軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ほん……っとにダメですね貴方

そんな事を話しながら歩いている内に、ドーマがイストファの肩を掴んで引き留める。

「イストファ、たぶんそろそろですから……私のメイスを渡しておきます」

「うん」

ドーマに差し出された鋼鉄のメイスはズッシリと重く、イストファの迷宮鉄の短剣よりも頼りになる輝きを持っているのが分かる。

「一応言いますけど、壊さないでくださいね」

「壊さないよ……」

「信じてますけど、それ壊されると私のお財布が辛い事になるので……」

「……充分気を付ける」

お金のことを言われてしまうと自分の胃もキュッとなるような気がして、イストファは深々と頷く。

イストファの武器は壊れても魔石を吸収すれば直るが、ドーマの武器は直らない。

毎度のように装備を壊している自覚があるだけに、注意したいとイストファも思ってはいる。

「つーかドーマ。お前の神は迷宮武具の神なんだろ? 迷宮武具持てばいいだろうが」

「私だってそうしたいですけどね。迷宮武具は大抵弟子の練習用として造られます。私が護身用に持つには性能が低すぎるものが多いんです」

しかも剣ばっかりですしね、とドーマは愚痴を言う。

冒険者に一番人気の武具が剣……それも長剣であるらしいから、仕方のない部分はあるのだろう。

「そんなに剣が多いんだ」

「ええ。イストファは短剣みたいですけど、一番多いのは長剣です。英雄譚の主役は皆長剣使いですからね」

「そういえばゴブリンヒーローも長剣だったね」

「いや、それは……まあ、いいですけど」

「とにかく、気を付けるよ」

「そうしてください」

ゴブリンガードの武器は鉄の斧。「鋭刃」の能力付きでもなければ、鋼鉄製のドーマのメイスが押し負ける道理はない。

「よし、行くよ二人とも」

「おう」

「ええ」

一歩ずつ、進んでいく。今まで広大な草原を映し出していた光景が、唐突に切り替わる。

目の前にあるのは、ダンジョンの階層の端の証拠である切り立った岩壁。

第二階層へと続く下り階段。

そして……鉄の全身鎧と盾で固めた、斧持つゴブリンガード。

その斧の柄には……緑色の宝石が嵌っている。

「ギイイイイイ……」

警戒するようなゴブリンガードの声が響き、盾を正面に構えるのが見える。

イストファの構える武器を警戒しているのだろうか。

小盾を正面に、メイスを下段に構えることで注意を小盾に引こうとはしているが、どれだけ効果があるかは不明だ。

威嚇の声をあげ続けるゴブリンガードは二階層への入り口前から動かず、イストファは無言で少しずつ近づいていく。

相手が動かないなら、先手の権利はイストファにある。

どうするべきか。今持っている武器はいつもの短剣ではなく、打撃武器であるメイス。

つまり、鎧の上からダメージを与える事を念頭に動かなければいけない。

ならば、狙うべきは当然頭。そこまで考えるとイストファはメイスを握る力を強くして、僅かに姿勢を低くする。

「カイル!」

「ああ、ボルト!」

放たれた電撃がゴブリンガードの盾に命中し、その注意を一瞬逸らす。

必要なのはダメージではなく、妨害。ゴブリンガードの意識を防御にだけ向けさせる為のもの。

今だ、とイストファは地面を蹴る。一気に距離を詰め、しかしゴブリンガードも盾を構えイストファを近づけさせまいとする。

盾を構えたまま斧を振るうのは難しい。カイルのボルトは、ゴブリンガードの選択肢を「防御」だけに狭めていた。

ガギン、と。突き出された盾をメイスが叩く音が響く。

防ぐという意思と突破するという意思がぶつかり合い、鉄の盾が僅かにへこみ押し返される。

「ギッ……」

「もう、ひとぉつ!」

僅かに出来た隙。ゴブリンガードの盾をメイスで横薙ぎに殴りつけ、盾を弾き飛ばす。

だがゴブリンガードとて無策ではない。

構えていた斧を振るいイストファを弾き飛ばそうとして……しかし、タイミングよく突き出されたイストファの小盾に防がれ弾かれる。

だがそのダメージは決して小さなものではない。重量武器の斧をぶつけられた小盾への衝撃は大きく、イストファは自分の腕が痺れるのを感じる。だが、この一瞬は逃せない。

「でやあああああ!」

振るったメイスはしかし、今まで盾を持っていた腕によるガードで防がれてしまう。

鈍い音が響き、しかしカウンターのように繰り出された腕を避けきれずにイストファは殴られ僅かに後退する。

「くっ……!」

「ギイイイ……」

盾を失っても、鉄の鎧で固めた腕がある。簡単に頭を狙わせるはずもない。

なら、どうするべきか。やるべき事は……。

「ギイイオオオオオオオオオ!」

「うわっ!?」

ゴブリンガードの叫び声に、思わずイストファは一歩引いて警戒する。

今のは一体。そう考えた、その時。

「ギイイイ!」

「ギイイイ!」

「うおっ!」

「うわっ!?」

背後から聞こえてくる声にイストファは思わず「えっ!?」と声をかけて振り向く。

そこには、何処からか現れたゴブリン達と……それと取っ組み合いをしているカイル達の姿があった。

カイルはゴブリンの棍棒を杖で受け止め、ドーマは別のゴブリンを腕で締め上げている。

「イストファ、こっちは私に任せて……! 集中を!」

「う、うん……うわ!?」

ガシャガシャと響く音に視線を戻せば、斧を振り上げて迫るゴブリンガードの姿。

叩き割る。そんな意思を込めているかの如きゴブリンガードに向けて、イストファは小盾を構える。

負けるもんか、負けるもんか。強い意思を込めて、イストファも走る。

倒す。倒して、先に進む。ゴブリンガードの振り下ろそうとする斧に下から小盾をぶつけ弾く。

ガイン、と。打ち負けた斧が宙を舞い、ゴブリンガードは反射的に斧を視線で追ってしまう。

そこに生まれたのは、致命的な隙。

「そ、こだあああ!」

イストファのメイスがゴブリンガードの腹部を殴りつけ、その身体が「く」の字に曲がる。

僅かに下がった頭、絶好の位置にきた頭にメイスを振り下ろす。

金属同士がぶつかり合い、一方がへこむ鈍い音。

だが、まだ倒してはいない。二撃、三撃。何度もメイスを振り下ろし、兜が完全に変形してゴブリンガードが地面に転がるまで何度も殴りつける。

やがて動かなくなったゴブリンガードを見下ろしていたイストファは、長い溜息をつく。

振り返った先には、荒い息をついて大の字で倒れているカイルと。

「ほん……っとにダメですね貴方!」

おそらくはカイルと戦っていたのであろうゴブリンの棍棒を奪い殴っているドーマの姿があった。