軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

かもしれませんね

僅かな会話の後にイストファが頷いたのを確認すると、カイルは木々の間から道へと飛び出す。

「おい、このブタ! こっち来いやオラ!」

杖をブンブンと振り回し、跳ねながら叫ぶ。

これ以上ないくらいに分かりやすい挑発だが、それ故にアーマーボアも気付きやすい。

アーマーボアはカイルを見つけるとブシュウ、と息を漏らし突撃の準備を整え始める。

この時間も隙といえば隙だろうと、イストファはそんな事を思う。

そして、アーマーボアが走り出したその瞬間。カイルは杖をアーマーボアへと向ける。

「フリーズショット!」

バキン、と。放たれたカイルの氷の魔法がアーマーボアの足の1本に命中し地面ごと凍らせる。

そして同時にイストファが飛び出し、カイルを掴み抱えて向かい側の木々の間へと走り込む。

カイルの提示した作戦は、ただそれだけ。

当然ながら、カイルの凍らせたアーマーボアの足はすぐに拘束を逃れるだけのパワーを持っている。

だからカイルが氷の魔法を放った時、ドーマは失敗だと確信して。

「え……」

バランスを崩し転倒したアーマーボアの姿を見て、そんな声をあげた。

その巨体を地面に強かに打ちつけたアーマーボアの身体から響くのは、足の骨を折った音。

ボギンッ、と。そんな激しい音を立て転倒したアーマーボアはその勢いのまま身体を回転させながら地面に打ち付け、何度かバウンドして近くの木にぶつかり停止する。

ビクン、ビクンと身体を痙攣させるアーマーボアの姿に、ドーマは思わず「ええええええ!?」と驚きの声をあげる。

「な、なんですか今の! え!?」

「足を引っ掛けるのと同じ理屈だよ」

「いや、それは分かりますけど。あんな簡単に……ええ!? だってあいつ、ロープの罠くらいならブチ破るパワーが!」

「バーカ、今のはロープじゃなくて魔法だ。一瞬で破られようと、俺のフリーズショットは確かにあいつと地面を縫い付けた。あの速度で走って一瞬でもバランスを崩せば……そりゃ自滅するよな」

そう、カイルの氷の魔法によるアーマーボア相手の拘束有効時間は一瞬。アーマードボアの足の一本を地面に固定しようと、ほんの一瞬で破られる程度の意味のないものでしかない。

ただ、それでもその一瞬、カイルの魔法は確かにアーマーボアの足を地面に拘束したのだ。

つまり……走っている最中に、一瞬とはいえアーマーボアは足を引っ掛けられた。

自分にすら制御できぬほどの勢いで走り出したからこそ。だからこそ全てのエネルギーを「自滅」へと向けられてしまったのだ。

「ほらイストファ、トドメ刺してこいよ。今ならやりたい放題だ」

「う、うん」

アーマーボアに向けて走っていくイストファを見送ると、カイルは近づいてくるドーマへと笑う。

「どうよ、俺のこの作戦。中々クールだったんじゃねえか?」

「……かもしれませんね」

「なんだよ」

「少しでもタイミングがズレてたら、死んでましたよ」

いつも不機嫌そうなドーマではあるが、今はなんだか怒っている。

それに気付いたカイルが「あー……」と頬を掻く。

「……9割成功すると思ってた」

「本当ですか?」

「……いや、5割だな。俺が外した場合、アイツが避けた場合。バランスを崩さなかった場合。色々あるが、最終的には賭けの要素があったのは認める」

理屈では成功するはずだが、確証はなかった。

だがそれをイストファに説明すれば、カイルの身を案じて何かをしくじる可能性もあった。

だから先程イストファに作戦を囁いた時、カイルは意図的にその部分を自信満々な態度で覆い隠していた。

それを責められているのだろうと、カイルはそう理解する。

よく分からないが、ドーマはイストファに友情か何か……その手の好意じみたものを持っているとカイルは感じているからだ。

「ああ、イストファが危険な可能性もあったさ。そいつも認める。悪かったよ」

「そんな事は……まあ、問題ですが問題じゃありません」

「いぐっ!?」

ドーマに頬を摘ままれ、カイルは小さく悲鳴をあげる。

「貴方が命を張る場面は此処でしたか、と。そう聞いてるんですカイル」

「ひゃ、ひゃがひかしふぁな!?」

「だがしかしだな、じゃありません。貴方ならもう少し時間をかければ、もっと安全な転ばせ方だって思いついたんじゃないですか?」

「いてて……そりゃ、まあ……たぶんだけどな」

離してもらえはしたものの、痛む頬をさすりながらカイルは頷く。

「つーか、イストファはいいのかよ。俺よりよっぽど身体張ってたじゃねえか」

「……彼の場合、どのみち身体を張る事になります。下手に安全を覚えさせることは、むしろ危険です」

ゴブリンヒーローの時の重戦士が良い例だ。

彼は強固な鎧を全身に纏い、頼り切ったが故に……それがゴブリンヒーローに破られた時、アッサリと恐怖に心が折れてしまった。

安全は常に考えるべき事ではあるが、安全に慣れれば弱くなる。

それはイストファのような前衛にとっては致命的な弱点だ。

「でも貴方は違いますよ、カイル。貴方は安全がまず前提なんです。自覚してください」

「いや、だがよお。ダンジョンってのは少なからず危険があるもんであって」

「それはその通りですが、率先して身体を張るようでは困ると言ってるんです」

「どうしたの? なんかさっきから話してたみたいだけど」

少し大きめの魔石を持って戻ってきたイストファにドーマは「たいしたことじゃありませんよ」と笑う。

「今回の作戦についてカイルに聞いてたんです」

「そっか」

アッサリ納得するイストファにカイルは心の中で溜息をつく。

確かにドーマの言うことは正しい。

前に出る術士ほど危なっかしく信用できぬものはない。

それはカイルだって分かっているのだ。

けれど。イストファが身体を張ろうとしている時、カイルも同じように身体を張れる男でありたい。

そんな風に思っただけなのだが……ドーマは理解してくれないだろうな、となんとなく思う。

「……やれやれ、上手くいかねえもんだな」

「え? 上手くいったでしょ? 流石だよ、カイル」

本気で言っているらしいイストファのきょとんとした表情に、カイルは思わず苦笑する。

「……だな。流石俺だ。そうだろ、ドーマ?」

「ええ、そうですね。流石です、カイル」

空気を読んでドーマもそんな事を言うが……イストファはそれに自分の事のように嬉しそうに笑う。

その姿にドーマも思わず微笑んで。

「さ、行こうぜ。ボーッとしてたらまたクワガタ共が襲ってきそうだ」

緊張感が全て消えてなくなる前に、カイルはそう言って手を叩いて。

その次の瞬間、カイルは何かに殴られ吹き飛ばされるように地面に転がった。