軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ありがとうカイル、ドーマ

手に入った魔石は3つ。

カブトムシの魔石が2つ、クワガタムシの魔石が1つ。

「……全部合成していいんだよね?」

「ああ」

「私はむしろ歓迎ですよ」

そろそろ合計金額がかなりのものになりそうだと察したイストファの問いかけに、カイルとドーマは頷き返す。

「ていうか、お前は気にし過ぎなんだよ。もう少し貪欲なくらいでいいと思うぜ?」

「私は、今のままのイストファがいいと思いますが……」

「はは……」

「それでは、早速いきますか」

手の中でチャラリと魔石を鳴らし、ドーマは短剣と合わせ「合成」と唱える。

そうすると先程と同じように魔石が溶けるようにして短剣の中に消えていき……一際強い輝きと共にギイン、という音を鳴らす。

「これ、は……!」

「おいおい、まさか本当に進化するのか!?」

「うわあ……!」

期待に目を輝かせるイストファの目の前で、短剣の放つ輝きは収まっていき……やがてドーマの手の中には、光の加減で僅かに黒みを帯びている事が分かる刀身を持つ短剣があった。

「これが……黒鉄?」

「そうですね。間違いなく」

「やったじゃねえか!」

カイルにバシバシと肩を叩かれ……ちなみにあまり痛くないが、それはともかく……イストファはドーマから恐る恐る短剣を受け取る。

「僕の短剣が、黒鉄製に……」

最初にステラから貰った金貨1枚で買った鉄の短剣。

普通の鉄の短剣だと思っていたソレは実はダンジョン武具で。

こうして今、その短剣は上位の黒鉄の短剣になった。

その事実が、イストファにまた一つ自信を与えてくれる。

「……ありがとうカイル、ドーマ。2人がいなかったら」

「いいんだよ、そういうのはよ!」

「そうですよ、イストファ。水臭いです」

イストファの感謝の言葉は二人に遮られてしまい、イストファは「むう」と仕方なく黙り込む。

「それより、どうする。イストファの短剣は進化したんだ。戻るか?」

「僕はそれでいいと思うけど、カイルとドーマは何か希望ある?」

「俺はねえな」

「私は、流石にそろそろ疲れてきましたが……帰りません?」

意見の一致を見た3人は、互いに頷き合う。

「決まりだね」

「ああ」

「帰りましょう」

帰還の宝珠は無いが、此処は一階層と違って分かりやすい。

それに、まだ然程進んでいないから道を間違える事もない。

「よし、戻るぞ!」

「おおー!」

「はい!」

「シュー……」

「ん?」

聞こえてきた声に、3人は振り向く。

これから進むとしたら曲がっていたであろう角の先。

そこに全身を鎧で固めたような鉄色の外殻を持つイノシシの姿が、そこにあった。

「おい、アレって……」

「イノシシ……?」

「げっ、アーマーボア!」

武器を構えようとするカイルとイストファだが、ドーマはその姿を見るなり2人の手を掴んで走り出す。

「逃げますよ、2人とも!」

「え!?」

「おい、なんでだ!」

「すぐ分かります! 早く!」

ドーマに手を引かれるまま3人は角を曲がって。

その直後、遠くに居たはずのアーマーボアが曲がり切れずに正面の木に突っ込んだ音が聞こえてくる。

ズドン、と巨大な何かが炸裂したような音と共に木がメキメキと倒れ、そこでアーマーボアはようやく停止する。

「うげっ……なんじゃありゃ!?」

「アーマーボア、別名は密林のバーサーカーです! アレを喰らったら、私達なんかバラバラですよ!?」

「さっきのクワガタみたいにカウンター入れるとか!」

「私、赤鋼の全身鎧着た冒険者が大盾ごとペシャンコになってるの見た事ありますけど! それでもやります!?」

「やだ!」

衝突の衝撃でイストファ達を見失ったのか、もう1つ角を曲がった後はアーマーボアは追いかけてこなかったが……イストファ達は心臓がバクバクというのを抑えるので精一杯だった。

「ここ……安全だと思う?」

「ぜえ、ぜえ……ど、どう、だろう……な?」

「一応最初の小屋まで戻りましょう。あそこは安全って話でしたよね?」

「そうだね。カイル、歩ける?」

「無理だ……イストファ、頼む……」

カイルに足首を掴まれてイストファは頷くと、ドーマに「手伝って」と声をかける。

「え、どうするんですか?」

「背負うよ。こうなったらカイルは歩けないだろうし」

「たいして距離走ってないと思いますが……」

「元々カイルは体力無いから。あれだけ走れただけでも成長してると思う」

苦笑しながらしゃがむイストファの背にドーマは溜息をつきながらカイルを載せる。

こんな所にカイルを置いていくわけにもいかないし、この場で休憩も怖いので当然の選択だ。

「まったくもう、これでモンスターが来たら私が初撃担当になるじゃないですか」

「ごめんね。その時は出来るだけ早くカイルを地面に置くから」

「お願いしますね」

ぐったりとしたカイルを背負ったイストファ達は、そのまま何の障害もなく最初の小屋まで辿り着く。

しっかりと閉められたドアを開くと、再び幾つかの目がイストファ達を見て……自然と、その視線はイストファの背のカイルへと向けられる。

「どうした、そいつ。死んだ……わけじゃねえな」

「体力切れです」

「お、おう。そうかい」

冒険者としては珍しいダウン理由に聞いてきた男はそう答えるのが精一杯だったが……やがて気を取り直したのか「どうだった?」と聞いてくる。

「イノシシに追いかけられて逃げました」

「アーマーボアか。ま、妥当な選択だな」

気を落とすなよ、と笑う冒険者達に曖昧に頷きながらもイストファはカイルを床に降ろし、体力の回復を待つ。

回復次第、一階層を最短で突っ切って戻って……今日はそれで終わり。

二階層の探索も最後こそ締まらなかったが、充分すぎる戦果をあげられたと……イストファはそう思う。

「……褒めてくれるかな、ステラさん」

そんな事を呟くイストファをドーマが見ていたが……何も、言うことはなかった。