軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そうしてくれるって期待してた

「こんにちは!」

入口を守る衛兵にそう挨拶すると、衛兵は「ああ、イストファか」と笑う。

「君もついにダンジョンデビューか。装備は……うん、まあ……最低限ってとこか。無理はしないようにするんだぞ」

「ありがとうございます」

イストファが頭を下げると衛兵は「通って良し」と声をあげる。

「あ、それと。魔石は忘れずに持って帰るんだぞ。大体心臓の辺りにあるから」

「え? は、はい」

何のことか分からないながらもイストファは頷き「あの、魔石って……」と聞き返す。

「おっと、今のはサービスだ。あまり情報をタダで与えるなと言われてるんでな」

「はあ……分かりました」

「悪く思うな。そういうのも町の税収になるんだ」

「はい、分かってます。それじゃ行ってきます」

魔石は心臓、と繰り返しながらイストファはダンジョンの入り口を潜る。

岩の階段を降りていくと……草原のような場所に出る。

「え?」

確か、階段を下りてきたはずだ。

それなのに、太陽の輝く草原が広がっている。

思わず振り向くが、そこには今降りてきた階段が確かに存在している。

その両隣は岩壁で……そのままずっと遥か先まで謎の岩壁は続いているようだった。

「なん、だ。これ……」

訳が分からない。そう思いながらも、イストファは前へと歩き出す。

草を踏みしめる感触は確かなもので、イストファの中を混乱が満たしていく。

高すぎて情報は買えていないが、それがこんなにも不安だ。

歩いて、歩いて。やがてその先に、何かが歩いているのを見つける。

「人、じゃない……!」

緑色の肌、イストファと同じか小さいくらいの体躯。手に持った棍棒。

モンスター、ゴブリン。ダンジョンでは初遭遇となるソレを見たイストファは、ゴブリンが自分に気付くよりも先に短剣を鞘から抜き放つ。

「う、わああああああ!」

「ギイ!?」

叫び走るイストファに気付いたゴブリンが叫び、棍棒を振り上げる。

そんなゴブリンを倒すべくイストファは短剣を突き出し、ゴブリンを刺そうとして。

しかし、ゴブリンの棍棒に払われて思わず短剣を取り落としそうになる。

「ぐ、う……!?」

「ギイ、ギア!」

「うあ!」

続けて振るわれたゴブリンの棍棒に吹き飛ばされ、イストファはごろごろと草原を転がる。

最弱のゴブリン。そんなものにすら勝てない。

その事実に心折れそうになりながらも、イストファはよろめき立ち上がる。

此処で倒れたままでいても、何も変えられない。

なら、やるしかない。ゴブリンを倒した先にしか、道はないのだ。

「やるぞ、やるぞ……やるぞおおお!」

「ギイアアアアアアア!」

叫びイストファは走る。

それに応えるかのようにゴブリンも走り出し……繰り出した棍棒のスイングを、イストファはすんでのところで回避して懐に潜り込む。

「ギ!?」

「こ、こだああ!」

今度は突き刺すのではなく、上から下へ短剣を振り下ろす。

ゴブリンを深々と切り裂いた一撃に、ゴブリンは悲鳴一つあげずに倒れ込む。

「や、やった……?」

倒れたゴブリンを見下ろすイストファは、ほうっと息を吐く。

倒した。倒せた。その安堵にへたり込みそうになり……それでも、魔石の事を何とか思い出してゴブリンの近くに膝をつく。

「えっと、確か魔石……心臓の……」

そう呟いて、視線を移動させて。その瞬間、死んでいたはずのゴブリンが奇声をあげて起き上がる。

「う、うわ……!?」

「ギイイイイ、ゲアッ!?」

突然飛んできた何かに頭を吹き飛ばされて、ゴブリンの……今度こそ死体となったゴブリンが倒れ込む。

「油断しちゃダメよ、イストファ。ゴブリンの別名は初心者殺し。ズル賢いんだから」

ゆっくりと歩いてくる姿を見て、イストファはその名を呟く。

「ステラ、さん……」

「はあい。払ったお金は、有効に使ってくれたみたいね? そうしてくれるって期待してたわ」

油断するなと言う割には腰の剣すら抜いていないステラではあったが、イストファはすぐに今ゴブリンの頭を吹き飛ばしたばかりの「何か」について思い出す。

きっとアレは。そんな事を考えそうになり……しかし、言っていなかった事があるのに気づきイストファは慌てて短剣を仕舞い頭を下げる。

「あ、ありがとうございます!」

「いいのよ。私が勝手に助けただけだもの。人によっちゃ、余計な手出しするなって文句言われる場面よ」

「そ、うなんですか?」

あのままだと殺されていたかもしれない。

それなのに文句を言う者なんているのだろうか?

