軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

268 先輩による新勧イベント(3)

「ふぅむ。まだ随分と余裕がありそうじゃ。それに少々魔法士が不利じゃのう。おーい新入生達よ、体外魔法を使っても構わんぞい!」

この狭い空間で飛び道具有りだと!?

ゴドルフェンは仏のように微笑みながら、無情なルールを勝手に付け加えた。

「先生!? おわぁ!」

ピスが苦情を言う暇もなく、気の強そうな新入生の魔法士が遠慮のない魔法を飛ばす。

「ふぉっふぉっ! せっかく先輩が胸を貸してくれると言うのじゃ。時間は気にせず遠慮なくやりなさい」

そろそろ止めようかとタイミングを測っていたリアス先生は、ゴドルフェンが嬉々として介入した事で止めるのを諦め、やれやれと首を振った。

そして、遠くで心配そうに見守っている保護者や、不合格になった受験生達の退出を促す作業を手伝いに行った。

ピスは粘った。

この狭い範囲で体外魔法がありになれば、普通は即終了となってもおかしくない。俺ならすぐ捕まっただろう。

う~ん、あいつまた運転上手くなったな……。

長距離ツーリングに加えて、エクレールでの事件がきっかけになったのかは知らんが、精神面も一皮剥けた感がある。

先程までは使っていなかった正面階段を利用した立体的な軌道も使い、紙一重の所で包囲をすり抜けていく。

先程までは他人事として大盛り上がりだった上級生達も、今はピスの驚異的な運転技術を目の当たりにして騒然としている。

仏のような顔で笑っていたゴドルフェンは、あまりに連携が取れていない新入生に業を煮やして三階の窓から飛び降りて自ら助言を送っていたが、それでもピスを捉えられなかった。

今はもう諦めたのか、難しい顔で顎髭を撫でている。

新入生たちは魔力枯渇を起こして一人、また一人とリタイアしていった。

俺が半分呆れながらピスの運転を眺めていると、フェイがニコニコと笑いながら話しかけてきた。

「相変わらずアレンは人が悪いね? まさか魔導車があんな動きをするだなんて。これは 大事(おおごと) になるよ? 正規軍の騎馬隊との比較論が必ず出てくる」

「……だろうな。まぁ好きなだけ比較すればいいさ。一応言っておくが、ピスの運転が桁違いなだけで、練習すれば誰でも習得できる技術だと思わない方がいい。言葉で説明しても真の意味ではあいつの持つ天性のセンスは伝わらないだろうがな」

俺が素直に事実を述べると、フェイはくすりと笑った。

「へぇ~天性のセンス、ねぇ? 個人の技量が付加価値を生むのは騎馬と同じだね? ……ピスが言うには、随分前からこの形になるよう仕込みをしていたみたいだけど、一体何が狙いなのかな?」

フェイが猫科の肉食獣の目を 爛(らん) と見開いてそう質問してくる。口元だけはいつも笑っているこいつにこの目で迫られると、なぜかはぐらかすのが難しい。

俺は仕方なく白状した。

「……新勧だ」

「シンカン? 聞き慣れない言葉ですが、新入生を歓迎するイベントでしょうか……」

ジュエが横からそんな生ぬるい事を言うので、俺はやれやれと首を振った。

「歓迎じゃない、勧誘だ。部活動へのな。お前らはこの初日の人材獲得競争の重要性をまるで分かっていない。昨年あれだけ部活動が乱立し、新入生はたった百人しかいないんだぞ? 何が起こるか分からないのか?」

そう、俺が今日どうしても踏みたかったテンプレ。

それは、日本の大学入学直後に繰り広げられるサークル活動等への熾烈な勧誘合戦だ。

前世、そこそこ有名な私立大学に通っていた俺は、その熱気のある光景を目撃していた。

だが、サークル活動など堕落した大学生活を生む悪の 枢軸(すうじく) だと両親から教え込まれていたので、当然ながら四年間帰宅部を選択した。

あの時、見るからに根暗な俺を勧誘してくれた、テニスのユニフォーム姿でラケットを持った女の先輩の『謳歌してます』感は凄まじかった。

眩しすぎて直視できないほどだった。

そんな訳で俺は皆で新入生に部活の勧誘合戦をするのを楽しみにしており、正面階段へと呼び集めていたのだ。

だが計算が狂いに狂い、なぜかチンドン屋と認定されたので不貞腐れてピスに丸投げした、という訳だ。

「百聞は一見に如かず。 この国の未来(・・・・・・) がどう変わるのかを新入生たちはその目で見た。トゥーちゃん率いる魔導車部は今年、熱意のある人間が大勢加入するだろう。逆に人が集まらない部活は何もできない。お前らが呑気に構えている間に勝負はついたな」

