軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139 第一想定(2)

「ステラはどの程度夜目が利くんだ?」

俺は道中走りながらステラに聞いてみた。

「夜目か……少々速度は落ちるが、山歩きは問題ない。

だが戦闘能力は大幅に落ちるな」

ふむ。

坂道部の部長であるステラの脚力は、当然ながら概ね把握している。

余談になるが、坂道部は後期からステラが部長、ライオが副部長の形で運営している。

実力的にはライオの方が上なのだが、ライオは部長を辞退した。

理由は2つあって、1つはライオが忙しくて全体の取り纏めをするのが難しいという事。

そしてもう1つは、自分は人を指導するのに向いていないと考えている事だ。

確かに、細かな技術論になると、ライオは他の多くの部員とはアプローチの仕方が異なる。

魔力量が桁違いに多いためだ。

『別に技術論を細かく伝えられる事だけが部長の条件ではないと思うぞ?

誰がやっても完璧などない。背中を見せて、細かな指導は下に任せるというやり方もあると俺は思うが……』

俺がそう言うと、ライオはステラを見てニヤリと笑った。

『俺はステラの事を見誤っていた。

正直もっと大雑把な性格をしていると思っていたのだが……

この半年で、ステラの部員たちに対する面倒見の良さ、細やかな気配りをつぶさに見て、考えを改めた。

ステラが部長をやるのが、まだ生まれたばかりのこの部活動を育てていくのには最適だと思うし、俺はステラの下で、ステラがどうこの部活動を運営していくのかを勉強したいと思っている』

ライオはこういう事を真面目な顔で言う。

ステラが返答に困っているように見えたから、俺が冗談で『失礼だぞライオ、ステラは男以上にサバサバしているだけで、決してガサツ女ではない!』と混ぜっ返すと、鳩尾に重い一撃を見舞われた。

日本のお約束が通じない……

ちなみにもう1人の副部長だったダンは、俺と2人ぼっちの帆船部の活動が忙しいので、坂道部はヒラの部員になっている。

まぁそんな訳で、ステラは現在坂道部の部長だ。

今は学園一周40kmプラス500mの坂道ダッシュ10本を含めて1時間30分程で走る。

とするとランニングとダッシュを組み合わせた50kmの平均速度はおおよそで時速33kmといったところだ。

これは名誉監督である俺を除く1年の部員では、ライオとダンに次ぐ3位のスピードだ。

しかも、もうすぐダンを抜くだろう。

ダンは帆船部の活動に加え、体外魔法研究部にも加入して風魔法の研究にも力を使っているからな。

特化型のステラとは目指している形が違う。

尤も、ダンも、そしてステラも瞬間魔力圧縮はまだ殆ど出来ないようなので、同じペースで250kmを走り切るのは不可能だろう。

休憩を挟まなければ、途中でステラの魔力が枯渇する。

そもそも俺も250km休憩無しというのは、魔力というよりも肉体的にかなりキツい。

俺は合流までの計画から逆算し、ステラに告げた。

「往路のルート選定及びペースはステラに任す。

街道を行くにしても、悪路を進むにしても、魔物の対応は全てこちらでやる。

休憩を含め、遅くとも12時間で走り切ってくれ。

その後、山に入ったらペースを一旦落とすから、残存魔力は気にしなくていい。

山に入ると不確定要素が増すから、ここでは詰められるだけ時間を詰めたい」

俺がこう言うと、ステラは頷き、少しだけ速度を上げた。

途中いくつかの水が補給できるポイントで小休止を挟みながら、俺たちは駆けた。

ステラが選択したのは、田舎街道をきっちり250kmほど走る道だった。

ショートカットする道もあるにはあるらしいが、普段の坂道部で培っている走りの『型』に可能な限り近い形で走った方が、結果的には消耗が少なく速く走れると判断したとの事だ。

