作品タイトル不明
まずは今日、ドーマに謝ろうね
そして、朝。アーマーボアを倒した事が夢であったことを残念に思いながらも、イストファは迎えに来たカイルがドアを叩く音で目を覚ました。
「遅いぞ、イストファ!」
「おはよう、カイル。早いね」
「ちっとも早くねえよ。本当なら夜明け前から行きたいくらいなんだ」
すでに完全装備のカイルに「そっか」と頷くと、イストファは装備を着け始める。
確かにステラはすでに装備を整えているし、ちょっと遅いのかもしれない。
路地に居た頃はこんなにしっかり眠るなんていう事はなかったのに、不思議なものだとイストファは思う。
革鎧を着て、短剣を差して、小盾を腕に着ける。
そうして袋を腰に据え付ければ、それで完成だ。
「ドーマとはフリートさんのお店で集合だったよね?」
「ああ。買うモノがあるとか言ってたけど、何買う気なんだかな」
昨日ダンジョンから出た後、宿まで送るというイストファの申し出を断ったドーマは「買うモノがあるので明日はフリート武具店の前で」と言い残していったのだが……それが具体的に何であるかは二人とも聞いていない。
「そもそもアイツ、護身用にメイス持っちゃいるがメインは格闘だろ?」
「え、いや。確かに上手かったけど……」
「まあ、モンスター相手に格闘なんざ無謀だからな。そういう意味でもメイス持ってるんだと思うけどよ」
「格闘術は対人戦メインの技が多いから、確かにモンスター相手には通じにくいわね」
「そうなんですか?」
「そうよ? 格闘術は多少の体格の差を跳ね返すものではあるけれど、そもそも身体の造りの違うモンスターを相手にするような技じゃないわ……基本的にはね」
気になるような一言を付け加えるステラにカイルが「含むような事を言いやがる」と吐き捨てるが、ステラは意味ありげに微笑むばかりだ。
「基本的って事は……通用する格闘術もあるってことですか?」
「あるわよ。というか世の中、想像できる範囲の事には大体挑戦した先人がいるものよ?」
「魔法拳だろ? 身体に魔力を纏わせるとかいう技だ。どのみちドーマが使えるとは思えねえけどな」
「え、なんで?」
「思い出せイストファ。アイツ、最初はメイスの渾身の一撃で限界だっただろうが。自分を苛め抜いた格闘家の身体じゃねえ」
そういえば、確かにそうだった。その後活躍していたから忘れ気味だったが……そのくらいが限界という自己申告もあった。勿論ダンジョンで成長した今はそこから限界値も上がっているだろうが……。
「俺が見る限り、アイツの格闘技術はダークエルフの里かなんかで教えてる嗜みだろう。どっちかってえと護身術っぽい動きだった」
「っぽいって……」
「馬乗りで滅多打ちなんつー攻撃系武術があるわけねーだろ」
「あー……」
そう言われるとイストファも納得してしまう。
武術と聞いて想像する華麗な技と比べると、ドーマの戦い方は確かに違う。
……勿論イストファがそんな事を言える何かを持っているわけでもないので、納得したというだけなのだが。
「でも、それがドーマが買うモノと何の関係があるの? もっと強い武器を買うかもって話?」
「その可能性もあるけどな。んー……」
カイルが何をそんなに悩むことがあるのか分からず、イストファは首を傾げ……やがて「あっ」と声をあげる。
「もしかして、僕だけじゃ前衛として頼りないと思われちゃってるのか」
「あるいは後衛として俺が頼りなさ過ぎるかだな」
どちらも身に覚えがある2人だった。
イストファは抑えきれずにドーマにゴブリンの相手を任せたことがあるし、カイルはゴブリンと近接戦が出来る程には強くない。実際、ドーマに庇われた事だってある。
対等な関係の仲間とはいえ、本来前衛ではないはずのドーマに苦労をかけている事は否定できない。
「……カイル」
「イストファ」
2人は頷き合い、がっしりと手を握り合う。
「まずは今日、ドーマに謝ろうね」
「おう。つーか俺も剣の一本くらい買っとくべきかもしれねえ」
その様子をニコニコしながら見ていたステラは、「ところで」と声をかける。
「そろそろ、あのドワーフの店に行かなきゃいけないんじゃないの?」
「あっ」
「ぐっ、行くぞイストファ!」
駆けだすカイルをイストファも追おうとして……しかし、その肩を背後からステラが掴む。
「わ、ステラさん?」
「慌てないの。それと、私も一緒に行くわ」
「フリートさんに用事ですか?」
「んー……まあ、歩きながら話しましょ?」
言いながら手を握り歩き出すステラに、イストファは疑問符を浮かべながらもついていき……宿の入り口で待っていたカイルが「げっ」と声をあげる。
「どういう風の吹き回しだよ。いつもすぐ居なくなるだろ」
「今日はそういう日ってことよ。ほら、行くわよ?」
「お、おい」
イストファと手を繋いだままステラはカイルを置いていく勢いで歩き出す。
まだ一日が始まったばかりの朝の道は然程人も多くなく、それでも美人のステラと……そんな彼女と手を繋いで歩くイストファに自然と視線が集まっていく。
「あ、あの。ステラさん」
「たまにはいいでしょ?」
眩いばかりの笑顔でそう言われてしまうと、イストファには嫌だという答えは浮かんでは来ない。
手を繋いで歩く。そんな経験は、本当の家族とだって無かった。
だから、確かに気恥ずかしくはあるのだけれど……それ以上に、暖かい。