少々手違いはあったが、俺は新勧合戦に誘導するためにクラスメイトを煽り始めた。

「…………アレンはちょっと、トゥーちゃん贔屓が過ぎるんじゃないかな? そもそも魔導車部にそんなキャパシティがあるの?」

フェイが危ない目で小首を傾げて聞いてくる。

「心配するな。魔導二輪車は夏に一般向けに発売する予定だから、宣伝も兼ねて試験機はこの春大幅に拡充された。今日を境に上級生も増えるだろうし、メカニックも合わせて目指すは三十人くらいかな。制服で王都を走り回ったらいい宣伝になるぞ~」

俺が青春のツーリングを夢想しながらうっとりとそう言うと、ケイトが目を丸くした。

「一般向け車両ですって!? 正気なのアレン、どう見ても最先端の軍事技術よ? それを一般向けに解放して荒稼ぎだなんて――」

「勘違いするなケイト。開発に国の援助は一切受けていないし、いくら売れても俺の懐には一リアルも入らない。そして価格面、踏破性などはまだ騎馬に優位性がある。ハレーションは限定的だろう」

こうした登場人物が複雑なプロジェクトを進めるコツは、『一人勝ち』に持っていかない事だろう。

むしろ、一番美味しい最後の手柄や権益の部分は他人に譲るくらいでちょうどいい。

俺としては魔導二輪車が広まって皆でツーリングできればそれでいいのだから、既得権益者とのしょーもない利権獲得競争などアホらしくってやっていられない。

裏で足を引っ張られるのが目に見えているからな。

「魔導二輪車を文化として育てるには、まだ越えなくてはならない革新がいくつもある。それには裾野を広げて民間の力を使った方が早い。儲かるところには金と人が集まるからな」

