軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私達が少数派っぽいですよイストファ

リンゴ、オレンジといった新鮮な果物を並べた店。

塩や胡椒といった香辛料を量り売りする店。

カウンターの奥の竈から焼き立てのパンの香りを漂わせる店もある。

「食べ物を買うんだったよね?」

「ああ、保存食だ。あとは水だな。たいして量が必要なわけじゃねえが」

「僕、こういう所はあんまり来れなかったからなあ!」

「え? それって」

「馬鹿、聞くんじゃねえ!」

目を輝かせるイストファにどういう意味ですか、と聞いてしまうドーマをカイルは止めようとするが……少し遅かった。

「僕、この前まで落ちぶれ者一歩手前だったから。お金なくて、その辺の草とかしか食べるものが……」

「うっ」

「ぐうっ」

聞くんじゃなかった、と2人は一斉に目を逸らす。

カイルは聞いていたしドーマも「貧乏時代が長かった」とはカイルから聞いたが、実際に本人から生々しい体験談を聞くと辛いものがある。

「あ、でもたまに木の実とか」

「やめろイストファ。俺が泣く」

「おじさんすみません。そのリンゴを3つください」

樽にたっぷり入っていたリンゴを買ったドーマが1つイストファに押し付けると「え、ありがとう。幾らだった? 今払うね」と実に素直な返答が返ってくる。

「いえ、いいんです。今日は私の奢りです。ほら、カイルも」

「お、おう。ありがとな」

「いやでも、悪いよ……」

「いいんです。仲間なんですから。たまにはこういうのもいいでしょう」

言いながらリンゴをドーマが齧ってみせると、イストファは手元のリンゴとドーマを見比べ「……そっか、ありがとう」と笑う。

「次の時は僕が何か買うね」

「いえ、ほら。次はカイルですから……ねえ?」

「そ、そうだな。まあ、ほら。食えよ」

お前は余計な気を回すな、とでも言いたげな2人の様子にイストファは「あ、そっか。気を遣わせちゃったんだね」と気付く。

「なんかごめむがっ」

「いいから食えっての。師匠の奢りは食えてドーマの奢りは食えねえってか」

「い、いや。そんなことはないけど」

「なら食え。今日はそういう気分だった。そういうこったろ」

「そうですね。今日の私はそういう気分なんです」

カイルもリンゴを齧ってみせたのを見て、イストファも遠慮がちにリンゴを齧る。

じゅわっと広がる酸味と甘みはイストファの中を幸福感で満たしていき……その顔は、自然と笑顔になる。

「美味しいね。ありがとう、ドーマ」

「ええ。意外に当たりでしたね」

「確か朝にリンゴを食うのは身体の機能を高める効果があるらしいって聞いたこともあるしな」

「ふーん、そうなんだ」

「ああ、らしいぜ」

一度食べ始めると止まらなくて、カイルのリンゴは芯を残して無くなってしまう。

「ふう、美味かった……ってん? イストファ、お前芯は」

「え? 芯?」

「残すんですか、カイルは」

ドーマの手にもやはりリンゴの芯は無くて、カイルは「ええ、俺だけかよ……」と呟く。

元々カイルにとってリンゴは切って食べるものだったから丸かじりなんてものはあまり馴染みがないのだが……芯を食べるとなると未知の文化だ。

しかし食べる気も無くて手の中でプラプラさせていると、イストファの視線がそれを追う。

「要らないなら、貰っていいかな?」

「え、いや。やめとけよ。俺の食べ残しだぞ?」

「別に僕、そんなの気にしないけど」

「俺が気にするんだ」

カイルがリンゴを売っていた店に芯を持っていくと、慣れた手つきで主人は近くの生ごみ入れに放り入れる。

「ああ、もったいない……」

「でもあんなもの用意してるって事は、私達が少数派っぽいですよイストファ」

「食べられるのにね?」

「ですよねえ」

ヒソヒソと囁き合うイストファとドーマに「うるせえ」と答えると、カイルは小さく息を吐く。

「とにかく、さっさと必要なものを買うぞ」

「干し芋にします? 甘いですし腹持ちもいいですよ」

「それでもいいんだがな。俺は干しブドウがいいと思う」

「確かに軽く食べられますけど……」

意見を交わし合う2人の話題についていけずに、イストファは黙って2人の後をついて歩く。

やがて着いた保存食の店では何やらカチコチのパンであるらしいものとか、豆とか……そういうものもあったが、イストファにはどれが良い物なのか分からない。

「あの、おじさん」

「ん? どれにするんだい?」

「いや、その。どれがいいものなんでしょう?」

「どれもいいものだよ」

「あ、えーっと」

そうじゃなくて、と言おうとしたイストファの肩を、カイルが掴む。

「いいから任せとけ。オッサン。干しブドウ一山と干し芋一袋を3人分。それで幾らだ」

「2100イエンだな」

「1人700イエンか……どうだ、イストファ」

「う、うん。払えるし問題ないよ」

「そうか。じゃあ、向かいの店行ってろ。ドーマが水袋の交渉してっからよ」

頷いてイストファは……財布から700イエンを掴み出してカイルに渡すと、向かいの店へと走っていく。

いままでイストファは知らなかったのだが、冒険者が使う水袋は中の水が腐ったりしないように綺麗に保つ効果の魔法がかかった特殊なものであるらしい。

そんな事をドーマに教わりながら水、そして保存食を揃え……そしてゴブリンガードの魔石を渡すべく、冒険者ギルドへと辿り着いたのだった。