身体強化を用いて走るのは楽しい。

これは転生者である俺特有の感覚だろう。

自分の体と対話しながら、どうすればより速く、より少ない力で前に進めるか。

この単純なようで奥深い作業に思考を没入させながら、俺たちは250kmを走り抜けた。

インパラの町へと到着したのは午後8時前。

タイムは9時間50分ほどだろう。

このような田舎にしては珍しい、しっかりとした水濠のある町だ。

駐留軍がいる事からしても、恐らくは周辺の魔物が手強いのと、国境に近いことからも軍事的な意味で要衝なのだろう。

「流石だなステラ。

俺の想定より1時間以上早い」

跳ね橋を渡ったところで崩れ落ちるように座り込むステラに水を差し出しながら、俺は労いの声をかけた。

「ぜぇー、ぜぇー。

す、涼しい顔して走り切りやがって……」

魔力枯渇ギリギリなのだろう。

ステラは恨みがましい虚な目で俺を見てそう答えた。

「俺だってそれほど余裕はない。

流石に足にきている。

……本来であればアキレウス領の名物料理でも紹介してもらいゆっくりしたいところだが、残念ながら時間がない。

俺は駐屯所に伝令へ行ってくるから、ステラはここで可能な限り魔力を溜め戻していてくれ」

魔力的にはまだ余裕はあるが、流石に筋力的には疲労困憊だ。足裏にもかなりの痛みがある。

だがゴドルフェンが拘り抜いたという温泉が俺を待っている。

またいいようにあの ゴドルフェン(じーさん) に踊らされている気がするが……

俺はステラに町の門をくぐった場所で、休んで待っているように伝え、軍の駐屯所へと足を向けた。

するとその入り口には、1人の百戦錬磨と思しき壮年の騎士が立っていた。

「ふむ。

午前10時過ぎに先方を発つだろうとは聞いていたが、たった10時間でここまで駆け抜けたか。

しかもまだ余裕があるとみえる。

その歳にして、妥協なく己を鍛えているようだな。

流石はあのアキレウス家の歴史の中でも傑出した天才、ステラが認めた男だけはある。

……ふぅ。

……よかろう。

わしに勝てば、ステラとの交際を認めようではないか!」

渋いシルバーの装備を身に纏った騎士は、そう言って長剣をブンと一振りした。

「伝令!

ロードリア山の山頂、クコーラ都市連邦との国境付近に正体不明の軍勢が現れ、国境警備軍の防衛拠点が陥落したとの報が入った!

北西部方面軍・第6大隊は至急救援に向かわれたし!

以上!

……確かに伝えたぞ」

俺はそう言ってそそくさと踵を返した。

「ままま、待たんかぁ〜い!」

「かなり際どいな……」

ライオは難しい顔でココへとそう語りかけた。

かなりのハイペースでここまで進んできた事もあり、日中このままのペースでいけば、夜間、そして魔物が手強くなる後半に多少ペースが落ちても、刻限の2、3時間前には目的地へと到着するだろう。

だが、何かアクシデントがあれば、たちまち任務が非達成になりかねない。

ココは、よほど運が悪くない限りそれほど手強い魔物は出現しないとは考えていたが、運に任せたくはない。

「元々厳しいのは分かってた。

ある意味想定通り。

ここから余裕を生むには、発想の転換が必要。

アレンがいれば、なにか奇想天外な事を言い出しそうだけど……

誰かアイデアはない?」

ココがそう皆に問いかけると、地理研究部所属でココとルート選定をした、シャルがおずおずと手を挙げた。

「あの、えっと……

この先の想定ルートは登山道として地図に記載されているルートに沿っていて、かなり曲がりくねっています。

特にこの2-C休憩ポイントの先は、相当な遠回りを強いられます。

おそらく手強い魔物の生息地となっているか、地形の関係で進めないなどの理由から迂回しているのだと思われますが……

私たちなら越えられる可能性もあります。

確かめる価値は……あるような……」

シャルが両の人差し指をツンツンと合わせながら自信なさげな提案をすると、ライオはダンへと顔を向けた。

「……単独での斥候は危険だということは承知しているが、確認を頼めるか?