俺はそこで言葉を区切り、再び窓の外へと目をやりながら、『時間がない。これは誰にも邪魔はさせない』と宣言した。

技術を軍に囲い込まれて陳腐化するのをのんびり待っていたら、五十年やそこらはあっという間に経つだろう。

俺は老後の楽しみを育成している訳ではなく、今を楽しみたいんだ。

特に青春感の強いツーリングはどうしても学生のうちに実現したい事の一つだ。

俺が本気だと伝わったのか、皆がごくりと息を呑んだところで、隅の方で静かに話を聞いていたダンが三階の窓からひらりと飛び降りた。

そして、先程俺が運んできた凪風商会のロゴが入った旗を担いで叫んだ。

「俺はダニエル・サルドス! 帆船部の部長だ! 魔導車もいいけど、みんな俺と一緒に帆船やろうぜ! 風を味方にして船を走らせるのは気持ちいいぞ!」

流石はダン、決断が早い。

帆船部と凪風商会は王国騎士団の第二軍団と提携して、現行型よりも大きな船を複数建造中だ。

風魔法による帆船の操船は技量がないうちは魔力の消費が激しく、人が少なければトレーニングもままならない。

帆船そのものの操船を鍛えるのにも時間が掛かるし、新入生の確保は絶対の課題と言えるだろう。

ダンはジャガイモのような顔をサツマイモのように染めながら、ごにょごにょとこんな事を言った。

「し、シルフィ! か、風の力を貸してくれ」

ダンが持つスパンカーがぱたぱとはためき、新入生達からざわめきが起こる。

だが、些かインパクト不足だな。

俺はすぐさまダンの後押しをするべく、パチリと指を鳴らした。

魔導車部も大切だが、帆船部も俺が本気で取り組みたい事の一つだ。

部員確保に必要な後押しはさせてもらおう。

突如グラウンドに風が吹き荒れ、旗竿に括り付けた凪風商会のスパンカーがバタバタとはためく。

「「き、きゃー!!!」」

「へ? いや、その風は俺じゃな――」

ダンに黄色い声が飛んだ所で、ドルがひらりと窓から飛び降りた。

「…………代わってくれ、新入生。ピス、俺も挑戦させてもらうぞ!」

……次に動くのがドルなのは意外だな……などと思っていると、ジュエがくつくつと笑ってひらりと窓から飛び降りた。

「アルさんから部を預かっている私達が、魔法研を衰退させるわけには参りませんからね。援護します!」

…………なるほどな。

ジュエが祈るように支援魔法を発動すると神々しい光の粉が溢れ出し、ドルへと降り注ぐ。

「よし、いくぞピス! 臨兵闘者(りんぴょうとうしゃ) 、 皆陣列在前(かいじんれつざいぜん) !」

ドルは新入生にアピールするようにゆったりとした動作で印を結び、発動した地爆をピスへと投げた。

ピスは苦もなくこれを躱したが、腹に響く大音がグラウンドに響き、ダンが一身に集めていた新入生達の白い目を一気に引き剥がす。

「おわぁ! 挑戦も何も、お前もう部屋持ってるだろ! 何考えてんだドル!?」

「先輩によるエキシビションだ!」

ドルはそのまま走り出し、火球や水弾でピスを追い込んでいく。

ジュエもただ支援魔法を掛けながら見ているだけではない。

俺が持ち込んだ魔法士の大杖を使い、四角く成形された高級感のある石畳を器用に剥がす。

そしてくつくつと笑いながら、物凄く重量感のある石をフリスビーのように、遠慮のかけらもなくピスへと投げつけた。

「なっ!」

「ひいっ!」

新入生達はドン引きした。

まぁ一般人を相手にこんな事をしたら大変な事になるので驚くのは当然だが、ピスなら当たっても魔力ガードすれば大丈夫だろう。

次々とジュエによって石畳が剥がされ土が剥き出しになった地面を、ドルが成形して小山を作ったり、水魔法で泥沼を作ったりと、ピスを試すような障害物を作っていくが、ピスは全て魔導二輪車に乗ったままこれを越えていく。

だが、設置できる地爆の存在が徐々にピスを追い詰める。

「しまっ――」

設置された地爆をウィリーですり抜けようとしていたピスに向かって、ジュエが絶妙なタイミングで支援魔法を掛けて、力の入れ具合を間違えたピスが大きくバランスを崩す。

ピスは何とか足をついて転倒に耐えたが、ドルはその隙を見逃さずに一気に距離を詰め、肩にタッチして勝負がついた。

「ちぇ。負けだ負け」

ピスが唇を尖らせてエンジンを切ると、ドルが苦笑した。

「よく言うぜピス。この狭さでジュエと二人がかりじゃ、とても勝ったとは言えないだろ。流石にこっちが有利すぎた。とんでもない機動力だな」

そう言ってピスの肩を軽く小突く。

「とまぁ、体外魔法研究部はこんな感じの和気あいあいとした楽しい部活動ですっ。ぜひ皆さん、見学に来てくださいね?」

先程まで美しかった、だが今はぐちゃぐちゃになった白亜の学舎前でジュエが可愛らしく小首をかしげると、新入生達はごくりと息を呑み、一拍おいて盛大な拍手が湧いた。

皆がドルとジュエに気を取られているうちに、二年Eクラスからトゥーちゃんがそっと飛び出してきた。

「お疲れピス。アレンちゃんの無茶振り? 結構無理して回したね……」

そう言って、矢も盾もたまらずとその場で機体の点検を始めた。

「アレンのやろう、何が『新入生に一発かまそう』だ。初めから宣伝狙ってやがったな。おい新入生! 魔導車部の部長トゥード・ムーンリットがこのまま整備点検するってよ! メカニックに興味あるやつは近くで見といて損はねーぞ!」

ピスが青春はちまきをさりげなくトゥーちゃんに巻きながら声を上げると、新入生達はわっと集まってきた。

「……僕達も行こう、シャル」

「うんっ!」

「坂道部部員募集中だ。入部希望者は私まで。マネージャー希望者は統括マネージャーのケイトまで申し込みを頼む!」

「地理研究部〜! 世界の形を一緒に研究しましょう!」

「魔菜栽培部~。一緒に畑を耕して美味しい魔菜を作ろ~」

「勉強部! なぜ人は勉強するのかを、共に勉強しよう」

「私が立ち上げる淑女倶楽部に入りませんこと? 一緒に『淑女の一般教養』を極める道を歩みましょう」

「ピス。先ほどのドルと同じルールで俺にも挑戦させてくれ」

「しつこいぞライオ!」

その後、次々に上級生達が学舎の窓から飛び出してきて、アレンの狙い通り勧誘合戦となった。

だがこれは流石に教師のリアスが止めて、オリエンテーションの後に改めて先輩による新勧合戦は行われる事となった。

新入生を勧誘するスタイルは様々だ。

例えばフェイなどは『魔道具士はセンス』と言い切り、魔道具研究部は少数精鋭の方針を崩すつもりはないらしい。

『君ならこれをどうする?』などと書かれた、どうやら不完全らしい魔道具の図面を掲示板に貼って終わりだ。

その答えを聞いて、フェイがセンスありと認めた二名が新たに部へと所属したらしい。

このようにして王立学園は新たな若き才能を迎え、新学期をスタートした。