軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

125 立食パーティー(4)

どいつもこいつも適当な噂話をさも極秘情報のように話しやがって、いったい何を考えているのだろう。

俺の容姿が凡庸なことくらい、学園生に聞けば1発でわかるだろうに、なぜ美男子だなんて噂が立つんだ……

何度か方向転換を試みたが、まるで相手にされなかった。

人は信じたいものを信じるとは、確か古代ローマの将軍の言葉だったか。

……まぁ大体雰囲気は掴めた。

イマイチではあったが、デザートも全種類制覇した事だし、そろそろ帰るか。

「あの、マキテさん、俺はそろそろ帰ります。

今日は色々教えて下さってありがとうございました」

マキテさんは出会った時から変わらない、親切そうな笑顔で振り返り――

その笑顔を凍らせた。

くつくつと聞き慣れた笑い声が背後から聞こえ、大広間の騒めきは潮が引くように静まり返っていった。

「あら、こうしたパーティでは、帰る前に主催者に一言挨拶をしておく事をお勧めいたしますよ、ポークさん?

素敵なお洋服ですね?

……久々にお会いできて嬉しいですっ」

……気配を抑えて近づいてきやがったな、こいつら。

「いえいえ、拙者はしがない養豚場の倅で、普段はポーターをしている身。

高貴なお嬢様にご挨拶など恐縮でござる――」

俺が声色を変えながら振り返らずにすすすと出口に向かって足を滑らすと、フェイがすかさず回り込んできた。

「それはもういいよ、アレン。

顔を出してくれたのは嬉しいけれど、2ヶ月ぶりに会った学友に挨拶もせずに、食事だけしてさようならとは、いったいどういう了見かな?

夏休み中も色々一緒に行きたかったのにずっと音信不通だし、いくら気丈な僕でもそろそろ泣くよ?」

フェイの珍しくいじらしい顔つきに、そこら中から溜息が漏れる。

「お前が挨拶しなかったくらいで泣くようなタマか?!

……ちょうど今挨拶してから帰ろうと思っていたところだ。

じゃあな」

「きゃはははは!

相変わらずアレンは乙女心が分かってないね?

僕だって泣く時は泣くよ?

その必要があると思ったらね。

そんな事よりこういった場ではまず、洋服やアクセサリーをさり気なく褒めるのがマナーだよ?

さ、褒めて?」

フェイはそう言うと、その場でモデルのようにくるりと回った。

そうなのか……

マキテさんはそんな事を言っていなかったが。

だがフェイが身につけている、一流デザイナーの手によると思われる、大胆に肩を出した膝丈のスパンコールドレスに庶民派の俺が持つ感想など、『ド派手』以外何もない。

前世で海外の一流ブランドのファッションショーをテレビで見た時と同じ感想だ。

耳にぶら下げているイヤリングらしき物は、前世で言うキャッシュカードぐらいの大きさがあり、耳が痛くならないのか心配になる。

何と言うのが正解かは分からないが、とりあえず何か言わないと収まらなそうなので、俺はとりあえず褒めた。

「目がチカチカするほどド派手なドレスだな、フェイ。

お前らしいよ。

そのイヤリングも中々綺麗な四角形でいいんじゃないか?」

俺がこう言うと、そこら中から失笑が漏れた。

……まぁ正解じゃないのは分かっていた。

だが今の俺にはこれが限界だ。

「ありがとうアレン!

アレンもそのジャケット似合ってるね!」

だがてっきり怒るか馬鹿にするとばかり思っていたフェイは、照れ臭そうにはにかんだ後、嬉しそうにニコニコと笑った。

意味が全くわからない……

笑い声はピタリと止まった。

次にケイトが話しかけてきた。

「久しぶりね、アレン。

新星杯ではまたやらかしたみたいね?

ロザムール帝国に真正面から喧嘩を売るだなんて、あなたの辞書には自重という言葉はないの?

まぁあなたの事だから、どうせ色んな思惑があるのでしょうけど……

ところで今日はわざわざ顔を出して、声もかけずに帰ろうとするなんて、いったい何しにきたのよ?」

思惑があったのはゴドルフェン先生で、俺は踊らされただけだけどな。

いや単純に王都の名門ホテルを見てみたくて、ついでにパーティーがどういう雰囲気なのかを確認してみようと思っただけ――

そう言おうとした所で俺は、集結している王立学園生の一番後ろで縮こまっている、ある人物を発見した。

趣味の悪い真っ赤なモーニングのような服を着ているのに、まるで存在感がない。

「お前らはどうせ明後日からクラスで毎日顔を合わせるだろ?

俺が用があったのは――」

つかつかとその人物のところまで歩いて、親しげに声をかける。

「トゥーちゃんおひさ!

夏休み実家帰った?」

この俺のセリフを聞いて、会場中が一斉にトゥード君へと視線を注いだ。

何が起こったのか理解できず呆然としているトゥード君には悪いが、マキテさんの顔を潰さないために協力してもらおう。

親父同士が仲良いみたいだし、できればこれからは俺も仲良くしたい。

辛うじて頷いたトゥード君に、俺はさらに声をかけた。

「トゥーちゃん帰ったの!

