軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう大丈夫

「……っ!」

斬られた。それを理解するまでの戸惑いから、激しい動揺へ。

けれど、このままでは死ぬという激しい危機感がイストファを突き動かす。

「うあああああああああああ!」

「ギアッ!?」

全力で踏み込み、小盾をゴブリンヒーローの顔面に叩き付ける。

武器持つ腕を斬った事で油断したゴブリンヒーローは衝撃にたたらを踏み……そこに再びイストファの小盾を叩き付けられる。

基本的に盾とは防ぐ為の武器だが、武器として使えば鈍器と然程変わらない。

比較的軽いイストファの小盾はその材質故に充分以上に硬く、ゴブリンヒーローの小さな悲鳴が連続する。

「くそっ……イストファ! おいドーマ! なんとかならねえのか!?」

「分かってます!」

もたもたと動く重戦士は役に立たない。

ヒーラーのモリスンは論外。カイルの魔法はこの状況では役に立たない。

ならばドーマがやるしかない。メイスを握り、ドーマは走る。

普段ならば、ゴブリンヒーロー相手にドーマがこんな近接戦を挑むなど有り得ない。

だが、仕方がない。あの状態のイストファを放っておくなんて出来るはずもない。

ちょっと泣きそうになりながらもドーマはイストファの下へと走って……しかし、その眼前で剣を無茶苦茶に振り回すゴブリンヒーローにイストファが斬られ吹っ飛ぶようにして転ぶ。

大丈夫、革鎧が護ってくれている。そんなドーマの安心など、次の瞬間には吹き飛んでしまう。

「ギイイ……!」

イストファにボコボコに殴られたゴブリンヒーローの怒りの視線が向かう先は、今まさに迫ろうとしていたドーマ。

「ひっ……く、ああああ!」

「ギイイイイイ!」

イストファがそうしていたように、ドーマも叫ぶ。

恐怖を塗り潰し自分を鼓舞する雄叫び。

勝てない、勝てるはずもない。けれど、此処でドーマが引けばイストファが殺される。

ゴブリンヒーローが、剣を撫でようとしている。その動作は先程見た。

させない、とドーマは思う。

どうしたら、とドーマは焦る。

必死の思考は、ドーマに一つの答えを導かせる。

狙うは、ゴブリンヒーローの剣そのもの。

「ヘビーウェポン! このおおお!」

今まさに目の前で輝こうとしていたゴブリンヒーローの剣を、ドーマは一気に重くなったメイスで殴りつける。

折れろ、折れてしまえと。そんな願いを込めた一撃は、しかし折るには至らない。

至らないが……その一撃は剣を持つゴブリンヒーローの腕に、ミシリと軋むような衝撃を与えた。

「ギアアアア!?」

関節を無理矢理外されるような重みに耐えかね、ゴブリンヒーローは剣を手放してしまう。

地面に落ちたそれをドーマは足で蹴り飛ばし、しかしゴブリンヒーローの怒りに満ちた拳に殴り飛ばされてしまう。

「あっ……ぐ……!」

立ち上がろうとして、しかし今の衝撃でドーマは上手く立ち上がれない。

目の前でゴブリンヒーローが自分の剣を探していて、けれどドーマにはどうにも出来ない。

「グラート!」

「い、嫌だ! 俺はもうアイツの相手なんか……!」

背後ではモリスンが重戦士を促しているが、動きそうにもない。

ダメだ。そう考えた瞬間、ドーマの上から杖が突き出される。

「くらいやがれ、ギガボルト!」

「ギイアアア!?」

放たれた極太の電撃が、再びゴブリンヒーローを吹っ飛ばす。

「まだまだ、ギガボルト! ギガボルトォ!」

起き上がっては走ってくるゴブリンヒーローをカイルは何度も吹き飛ばす。

けれど、ゴブリンヒーローには傷らしい傷は増えていない。

「この……ギガボルト!」

何度目かのギガボルトを、ゴブリンヒーローは回避する。

もう覚えたと、そう言いそうな動きで事前に回避したゴブリンヒーロー。

だが、カイルの顔に焦りはない。

何故なら、ギガボルトの軌道を覚えられる事も当たっても効かない事も承知の上。

それでも何度も放ったのは、ドーマに近づかせない為。そして……。

「グ、ガハ……ッ」

ドーマの蹴り飛ばしたゴブリンヒーローの剣を拾って起き上がったイストファのもとへと、誘導する為。

すでに限界のきているイストファでも、剣を構えて起き上がることは出来る。

薄れ始めた意識の中、イストファはそれでも絶好のチャンスに動いた。

構えた剣をゴブリンヒーローへと突き刺し……そのまま、全体重をかけて一気に切り裂く。

ゴブリンはずる賢い。しかし、如何にずる賢くとも身体を真っ二つにされて生きているような悪知恵などあるはずもない。

地面に倒れたゴブリンヒーローを見下ろしながら、イストファは膝をつく。

限界だ。意識が途切れそうだ。

もう言葉を紡ぐ事すら面倒な中、カイルとドーマの声が響く。

「おい、そこの木偶の棒! さっさと腕拾ってこい! そうだ、それだ! 早くしろ、ダアアアッシュ!」

腕。そういえば腕を斬られたんだったか。イストファはそう思う。

大変なはずなのに、なんだか他人事のように感じている。

「腕を繋げます……押さえていてください!」

「ああ、いいぞ! やれ!」

「ヒール!」

ヒール、と。ドーマとモリスンの声が響く。

なんだか暖かいような、安心するような。

もう大丈夫だと、そんな事を思う。

遠のく意識の中……イストファは、やり遂げたという満足感に包まれていた。