軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

147 防衛拠点の強化(1)

「さて……

こちらも取り掛かるか」

いつまでも不貞腐れていても仕方がない。

ダークフェレットの討伐任務からクラスメイト達が戻ってくる頃には、俺の楽しみにしていた林間学校は半分が経過してしまうが、とにかくこちらはこちらでやるべき事をやって、さっさと温泉を目指すしかない。

俺は物資の中から紙と鉛筆を取り出し、日の当たる石の台の上に置いた。

すると俺に指名され、唯一第2想定の防衛拠点に俺と共に残る事になったベスターが、不思議そうに聞いてきた。

「…………なぜ俺なんだ、アレン?

正直に言って、俺はアレンと特別仲がいいというわけでもないし、こうした防衛拠点を構築した経験などないぞ?」

まぁそうだろうな……というかそんな経験のある奴はさすがにあのクラスメイトにもいないだろう。

「それはなべスター。

第2想定のリーダーである俺が、お前に防衛拠点を強化するための設計を考えてほしいと思ったからだ」

俺がそう率直に答えたら、ベスターは首を傾げた。

「……答えになってないぞ?

俺は確かに学科の成績はライオに次ぐ2位だ。

向こうの任務にライオが必須なら、次点は俺という事にはなるが……

防衛拠点構築は授業でもまだ習っていないし、というかそもそも2年生以降に騎士コース生が習う内容だろう? 俺も興味本位で少しは齧っているが、官吏コースだしほんの基本だけだぞ?」

このいかにもエリート然としたべスターの回答に、俺は苦笑した。

だが官吏コースにもかかわらず、興味本位で2年の騎士コース生の授業内容を齧る姿勢は素晴らしい。

こいつは勉強が好きなのだろう。

まぁ指名した理由とは全く関係ないが……

「学科の成績も官吏コースも教科書も関係ない。

もちろん仲の良さもな。

そもそもこういった実地では、教科書で齧った知識だけではなんの役にも立たない。

実際に自分の手と頭を動かし身に付けたノウハウと経験が合わさらなければな。

その経験を積むための林間学校だ」

俺がそう言うと、ベスターはますます意味が分からないという顔をした。

「仮にライオをこちらに配置できる状況でも、一人を選べと言われたらベスター、俺はお前を指名しただろう。

なに単純な話だ。

俺が攻め手になった事を想像した時、誰が守っている防衛拠点が最も攻めにくいか? それがベスター、お前だというだけの事だ」

俺がそう言うと、ベスターは心底意外そうな顔をした。

「本気で言っているのか、アレン……?

俺は正直言ってお前のような突飛な発想力もないし、ダンのように瞬時に状況を分析して必要なリスクを取る胆力もない。もちろんライオのような総合力もない。

これは俺の欠点だとは思うが……手堅いだけの人間だ。

戦闘能力でいえばステラよりも随分下だろう」

俺はベスターの自己分析に大いに首肯した。

「なんだ、分かってるんじゃないか。

今お前の言った通りだベスター。そもそも拠点防衛で突飛な発想が必要とされる場面とはいつだ?」

俺がこう質問すると、ベスターは沈黙した。だが想像はついているだろう。

「そう、それは負けそうな時だ。リスクを取る、という発想も同様だな。困った時にどちらがマシかという判断が速くて確実だという事だ。

そしてライオやステラなどの能力は個としての話だ。特にライオなどに設計をさせると、あいつ基準で物事を考えて、穴だらけの代物になるだろう。

まぁあいつは坂道部の副部長を通じてその自覚が強まっているから、そもそも自分で設計しようなどとは考えず、適任者に任せるだろうがな。

手堅いだけなどと卑下する必要はどこにもない。事前にあらゆる可能性を考えて徹底的にリスクを洗い出し、確実に潰し備えておく。そういう思想で拠点を構築されるのが、攻める側としては最も嫌なんだ。

もちろん攻め手になると単純に手堅く攻めるのではなく、相手の準備を崩すための工夫が必要となるがな」

俺はこのように自分の忌憚のない考えをベスターに伝えた。

するとベスターはなぜか泣きそうな顔になり、深呼吸を一つした。

「……アレンは俺の事を苦手にしていると、そう思っていたのだがな」

俺は『なぜ?』と聞いてみた。

「なぜって……アレンは嬉々として火の中に突っ込んで、平然と栗を拾ってくるタイプだろう。石橋を3回叩いてから、渡るか渡らないかを慎重に検討するタイプの俺と、合うはずがない。

そう思わないか?」

このベスターの例えに、俺とベスターは笑った。

「相変わらず失礼な奴だ。

嬉々として火の中に突っ込んでいくことなど……ほとんどない。安全が確保されていて、中の栗が魅力的な時だけだ。

そうでない時は――嫌々突っ込む。

色んな奴がいたほうが、人生面白いと思わないか? それに俺も 昔(・) はベスターと似たようなタイプだったしな」

「へぇ~アレンがか? どんな子供だったんだ?」

『アレン』の子供時代の話ではないが、俺は目を細め、昔を懐かしむようにして答えた。

「……安全で確実な道ばかり選んで、リスクを取るなんて考えもしなかった。

ベスターのように好きで勉強している訳でもなく、何にも興味が無かった。

将来の就職に有利だからという周囲の言葉を鵜吞みにして、機械のように勉強する、真面目・堅実以外に何の取りえもない子供だ」

ベスターは1拍おいてから『嘘つけっ』と言って俺の肩にグーパンチした。

ひとしきり笑った後、俺たちはそれぞれの仕事に取り掛かった。

俺がベスターに防衛拠点の強化方針に関する検討を丸投げし、籠城戦になった時のために必要となる食料や物資の調達をして15時ごろ拠点へと帰ると、ベスターはあらかた設計を固めるための準備、すなわちどのようなリスクに対応しなくてはいけないかの検討を終えていた。