いいなぁ、俺は予定が合わなくて帰れなくてさ。

今年の春まき小麦の出来はどうだった?」

「あ、あぁ、うちもロヴェーヌ領も中々良さそうだったぞ、アレン……ちゃん?」

流石は天下の王立学園生!

素晴らしい即応性だ!

地元も近いし、トゥーちゃんとは仲良くやれる、間違いない!

「いやぁ、昨日久々に寮へと帰ったんだけど、何だか王都の子爵邸より落ち着いたよ。

やっぱり俺たち2人だけは、入学当初から一般寮を楽しんでいたし、最早あの寮は第2の実家みたいなもんだよね!」

俺はトゥーちゃんとがっしりと肩を組んだ。

「……どういう事かな、トゥーちゃん。

僕は何も聞いてないよ?

ちょうど今王都に お婆さま(侯爵) がいるから、後で夕飯でも食べながらじっくり話を聞かしてもらってもいいかな?」

フェイはそのネコ科の肉食獣のような目をランと見開いて、首を傾げながらトゥーちゃんに問いかけた。

静まり返っていた会場に騒めきが広がる。

「ポークさんが……ポークさんが本当にあのアレン・ロヴェーヌ様……」

「それよりも、あのアレン・ロヴェーヌ君がフェイ様やジュエ様に塩対応をしておきながら、真っ直ぐに彼へ向かって歩いたぞ?」

「アレン様に続いてフェイ様にまでちゃん付けで呼ばれるだなんて……」

「「いったい彼は何者なんだ?!」」

くっくっく。

皆トゥーちゃんの事が気になっているようだな。

だが驚くべき人材は他にもいる。

「いや、参ったよトゥーちゃん。

レベランス領には腕っこきの情報屋がいてさ。

様々なスジからの情報を繋ぎ合わせて、ロヴェーヌ家とムーンリット家の(俺も知らなかった)関係を、見事に推察した人がいるんだ。

これには流石に俺も舌を巻くしか無かった。

……紹介するよ、マキテさんだ」

俺は笑顔でマキテさんへと掌をさしむけた。

会場中の視線がトゥード君からマキテさんへと一斉に向かい、さらに騒めきが大きくなる。

マキテさんは、ゆっくりと後ろを振り返った後、『俺?』みたいな感じで自分を指差した。

ジュエがくつくつと笑いながらコツコツとマキテさんの下へと歩き、手をスッと上げる。

ピタリと騒めきは収まった。

「マキテさん?

お話がありますので後で王都のレベランス邸へ来てください。

レベランス侯爵(お父様) と夕食を取りましょう」

「……後で情報を突合するのも面倒だね、ジュエ。

そうだ、 うちの(・・・) トゥーちゃんとお婆さまも一緒に、皆でディナーというのはどうかな?

もちろんアレンもね」

フェイはニコニコと提案した。

「すまんが俺は大事な用があるから、ここで失礼させてもらう。

あ、トゥーちゃん!

最近俺魔導車に凝っててさ〜。新しい部活動を立ち上げようと考えてるから、一緒に始めない?

また相談する!

お前ら、トゥーちゃんとマキテさんに無理強いして迷惑かけるなよ?

じゃ、また明後日な!」

俺は勝手にそう宣言し、出口へと足を向けた。

こいつらの肉親である侯爵2人に挟まれてディナーなど、冗談じゃない。

今日は久しぶりに心ゆくまで学園で弓を引くという、大事な予定があるのだ。

だが、俺がそそくさと会場を後にしようとしたら、トゥーちゃんがその顔を紅潮させて声をかけてきた。

「ア、アレンちゃん!

俺も、俺も魔導車が好きだ!!」

お、トゥーちゃんも好きなのか!

恐らくこれは本心だろう。

その目に込められた力の強さを見ればわかる。

まぁ俺らの地元あたりのど田舎には馬車しかないし、魔導車は都会の象徴のような物だからな。

憧れる気持ちは分からなくもない。

恐らくはど素人だろうが、俺だってズブの素人だし、大切なのは情熱があるという事だ。

「トゥーちゃんは好きだと思ったよ!

それじゃあトゥーちゃんに部長をお願いしようかな。

じゃ、また学園で!」

俺はそう言って、今度こそ会場を後にした。

はぁ〜、何とかマキテさんの顔を潰さずに、丸く収まってよかった。

トゥーちゃんとも仲良くなれたし、今度地元トークで盛り上がろう。

……夏休みも終わりか。

少し寂しいが、なんだかんだで充実した夏だったな!

こうしてアレン・ロヴェーヌの、王立学園一年生前半期は幕を閉じた。

前代未聞の男としてその名を国中に轟かせ、一気呵成に世代の象徴にまで駆け上った彼だが、この後しばらく、この怒涛の前半期と比較すると、意外なほど大人しい学園生活を送る事となる。

彼の優れた学友たちが次々に頭角を現して、相対的にアレン・ロヴェーヌへの注目度が下がった事も、そう見える理由の1つだろう。

そして何より――

彼は恐らく見通していた。

この タイミング(前半期) で集め、そして育てなければ間に合わないという事を。

そう彼は。

その異常なまでの先見性により、後に『 タイムトラベラー(未来から来た男) 』とまで言われる、アレン・ロヴェーヌは。

ーー神しか知り得ぬはずの 歴史の転轍点(遥か未来) を、ただ1人、すでにその視界に捉えていた。