すまんが斥候に人数を割く余裕はないし、本隊は今のペースを維持する必要がある。

ダンが見て進軍不可能だと判断したなら、それは越えられないという事だ。

俺たちはダメだった時の為に、予定通り先へと進む。

ダンの荷物は戻るまで俺が担いでおく」

「了解!30分ほどで戻る」

ライオのこの打診を受けて、ダンはすぐさま走り出した。

自分が出した意見が採用されたシャルはほっと息を吐き、ココに向かって頬を膨らませた。

「ていうか、ココ君はとっくに分かってたでしょうー!

なんで私に言わせるのー! も〜!」

「……シャルもさっきの峠を越えたあたりから気がついていたよね?

今みたいに、思った事はどんどん口に出したほうがいい。

僕では気がつけなくて、シャルだから出てくる発想というのも絶対にある。

他の皆も。

遠慮してたらこの先どんどん苦しくなる予感がする」

「きゃははは!

ココもやり口が何となくアレンに似てきたね?

……ダンの荷物は僕が持つよ。

僕はあまり武芸が得意じゃないけれど、まだ体力的には余裕があるからね。

ライオが荷物を2つ持って戦闘に参加できなくなると、全体の安定感が著しく下がるよ?

それは皆の疲労に繋がるんじゃないかな」

「……まだ持てるのか、フェイルーン」

ライオが呆れたようにそう問うたのは、すでにフェイは輸送物資50kgに加えて、行軍に必要だと判断した様々な追加荷物を20kgほど負担しているからだ。

フェイはダンが負っていた50kgのザックを身体の前側に負った。

同時にミシリ、っと地面が軋む。

「どうにもスマートじゃないね?

こんなところ、アレンにはとても見せられないよ。

またゴリラ女、なんて言われたら傷ついちゃうからね」

フェイはそう言って悪戯っぽく笑った。

一同が便宜上2-Cと名前をつけたポイントで小休止していると、ダンが戻ってきた。

「見てきたぞ。

やはり崖になっていたが、ロープを垂らせば俺らなら全員登れそうだ。

ちょうど少し戻った所にイヤカズラが群生してる所があった筈だから取ってくる。

あれは細い割にかなり強度が強いから、1人ずつ登れば切れる事はないだろう。

皆は荷物を持って先に進んでいてくれ」

そう言ってダンは来た道を疾走していった。

目的の崖に皆が到着するのと、ダンが植物の蔓を抱えて合流するのはほぼ同時だった。

ほぼ垂直に聳え立つ崖を茫然と見上げながら、ピスはダンへと顔を引き攣らせながら問いかけた。

「……ロープを上から垂らすのは良いけど、どうやって最初の1人は上に登るんだ?

この崖高さが70から80mはあるぞ……」

「ん?

そりゃロープ無しで普通に登るしかない。

ちょっと危ないが、さっき試しに登ってみたから大丈夫だ。

蔓は2本分取れたから、1つは荷物の引き上げに使おう。

俺が上からロープ投げたら、こんな感じで結んでくれ」

そう言って何本かの蔓を結索して長さを確保したあと、ザックに蔓を流れるように結んで引き締めた。

「ちょ、ちょっと待てダン!

速すぎてよく分からなかった、もう一回やってくれ」

ピスが慌ててダンを引き留める。

「……僕も実家で基本的なロープワークは学んだけど……めちゃくちゃ速いね、ダン。

……これは強化もやい結びだね。

僕が結び方はわかるからダンはもう行って」

ココがそう言うと、ダンは頷いて絶壁にヤモリのように取りつき、スルスルと登り始めた。

「……あいつあんまり自分の事を話さないけど、いったいどう育てられたら伯爵家の息子があんな風になるんだ?」

ピスはあっという間に崖の半ほどまで登っているダンを見上げながら、茫然と呟いた。