軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そこはダンジョンということか

そしてイストファは、大広間を歩く。

鎧たちはイストファを襲ってくるということもなく、鎮座したままで。

何の障害もなくイストファは扉へと辿り着いて、手を触れる。

「……開かない、か」

押してみた扉は鍵がかかっているのか、重たげなガチャリという音が響くだけだ。

試しにクロードが入り口の扉にやったように蹴りを入れてみるが、やはり変わりはない。

やはり何らかの手段で開ける必要があるが……鍵ならクロードが開けられるのではないか、と。

そんな事を考えてイストファはクロードに手招きをする。

「儂に開けよと?」

「出来ないかなって思って」

「さて、どうじゃろうのう」

「ていうか、なんで皆来ちゃったの?」

「分断されるタイプの罠だったらどうすんだ」

そんな事を言うカイルにクロードは笑いながら「そうじゃのう」と相槌を打つ。

「そういうことがないとも言い切れん。正しいじゃろうよ」

言いながら、クロードは扉を調べ……やがて、お手上げとでもいうように肩をすくめてみせる。

「無理じゃのう、これは。何か儂には理解の出来ん方法で鍵がかかっとる。恐らく人間の理解の及ぶ手段ではないじゃろうな」

「そうなの?」

「うむ。まあ、本来は何かもっと別のものなのじゃろうが……そこはダンジョンということか」

それを聞いてイストファは「そっか」と残念そうに言うが……カイルは別の感想を抱く。

トラップスミスでも開けられない未知の法則で鍵のかかった扉。

となると……力ずくで突破するしかないだろうか?

「イストファ。お前の必殺剣で……」

「無駄な事は止めた方が良いな」

響いた声。扉の向こうから響いたその声に、全員が思わず扉から離れる。

「誰……!?」

叫ぶイストファに、扉の向こうの声は含み笑いを返す。

「誰、か。実に短絡的で、しかし的確な問いであろうな」

「訳わかんない事を言ってんじゃねーよ」

「今の余が何者であるのか。それを真に理解できる者などおるまい。人の魂の尊厳を打ち砕く現象であることは事実だが……余がそれを言えば万人は笑うであろう」

ぬるりと、半透明の人間が扉の向こうから「抜けて」くる。

豪奢な服、蓄えた髭……如何にも高貴な人間、といったその姿に……カイルがヒュッと息をのむ。

「その顔……お前、まさか」

「おや、余を知っているか」

「エイムズ・ルフォン……悪鬼帝……!」

そう、その姿をカイルは本で読んだことがあった。

悪鬼帝エイムズ・ルフォン。

本物の「悪鬼の試練場」を作った張本人。

その姿絵にそっくりだったのだ。

しかし……そう、「しかし」と思う。

「その姿……ゴーストだな。まさかてめえ、死んだ後も悪鬼の試練場に居やがるのか」

「さて、な。それは『本物』を攻略する者だけが知ればよい事。余としては、このような場所に形作られた事に関しては怒りしか覚えぬ故にな」

その物言い。その態度。その姿。全てがエイムズ・ルフォンのゴーストがこの場にて再現されたものであるということをカイルに伝えてくるが……同時に理解できない事もカイルにはあった。

「それで? その悪鬼帝の『複製』がこんなところで何してやがる」

「何、とは。愚問よな、余が此処に姿を現す理由など1つしかあるまいに」

その言葉に、イストファがカイルを庇い……全員が戦闘態勢に入る。

「そう構えずとも良い。それ」

エイムズが指を鳴らすと……そこにあった扉の鍵が外れる音が聞こえ、そのまま扉が開いていく。

その先にあるのは、大きな階段。

下へ向かう階段であろうそれを見て、全員の視線が自然とエイムズへと向く。

「余は利用することを好んでも、利用される事は好かぬ。このダンジョンが余にどのような役目をさせたいかは知らぬが……知ったことではない」

「おいおい……」

「勝手に進むがよい。此処は余の試練場などではないが故にな」

エイムズの本気でどうでも良さそうなその言葉に、イストファ達は顔を見合わせて。

やがて代表するように、イストファがエイムズに頭を下げる。

「えっと……その、ありがとうございます」

「気にするな、若人よ。これもまた戯れ故にな」

微笑むエイムズに……イストファは……じっと、エイムズを見つめる。

「……あの階段、偽物なんですね?」

「ほう?」

エイムズの微笑み。

それは1階層で見た初心者狩りと……カイルと出会った後に遭遇した「ヤバい事を生業としている人物」の浮かべていた笑顔にソックリだった。

人を油断させる笑み。悪意を隠す仮面。今まで散々出会ってきた「それ」と全く同じ物を、イストファはエイムズに見ていた。

「此処に来るまでに、偽物の階段を見ました。それと同じかは分からないけど……たぶん、このまま進んだらダメなんだろうなって思います」

「……」

そのイストファの言葉に、エイムズの表情は……裂けるような笑みになっていく。

ゲラゲラと、哄笑するような……あるいは、本当に面白くてたまらないといったような笑い声。

「ハハハ……ハハハハハハハハ! 面白い、これは面白い! こんなつまらなくもくだらない『純朴』を絵にかいたような少年が余を看破するか!」

「……!」

「ハハハハハハ! どのような道を辿ればこう育つのか! 嗚呼、嗚呼! 面白いではないか! 成程、成程! 人智及ばぬダンジョンよ、余にこの少年を鍛えよとでも申すか!? いいとも、いいとも! 受けてやろうではないか!」

笑うエイムズの姿が肥大化し……巨大な化け物としか言いようのない姿へと変わっていく。

「さあ、やろうか少年。そしてその仲間達よ。余を倒し……見事『鍵』を得てみせよ」