軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

303 学園祭(2)

「ようケイト。大盛況だな。クリアできた人間は出たか?」

学園祭実行委員会・委員長の俺が、坂道部の催し物であるお化け屋敷の長蛇の列を万感の思いで眺めながら尋ねたら、ケイトは苦笑して首を振った。

「まだ一人もクリアできていないわね……。 あなた(アレン) が『王立学園生が楽しめるレベルに合わせて作ろう』なんていうからそうしたけど……。やっぱりちょっと難しくしすぎたかしら……。少し難易度を下げる?」

坂道部が主催している『お化け屋敷』は、学園の第七訓練場に設置されている。

第七訓練場はいわゆる屋内戦闘の訓練を行うための施設の一つで、様々な状況が模擬できるよう壁や扉を自在に動かせたり、隠し通路や多様なトラップを設置できたり、夜間を模擬するために光源が自在にコントロールできたりと、おあつらえ向けの機能が多数備えられている。

この設備を最大限活用し、坂道部の統括マネージャーであるケイト・サルカンパが総合プロデュースを務めて作り込んだのが、この『お化け屋敷』だ。

当然ながら、この日本ではお約束のテーマを入れ知恵したのは俺だ。

ルールは単純で、廃病院を模擬した一方通行の施設を、最初から最後まで 声を出さずに(・・・・・・) 通り抜けられたらクリアで、入り口で腕に着けられる坂道部謹製ヘルスメーターを賞品として持ち帰ることができる。

だが――

「ぎぃやぁぁああ!」

「ひぃいいいいい!」

内部からはひっきりなしに悲鳴が聞こえてくる。

そもそもが王立学園の設備を使って王立学園生の実力に合わせて作ってあるため、踏破難易度そのものが一般人からしたらべらぼうに高い。

加えて、筋金入りのホラー大好き女子であるケイトがリアリティのある渾身のストーリーを練り上げ、悪辣な仕掛けをこれでもかと設置したため、内部は阿鼻叫喚の地獄と化している。

ちなみにこの世界にはアンデッド系と括られる魔物も存在するが、お化けはいないと思われる。

入場開始から二時間が経過しているが、クリアした人間は未だにいないようだ。

ちなみに、王立学園生は学園祭当日は何かと忙しいので、前日に試験も兼ねてプレ学園祭を開催し、各部活動を主催する催し物を体験したのだが、クリアできたのは学園生でも半々といったところだった。

俺はクリアしたが、坂道部の部長であり筋金入りのホラー大っ嫌い女子であるステラなどは、踏破こそしたが涙と鼻水と返り血でぐちゃぐちゃに濡れた顔で出てきた。

どうやら 暗殺者(アサシン) の亡霊役である二年Dクラスのブルー君を無意識にぼこぼこにぶん殴って、強引に正規ルート以外を進んだらしい。もちろん失格だ。

「まぁ予想通りだな。別に難易度は調整しなくてもいいだろう。別に強制参加じゃないし、王立学園がどういった場所かを表現しなくては、わざわざ学園祭をやる意味はない。ゲストが求めているのも多分そっちだし、その方が俺たちの本気度も伝わるだろう」

俺がそのように改めて方針を伝えると、ケイトは再度苦笑して聞き返してきた。

「分かったわ……。他の様子はどう?」

「まぁどこも似たようなもんだな。帆船部の『アスレチック』は予想通り怪我人が続出だ。傷薬は予め大量に用意しておいたから多分足りると思うけど、思ったより無謀な奴が多くてな。包帯が足りなくなりそうだから、さっきムジカ先生が2kmほど緊急で発注してくれた」

実はケイトがプロデュースしたこの『お化け屋敷』は多少毒ガスなどが漂っているものの、お化け役は相手を見て手加減するだろうからまだ優しい方なのだ。

ダンを始めとした帆船部のメンバーが考えたアスレチックは初級と中級と上級がある。

初級はたまにクリア者が出るが、中級はさっき聞いたらクリア者は二人だけだった。上級は当然の如くゼロだ。

まぁ魔力量毎に推奨レベルを書いているから魔力ガードをすれば大怪我をする事はないはずだが、それでも落下したり回転するマストの様な棒に吹っ飛ばされたりしてすぐに怪我人が出る。

ちなみに俺が様子を見に行った際、馬鹿だがノリと体力に定評があるミナミ航専という船乗りの学校に通う三人組が挑戦していた。

その中のリドル君とかいうどっかで見た様な気もする奴が、推奨レベルを無視して上級に挑み重傷を負っていた。まぁああいう奴らは完全に自己責任だろう。

骨折には傷薬は推奨されないし、流石に全員をジュエに治療してもらう訳にもいかないので、付近はミイラの巣窟の様になっている。

「魔道具研究部の『脱出ゲーム』は…………聞くまでもないわね」

俺が皆まで聞かずに首を振ると、ケイトは苦笑した。

あれは学園生でもほとんど歯が立たない、鬼畜仕様だったからな。

入場して五分以内に七つの魔道具を順に起動して脱出するルールなのだが、ほぼ全ての人間が開始十秒で解かなくてはならない最初の箱が開けられずに爆発に巻き込まれて終了している。

