軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いえ、無事で良かった

「あがっ……!」

空から飛来した磔刑カブトが、背後からイストファの革鎧とアームガードの隙間を狙い突き刺さる。

続くもう一匹はイストファの革鎧に弾かれるが、貫かれた痛みにイストファの手から短剣が離れ、イストファはそのままグレイアームの死骸に倒れ込む。

その隙を更に狙い別の磔刑カブトがレッグガードの護っていない場所へと突き刺さる。

「イストファ……くっ!」

駆け寄ろうとしたドーマはしかし、別方向から飛来した磔刑カブトを盾で弾く。

空へと戻る前にとメイスを振るうも、ひらりと躱され再び空へ舞い上がっていってしまう。

だが、磔刑カブトの怖さはそこではない。

ギラリと輝く大きな鋏を広げ来襲する斬首クワガタ。

ドーマを狙い急降下してくる斬首クワガタを、しかしドーマは回避するわけにはいかない。

自分の背後にはカイルがいるし、どちらを狙っているかは寸前まで分からない。

カイルとドーマが別方向へと回避したとして、カイルの首が斬り飛ばされないという可能性は無い。

そして現状、ドーマよりカイルの首を斬り飛ばす方が簡単なのだ。

つまり、防ぐしかない。ドーマは盾を構え斬首クワガタを迎え撃つ態勢をとる。

そして斬首クワガタは丁度ドーマの首を跳ね飛ばせる高度まで降下し、盾と正面から衝突する。

「く、うう……!」

盾を挟み込む巨大な鋏。

ギチギチと響く鋏と、挟み込まれた盾の響かせる音。

鋼鉄製のこの盾がそう簡単に斬られるわけがないと分かってはいても、恐ろしい。

目の前にある「死」のプレッシャーに、ドーマの身体は恐怖の汗を流す。

斬首クワガタを受け止めた衝撃でドーマは実に数歩分押し込まれ、背後からはカイルの吐息も聞こえるほどだ。

そして、その至近距離から……カイルの杖が、突きだされる。

「……ファイア」

ボウ、と。斬首クワガタの顔に火が付き、その驚きに斬首クワガタはドーマの盾を挟み込んだまま空へと舞い上がる。

「あっ……!」

思わず盾を手放してしまったドーマだが、斬首クワガタもすぐに鋏を開いて盾を地面へと落とす。

しまった、と。焦るドーマはしかし、斬首クワガタがそのまま何処かへと飛んで逃げていくのを目にする。

「え、逃げ……?」

その後を追うように磔刑カブト達も逃げていき、イストファを突き刺した磔刑カブトも何処かへと逃げ去っている。

「フン、思わぬダメージに驚いたか、火が余程嫌いなのか。これでしばらく戻ってこねえだろ」

そう呟くと、カイルは倒れたままのイストファへと駆け寄っていく。

ドーマもその後を追おうとして、地面に転がった盾をそのままにイストファの近くへと膝をつく。

「ドーマ、ヒールだ!」

「分かってます……ヒール!」

腕の傷、足の傷。グレイアームに殴られた事による怪我。

一回のヒールでは傷は完全に癒されず、複数回のヒールでようやくイストファの傷が消え去っていく。

「あ、ありがとうドーマ……カイルも。助かったよ」

「いえ、無事で良かった」

「首を狙われなくてよかったな。流石に助からなかったぞ」

「はは……」

いつもより少し元気のない笑みをみせるイストファだが、それも仕方のない事だろうとカイルは思う。

激戦の後を狙われ、死にかけた。その事実は軽いものではない。

「ったく……本当に嫌な階層だな。一階層でもグラスウルフが仲間を呼んだけどよ。油断も隙もねえ」

「だね。僕も油断してた」

「そうですね。本来モンスターとの戦闘はこういうもの……細かく分断された一階層に慣れていると、あっさり死ぬ造りなのかもしれません」

「チッ、ふざけやがって」

カイルは舌打ちをしながら、地面に転がったドーマの盾に視線を向ける。

「とにかく、あれ拾ってきたらどうだ。大事な防具だろが」

「そうです……ね?」

ドーマが立ち上がり盾へと近づこうと歩き始めた数瞬後、地面に転がっていた盾が僅かに浮く。

いや、盾の転がっている辺りの地面が盛り上がったのだと気付いたのは次の瞬間。

「避けろドーマ!」

「!」

カイルの叫び声に反応し、ドーマは横っ飛びに地面に転がる。

ボゴン、と。地面から飛び出したのは、巨大なモグラにも似たモンスター……切り裂きモグラ。

その巨体が地面から出ようとしたその瞬間、カイルは杖を切り裂きモグラへと向けていた。

「ファイアボール!」

「ギュエッ!?」

鼻先で炸裂した火球に切り裂きモグラは顔面を焼かれ、悲鳴をあげる。

皮が厚いのか致命的ダメージというわけでもないようだが、それでも切り裂きモグラの動きは止まり……その間に起き上がったドーマは、メイスを構え走る。

「ギュ、ギュイ……」

ようやく衝撃から立ち直った切り裂きモグラの眼前には、メイスを振り上げたドーマ。

「ヘビーウェポン……!」

一気に重さを増したメイスを未だその身体の大部分が地中にある切り裂きモグラの頭部へと振り下ろし、ドゴンという音と共に切り裂きモグラの身体が僅かに地面に押し戻される。

だが、切り裂きモグラも逃げるという手は選択しない。

一気に地面から飛び出て襲い掛かろうとして……短剣を構え走り寄るイストファをその視界に捉える。

だがその瞬間、増えた重さがそのままのメイスを振るうドーマに顔面を殴り飛ばされる。

「ギュッ……!?」

「もう1つ!」

焦げた鼻先に重さを増したメイスが振り下ろされ、切り裂きモグラの鼻が思い切り折れ曲がる。

同時にドーマも衝撃に耐えかねたかのようにたたらを踏むが……その時にはもう、イストファが辿り着いている。

縦一閃。ザン、という音を響かせた一撃は、切り裂きモグラのその実力をほぼ発揮させないままに戦いの行方を決定づけたのだった。