イストファはそう思うのだが、ステラは何かを思い出すように何度も頷く。

「そうよ、凄いんだから。あのくらい対処できた! ってね。そういう奴は次から放っておく事にしてるんだけど、生き残る奴は稀ね」

「あ、あはは……」

どう返していいか分からず、イストファは愛想笑いをする。

まさか「そりゃ自業自得ですね」なんて言うわけにもいかない。

「え、えーっと……そうだ。ステラさんもダンジョン探索ですか?」

「露骨に話を逸らすわね、君も」

「うっ」

「ま、いいわ。そういうとこは、君の良いとこだと思うし」

大切にしてね、と言いながらステラはイストファの肩をポンと叩く。

「で、私はねえ。君を見に来たの」

「え? キミって……え。僕? ですか?」

「うん、そうよ。そろそろかなーって思って」

何がそろそろなのか。

ステラの言っている事が全く理解できずにイストファは首を傾げる。

「え、えっと……ごめんなさい。意味がよく分からないです」

「でしょうね。んー、なんて言ったらいいのかしら。そうね、えーと。もしイストファが渡した1万イエン金貨を『自分の未来』の為に使ったなら、そろそろ此処に来てるかな、と思ったのよ」

その言葉に、イストファはますます理解できずに頭の中が疑問符で一杯になってしまう。

自分の未来とか、「もし」とか。どう考えても「こう」するしか使い道は無かったと思うのだが、他にどんな使い方があるというのか?

「え、えっと……他に使い方って、ある……んですか?」

「あら、そこからなのね」

「あ、いや。えーと。もしお酒がどうとか賭け事がどうとか。そういうお話なら理解できるんですけど、僕はやらないから。だから、他に良い使い方があるのかなって」

イストファがそう聞くとステラは「なるほどね」と頷く。

「ま、そりゃそうね。いくら何でもそこまでピュアじゃないか」

「あはは……そういう人もその、結構見てますから」

「でしょうね。で、えーと……使い方に関しては、私の予想を上回ってるわよ? 予算ギリギリで中古の剣を1本買ってくるだろうと思ってたから、そんな小綺麗になってくるとは思わなかったわ」

「あ、これは……その、お店の人の好意でおまけしてもらって」

自分の手柄じゃない。

過大評価されてしまっていると、イストファは少し恥ずかしくなって顔を赤くする。

けれど、そんなイストファの心の中を見抜いたのかステラはニヤリと笑う。

「そこよ」

「え?」

「そうなったのは、たぶん君の今までの生き方のおかげね。たぶん本当に真面目に生きてきたんでしょ?」

言われて、イストファは本当にそうだっただろうかと振り返ってみる。

真面目。自分の今までの人生は真面目だっただろうか?

「あ、いや。真面目……かどうかは。この町に来てから、ずっと路地暮らしでしたし」

「真面目ねぇ」

「うっ」

シュンとしてしまうイストファに、ステラは苦笑するように笑う。

「褒めてるのよ? 普通、そういう生活してたら大なり小なり荒むもの。自分がこうなのは世界が悪いんだー、ってね」

「そ、うなんですか?」

「そうよ? 大抵はそうやって盗賊稼業になったりするわね」

「盗賊……」

自分がそうならなかったと、はたして言い切れるだろうかとイストファは思う。

昨日までの自分はそうであったとしても、明日の自分はそうであっただろうか?

いつかの自分は、昨日までの自分でいられたのだろうか?

「難しいこと考えてる顔ね?」

「うっ」

「ふふ、いいのよ。ところで、ちょっと地面見てくれる?」

「え?」

イストファは周囲の地面を見回すが、そこには青々とした草があるだけで何もない。

……そう。何も、ない。

「あ、あれ!? ゴブリンは……まさかあの状態から!?」

慌てて短剣を鞘から抜こうとしたイストファは、ステラにその手を抑えられる。

「落ち着いて。流石にそれはないから」

「え。で、でも」

「普通に時間切れだから」

「時間切れ?」

「そうよ。ごめんね?」

ごめんね、と言われてもイストファには理解できない。

時間切れでどうしてゴブリンの死骸が消えるのか。そこがまず分からないのだ。

「んー。ダンジョンってのは特殊な環境なのよね。此処にいるモンスターも普通じゃなくて、基本的に死骸が長時間残る事もない。とりあえず、それを覚えておけばいいかしら」

「そう、なんですか」

ステラに助けられたとはいえ、初めての戦果が消えてしまった。

その事実を理解したイストファはそれが残念で、少しだけ悔しく思ってしまう。

これは明らかに自分の失敗だ。先にゴブリンからの魔石の取り出しを優先する事など幾らでも出来たのに、それをしなかったのだから。

「でも、魔石を狙うんじゃないなら」

「ありがとうございます! 次からは気を付けます!」

「へ?」

「僕、次こそしっかりやります……それでは、失礼します!」

「あ、ちょっと……あー、もう行っちゃった」

走っていくイストファを見てステラは残念そうに息を吐くと、地面に落ちていた小さな欠片のようなものを拾い上げる。

「……ま、いいか。またチャンスはあるものね」