軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺は止めたぜ

路地裏。それはイストファにとっては、あまり良い思い出のある場所ではない。

落ちぶれ者寸前になっていた時も、それからも。

路地裏とは、イストファにとってはあまり近づきたくない場所であり続けている。

……もっとも、そうした場所であるからこそトラップスミスギルドは「其処」にある。

「要は自分たちの技術があまり表向きじゃねえことを自覚してるっつー宣言だな」

「それに何の意味が……?」

カイルの解説にドーマが、そんな当然にも思える疑問を投げかける。

「むしろ表通りに堂々と居たほうが、自分たちは後ろ暗くないという宣言になるのでは?」

「後ろ暗いからに決まってるだろうが」

「は?」

「よく考えろ。オッサ……フリートのオッサンも言ってただろ。トラップスミスギルドとアサシンギルドは表と裏の顔。基本的には同じモンなんだ」

そう、トラップスミスギルドの裏の顔がアサシンギルド。

裏稼業を請け負う組織が後ろ暗くないはずがない。

そして、そんなものが表通りにあっていいはずがないのだ。

「勿論トラップスミス全員がそうだとは言わねえ。中には裏の顔を知らねえ奴だっているだろうしな」

「……」

そんな組織が路地裏の奥とはいえ、堂々とある理由。

それは「必要とされているから」に他ならない。

様々な利害が釣り合った果てに、トラップスミスギルドはギルドとして存在しているのだ。

「そう嫌わんでほしいのう。必要とされているから在る。それだけの話じゃよ」

「ハッ、アサシン稼業なんぞに手を染めなきゃ、普通に表通りに居ただろうに」

「それは無理じゃなあ。元を辿ればアサシンギルドが『先』じゃからな」

言いながら、クロードは薄い笑みを浮かべる。

「アサシンより冒険者のほうが儲かる。そういう計算あってのものじゃからのう」

そう、ダンジョンの出現はアサシンたちをも変えた。

家屋に音もなく侵入するためのアサシンの恐ろしき技術は、宝箱を開け罠を解除する「役立つ」技術へと変化したのだ。

表舞台に出たアサシンたちはトラップスミスと名を変え、冒険者として表通りを歩くようになったのだ。そして、今となってはアサシンではないトラップスミスたちが普通に存在している。

「今となってはアサシンのほうが希少種じゃ。特に『マトモなアサシン』はな」

「……マトモなって」

「アサシンギルドの存在すら知らん野良も居るということじゃよ」

そういう連中はチンピラ同然じゃがな、などというクロードだが……イストファはそれに、以前襲ってきたアサシンたちの姿を思い浮かべる。

もっとも、それで何かが変わるわけではないのだが……。

「お、着いたぞ」

路地の奥、以前見た見張りとは違う男を指さし、クロードはスタスタと進み出る。

「おい、此処で何してやがる」

「よい蜂蜜を取り扱う店があると聞いての」

「あるわけねえだろうが。帰りな」

「なんじゃ、売り切れか?」

「入荷はしばらくねえ」

「蜂蜜を薬に使いたいという御仁が居てのう。なんとかならんか?」

何のことだかすらも分からぬ会話。

しかし、クロードの放った言葉の後……男が、イストファ達に視線を向ける。

「……酔狂なこった」

「儂もそう思うよ」

「通りな。だが忘れんなよ。しばらく入荷も出荷もねえ」

「おうおう、分かっとる」

カラカラと笑いながらクロードは手招きをして、イストファ達を呼ぶ。

そうしてクロードの先導に従い進んでいくイストファ達の耳に……見張り役の男の小さな呟きが響く。

「……あまり嫌ってくれるなよ。俺達はトラップスミス稼業を重視してるんだ」

それにイストファ達は答えない。

ただ、イストファだけが立ち止まり軽く会釈して。

そうして、イストファは二度目となるトラップスミスギルドの建物内に入っていく。

クロードの先導で入ってきたイストファ達の姿にその場に居た者達がざわめき……カウンターへと向かっていくその姿を視線で追う。

「……何の用だ。お前みてえな生粋のアサシンに今、仕事はねえぞ」

「ハハハ、それは要らん心配じゃのう。何しろ今回はトラップスミスとしての仕事じゃからの」

「ああ? お前がか?」

疑り深そうな目で見ている職員とクロードを見比べて、カイルは溜息をつきながら進み出る。

「本当だ。俺達はそいつをトラップスミスとして雇う予定だ」

「……あまりおススメはしねえな。トラップスミスを雇うなら、もっとマトモなのがいくらでも居るぜ」

「だろうな。だがまあ、それはまた今度の話だな」

そう言うカイルに、職員の男は諦めたような息を吐く。

「俺は止めたぜ」

「ああ、分かってる」

頷くカイルに職員の男は書類を指し示し……ザッと目を通したカイルは懐から金の詰まった袋を放り投げる。

「確かめるまでもねえな……契約は成立だ。こいつが裏切ったら、俺達が責任を持つ」

「ああ」

「ま、その時にお前らが生きてるとは限らねえが……」

その言葉にミリィがゾッとしたような表情を浮かべて。

「ハハハ、心配はいらん。これは決まり文句みたいなもんじゃからの」

「そんなもんを言わなきゃならねえアサシン稼業自体が時代遅れなんだよ」

舌打ちする職員が、トラップスミスギルド、そしてアサシンギルドの現状を感じさせたが……それは、少なくとも今のイストファ達には関係のないであろうことだけは、確実だった。