俺のクラスメイトでも一発でクリアしたのはココだけ、ノーヒントでクリアしたのはベスターとココだけだった。

全く……『四問目のカモンフィルターが収束していない事に着目して、自分たちが『状態』である事に気が付けるかが鍵だよ?』だなんてフェイは言っていたが、そんなもんすぐ分かるか……。

まぁそれがセンスだと言われればぐうの音も出ないが……。

ちなみにライオは鍵を開けずにドアを開けて、フェイに出禁を食らっていた。

「さて……ココのスタンプラリーは全部集めるやつがいたとしても夕方だろうし……どこにいくかな。そろそろ昼メシ時か。俺はレストランの様子を見てくる! じゃあな、マネージャー! 楽しめよ!」

俺は爽やかな笑顔でそう親指を立てて、魔導二輪車を発進させた。

「あ、アレンいっちゃったか……。ちょうど今クリア者が二人出たぞケイト。ファットーラ王国からの招待枠で三年生の二人だ。流石のパラメーターだった」

ステラがそう言って、ヘルスメーターで収集した情報をケイトに見せる。

発声の有無の判定に使うために着用する坂道部謹製のヘルスメーターは、魔力量などの基本情報から魔力残量や心拍数の推移を克明に記録する。

そしてそれはクリア出来なければ出口で情報と共に回収される。

クリアした場合は回収されず、着用したままお持ち帰りいただけるのだが――

実は、出口で発声の記録がないかを確認する際に全ての情報が一瞬の内に抜き出される。

近頃、ドラグーン地方のとある古代遺跡の、勝手口の手前にある倉庫のドアから発見された、世にはまだ知られていない古の技術がフェイによって再現されているからだ。

もちろん対になる抜き出す側の魔道具がなければ、その事は分かりようがないだろう。

「……海外からの招待客には全部のプライオリティ・パスが配られてるんだろ? アレンがそれとなくアイデアを出してきた脱出ゲームだの、スタンプラリーだの、全部の催し物を回ったらこれ……」

ケイトはステラと同じく難しい顔をして頷いた。

「ええ。……海外から送り込まれてきた招待者たちは、少しでもこの学園の情報を持ち帰ろうと必死になって回るでしょう。けど……気がついたらヘルスメーターでは測れない地力も含めて、 丸裸(まるはだか) にされてるって訳ね」

「ま、まるは……こほんっ。こ、こっちも色々と 情報(おみやげ) を出してはいるが、本当に秘匿しなきゃいけないもんは慎重に精査できる。と同時に、国内から埋もれた人材を発掘する意図もあんだろ」

ステラの推測にケイトは頷いた。

「なるほど……。王立学園生にだけ特権を持たせすぎだ、他の学校にも面白い奴は沢山いるはずだってアレンは常々ぶーぶー言ってるし、それもありそうね」

ケイトは先程悪い笑顔で親指を立てていたアレンを思い出して、顔を顰めた。

「……楽しめよ、マネージャー、ですって? 相変わらず悪い人ね、アレン……」

裏門近くの一般寮。

近頃つとに有名になったここも、多くの人で溢れかえり、大変な活況を示していた。

とあるマッドサイエンティストが次のようなビラを製作して、ばら撒いたからだ。

『ついに秘密が明らかに?! 王立学園でも一般寮に入居できた者だけが食べられるスペシャルモーニング! あのアレン・ロヴェーヌを始めとした寮生たちが、一人残らず毎日涙を流すほど感動する寮母の特別な朝食を貴方も是非! メイド(執事)喫茶 犬小屋』

「このメイド(執事)喫茶って、どういう意味かしら……?」

王都の名門、 中央(セントラル) 貴族学校に通うジェアナは、配られたビラを見ながら首を傾げた。

「……まさか使用人向けの喫茶という訳ではあるまいが……万が一そうなら、流石に我々が入店する訳には――」

彼女の幼馴染であり、同じく王都の名門である城西騎士学校に通うフォードが顔を顰めてそう言おうとしたところで、中から案内があった。

「お帰りなさいませ、ご主人様っ」

丈が短く、フリルがやたらとあしらわれたメイド服に身を包んだ女の子が案内に出てくる。

「……ご主人? いや、僕はまだ家督を継いだ訳じゃ……そもそも君のような若いメイドをエドワーズ家が雇うはずが――」

フォードはクソ真面目な困惑顔で何事かを言おうとしたが、ジェアナは遮った。

「あ、あの、間違っていたらごめんなさいね。貴女のお名前はもしかして――」

「あら、名前をお尋ね頂けるだなんて光栄ですわ、お嬢様」

そう言って、赤いヘアバンドで美しい金髪を留めた可愛いメイドはスカートの短い裾をちょんと摘み、名を名乗った。

「私はジュエリー・レベランスと申します。どうぞお見知り置きを。お嬢様、おぼっちゃま」