはっは!

自分のケツは、自分で拭く、か。

おもしれぇ。が、ダメだ。

お前が出ると余計にややこしくなる。

ここは、大人の仕事だ」

おやっさんはそう言って、外に出て行った。

おやっさんこと、リンド・イズラポールが外に出ると、ゴールド・ラットの若者が10人ほど。

それを取り巻きに、27〜8歳ほどの男が1人、前に出た。

「てめぇは呼んでねぇよ、リンド!

すっこんでろ!」

「… ゴールド・ラット(ラット) の、確かサヴァだったか?

近いうちにCランク昇格も見える、ってんで、若い衆の纏め役をやってるんだってな?

この俺を呼び捨てたぁ、随分と偉くなったもんじゃねぇか、あ?」

リンド(おやっさん) の凄みに、サヴァは一瞬怯んだ。

だが、周りの取り巻きたちの縋るような目を見て、後に引けないと思い直したのか、さらに一歩前に出た。

「おれぁ今日、ガキ同士の喧嘩の落とし前つけに来ただけだ!

いい歳こいて首突っ込んでんじゃねぇぞ?!」

リンドはうんざりした。

じゃあお前はどうなんだ?という当然の疑問は置いておくとしても、サヴァはどうやら、若い衆の纏め役として、まだ自分に自信がないのだろう。

下の者に頼られて、何とか結果を出したいという青臭い気持ちが、リンドには手に取るように見えた。

ぶん殴って追い返してもいいが、そうすると後を引くだろう。

かと言って、サヴァには周りの目がある分、話し合いで解決するのは簡単ではないだろう。

「サヴァよ、どのガキが当事者かしらねぇが、お前んところの会長はこの件を知ってんのか?

やつは、金にはがめつい野郎だが、そこまで話のわからんやつでもねぇだろう」

「うるせぇ!

ガキの喧嘩だって言ってんだろうが!

うちは所帯がでけぇんだ!

わざわざ会長の耳に入れるような話じゃねえんだよ!」

「始まりはガキの喧嘩かもしれねぇが、こうしてうちの互助会にまで、関係ないガキどもまで連れて乗り込んできてるんだ。

こうなると、会と会の話になりかねんぞ。

てめぇで話をでかくしてどうすんだ?

おまえも人の上に立ったなら、いきりたつ前に、きちんとテメェんところのガキの話の裏取りぐれぇしたらどうだ?」

その台詞を聞いて、サヴァは皮肉げな笑みを浮かべた。

「自分とこでガキの頃から面倒見てた奴らに、ごっそり見限られて、会の運営も立ち行かなくなってるテメェが、偉そうに説教すんじゃねぇか…

テメェの古くせぇやり方は、もうこの王都じゃ通用しねぇんだよ!」

この台詞を聞いて、リンドは苦虫を噛み潰したような顔になった。

そこへ、間の悪い事に、まだ魔力器官も十分できていない子供を2人連れて、清掃の仕事に行っていたロイが帰ってきた。

「親父、これはいったい何の騒ぎです?」

ラットの取り巻きの中でも、一際頭が悪そうで、だが腕っ節が強そうなデブが言った。

「テメェはいつもアムールの野郎と一緒にいるロイだな。

お前ちょっと中行って、アムールの野郎と、今日アムールと一緒だったガキ連れてこい。

このロートルのじじいと話してても、埒があかねぇんだ、よ!」

そう言って拳をロイの腹に叩き込んだ。

「てめぇ!

自分が誰の前で、何をやったかわかってやがんのか!」

リンドは一瞬気色ばんだが、後ろから戸が開く気配を感じて、すぐさま冷静になった。

「ロイ!」

「ロイの兄貴!」

アムールとアレンが、戸を開けて飛び出してきた。

おやっさんと、外のボンクラどものやり取りを聞いて、俺は疑問に思っていた事をアムールの兄貴に聞いてみた。

「なんで『りんご』は、こんなに人がいなくなっちゃったんですか?」

言いづらい事情でもあるのかと思ったが、俺の疑問を聞いて、兄貴はあっさり答えてくれた。

「親父は言い訳しねぇけどよ。

どうも最近、北のロザムール帝国との国境付近で仕事が増えてて、探索者が足りてねぇらしいんだわ。

王都は仕事も多いが、探索者も多い。

うちは満足に稼げねぇガキも多いのに、ほとんど会費もとらねぇから、会の会計はいつだって火の車だ。

それで、この家で育った俺の兄貴分たちは、向こうで探索者として勝負したい、必ず向こうで身を立てて、こっちで仕事にあぶれている弟分たちの受け皿になってみせるっつってな。

親父は、探索者なんだから自由に生きろ、この家のことは心配すんなって…

探索者として好きに生きれば、Aクラスにだって手が届いてもおかしくねぇ親父が、自分の夢も財産も何もかも投げ打って、この家を支えてくれてるのが、俺たちは悔しくってよ。

だから、俺には兄貴分たちの気持ちもよっく分かるんだ。

というか、一緒に行きたいって言ったんだ。

…俺はまだ早いっつって、連れていってもらえなかったけどな」

アムールの兄貴は、目に涙を滲ませ、悔しそうに歯を食いしばった。

なるほどなぁ。

兄貴の言葉は決して饒舌じゃなかったが、その気持ちは伝わった。

俺は一つだけ思った事を、兄貴に言った。

「俺には、おやっさんの気持ちがよくわかります。

おやっさんは、決して自分の身を削っているつもりなんてないと思いますよ?

自分のやりたい事を、やりたいようにやってるだけでしょう。

地位も名誉も財産も、どうでもいいと思ってるんじゃないですかね?」

俺の直感は間違ってなかったな。

この家では、みんなが自分のやりたい事を見つめて生きている。

やはり俺は、探索者として修行するなら、『 りんごの家(ここ) 』がいい。

と、そこで、ドアの隙間から外の様子を窺っていた兄貴が、『ロイ!』と、叫んで外へ飛び出した。

俺も慌てて外を見ると、品のないデブがロイの兄貴の腹にワンパン入れて、崩れ落ちた兄貴の頭を汚らしい靴で踏んづけたところだった。

「ロイの兄貴!」

俺はアムールの兄貴に続いて、外に飛び出した。

「馬鹿やろう!

なんで出てきやがった!」

「やっと出てきやがったか!

おう!ロートルは俺が押さえる!

てめぇら全員できっちり落とし前をつけろ。

リンゴ如きが俺らに歯向かったらどうなるか、体に教えてやれ!」

サヴァはこう叫んでリンドの腰に組みついた。

「この大馬鹿やろう!

誰を押さえてるんだ!

レンを、そのダークブラウンの髪をした奴を止めろ!

ばか!1人でかかる奴があるか!全員でかかれ!

何素手でいってんだ!その辺の廃材を使え!

ばか!同時に投げるんだよ!

ロイ!いつまで寝てんだ!

アムールと一緒にレンを押さえろ〜〜!」

こうして、王都アウトロー業界に突如新星が現れた。

腕っ節一本で探索者協会会長にまで上り詰めた、アウトローのカリスマ、シェルブル・モンステル。

その 飲み友達(喧嘩仲間) でもある、『りんごのリンド』ですら押さえられない『狂犬』。

最近勢力がめっきり衰えていた『りんご』に、レン、というヤベェ奴が入った、という噂は、ゆっくりと王都の裏側で広がっていく事になる。

ちなみに、この件は程なくゴールド・ラットの会長の耳に入り、会長自らが手土産を持ってりんごの家に頭を下げにきた事で、手打ちとなった。