その対魔物、対人の双方を想定したリスクをずらりと書き出したリストは、よくもまぁこんなに重箱の隅をつついたようなネガティブな思考まで出てくるなとあきれるものまで網羅されている。

「とりあえずアレンの言う通り、リスクを種別ごとに ツリー(木) の形に書き出してみたけど……」

俺はリーダー権限を振りかざし、前世でFTA解析と呼ばれていた体系的に要因分析ができる手法をベスターに伝えて丸投げしておいた。

本来は fault(事故) が起きた後に原因を究明するために取られることが多い手法だが、それを応用した形だ。

「さすがだな、ベスター。こんな短時間でここまで ツリー(想定) が深くなるとは、俺の予想以上だ」

俺がそう言うと、ベスターはふんっといって眼鏡を上げた。

「たった72時間で全てのリスクに対応することはできない事は分かっているが、書けるだけ書けという指示だったからな。この中で優先順位を付けて取捨選択するのだろう?」

「そうだな……魔物に対する備えは一旦考慮から落とそう。

対人に備えておけばある程度は対応できそうだし、何よりここは『国境防衛』拠点という想定だ。 魔物暴走(スタンピード) などの事態でこの施設を死守する意義は薄い。

ココとステラが帰ってきてから、施設の維持にどうしても対処が必要な魔物がいるか相談して、いれば対処に組み込もう」

じゃあ最初から魔物の想定は外せと言われそうだが、一旦あらゆる可能性を排除せず網羅的に書き出すのがこの手法のキモだ。

その過程で色んな気づきが出る。

俺がそう伝えると、ベスターは特に不満な様子もなく頷いた。

「了解だ。

そうすると、対人想定で時間内にリスク低減策として実現可能なのは……こんな所だろう」

そう言ってベスターがささっと簡易的な設計図を引いてみせた。

拠点回りを木の柵で三重に囲み、それぞれ通過できる入り口方位をずらして大人数で攻められた場合の機動力を削ぐこと、脱出用の緊急出口を床下に構築すること。

遺跡上に物見やぐらを作る事などだ。

確かにこれならばあいつらが帰ってきてから手分けしたら無理なく構築できるだろう。

だが……その無難な落としどころを見て、俺は即座に首を振った。

「それじゃだめだ。面白くない」

俺がキッパリとこう言うと、ベスターは思いっきりその顔を引きつらせた。

「お、面白いとかそういう問題じゃ……」

「いいかベスター!

俺たちには、あのくそじじいにこんな所へと隔離されて、青春の大切な思い出を奪われたという恨みがあるんだぞ?!

あのくそじじいに1発かましたいと思わないのか?」

「ええっ? いや俺を指名したのはアレンだし、俺は別に恨みなんて――」

「そうだろう! 気に入らない事があれば担任も泣かす! それでこそ王立学園1-Aクラスが誇る『受け師』ベスター・フォン・ストックロードだ!

そのお前がこんな、しみったれた設計図を引きやがって……あれほど沢山のリスクを書き出したのに、結論がこれだなんて、お前は細かい事だけが自慢の嫁いびり 舅(しゅうと) か!」

俺はそう言ってテレビ台に積もった埃を拭うような仕草で石の台を拭い、指先についた埃をフッと吹き飛ばした。

「う、受け師って何だ? 俺は拠点構築なんてやった事ない素人だと言っただろう?!

そもそもこの遺跡は恐らく元々国境防衛とは何の関係もない建物だし、立地的に守るのに向いていない。

やっぱり時間も人数も限られている中でも実現できる形を――」

このベスターの発想に俺は手を打った。

「なるほど! 流石はベスターだ!

言われてみればこの遺跡にこだわる必要はないな。

ここは国境防衛拠点の一部、物見櫓という事にして、山岳地形を利用した山砦という形で設計しよう!

この辺りの国境を防備するために必要な拠点をいくつか設け、それらが連動する形だな。

それなら少しはじじいと勝負になる気がしてきた!」

ベスターは真っ青な顔で反論してきた。

「いやいやいや、何考えてんだアレン!

どうしてゴドルフェン先生と勝負する必要があるんだ?!

そもそも、そんな大規模な山砦なんて72時間以内に構築できるわけがないだろう!」

「??

完成させる必要はないぞベスター。

与えられた想定は『奪還した国境防衛拠点を修復・強化し、敵の再来に備えて72時間以内に防衛能力を 可能な限り(・・・・・) 強化せよ』だ。

こんな曖昧な想定なら国境を防備するために何が必要か?を軸に考え、拠点を拡張するのはなんの問題もない。

むしろゴドルフェンなら喜ぶだろう。

どうせ次の第4想定が36時間後に別にあって、最後の第5想定で防衛戦をやらされるに決まっているんだ。

バカ真面目にじじいの想定に乗っかっても、ジリ貧の戦いを強いられるに決まっている!

これは決定事項だ!」

第2想定リーダーの俺がこう宣言すると、ベスターは形容し難い、あえて漫画風に表現すると『口から魂がはみ出したみたいな顔』で、暫くの間停止した。