軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

こんなチャンスが他にあるか分からねえ

「え、それって……ワーウルフが乗り物を持ってるってこと?」

「お前が想像してる乗り物かは分からねえが、何かしらの移動手段を確保してることだけは間違いねえ」

先程のワーウルフが「はぐれ」であったとしても、この階層が巨獣大陸ガルファングを再現しているのならば生態系もそれに準じているはずであり……当然「何処かから来た」ということになる。

勿論歩いてきた可能性もあるが……この環境を考えれば、あまり現実的ではない。

「でも、それっぽいものは近くにはないよね……」

「さっきのワーウルフの戦い方を考えるに、それほど難解なものじゃねえとは思うがな」

「どういうことです?」

「お前が証明しただろ、ドーマ」

言いながら、カイルは肩をすくめる。

「二本足で腕があるのに、道具を使う気配すらない。それはつまり、そういう文化がねえってことだ。つまり……」

「ワーウルフが使う乗り物は、道具じゃない?」

「その通りだ」

考え得る可能性としては、何かの騎乗生物。しかしそんなものは周囲に存在しない。

「……何かに乗ってるのは間違いねえ。だが、何に乗って……」

見上げた空には、鳥の巨獣。アレに乗れたら、さぞ楽だろうが……乗る手段も降りる手段も考えつかない。

「やっぱり巨獣……ですかね?」

「まさか。あんなのに乗るなんて……」

ミリィに言いかけて、カイルは口をつぐむ。もしかしたら可能なのではないか。そう考えてしまったのだ。

「今は襲ってこないし、乗るだけなら出来る気もするね」

「まあ、そりゃそうだが操ることも……いや、操る必要はねえのか?」

乗合馬車みたいなものと考えれば、目的地に近づいたら降りて乗り換えればいい……ともいえる。

そうすれば、残る問題は上手く乗り継ぎが出来るか、そもそも乗れるかどうかということくらいだ。

「……よし、乗れそうな大人しい奴を探そう。あとイストファ、乗る時は俺を背負ってくれると助かる」

「あ、うん」

「ではミリィは私が背負いましょうか?」

「うう、お願いします……」

そうと決まれば乗れそうな巨獣探しだ。

巨大なアースドラゴンもどきのような巨獣は当然ながらスルー。というか食われそうなので必死で隠れる。

空を飛ぶ巨獣もスルー。まず乗れそうにもない。

サイのような巨獣を見つけ、イストファが試しにと挑戦するが……ギロリと睨まれ、撤退。

「アレは襲ってくる目だったよ……」

「いや、仕方ねえ。あれは俺もビビった」

これもスルー。

続いて見つけたのは……巨大なネズミのような巨獣。ただし全身を鎧のような何かで覆ったそれは、とてもネズミとは思えないような姿をしている。

しかしコレも地響きをあげながらイストファ達を轢きかねない速度で通り過ぎて行ったのでスルー。

大体、こんな連続で……やがて座り込んだカイルが大声をあげる。

「あー、もう! 少しは乗れそうなやつはこねえのかよ!」

「あ、あはは……困ったね」

このままではどうしようもない。

作戦自体の見直しをするべきかとカイルが考えていると……ドーマが「あっ」と声をあげる。

「向こうに何かいますけど」

「あ?」

「ほんとだ。カニですかね?」

「カニィ?」

言われてカイルも目を凝らすが……確かに、遠い場所にカニのようなシルエットがある。

「あ、ほんとだ。アレと同じ形を酒場で見たことある」

「酒蒸しのやつか。まあ、イストファが言うなら本当にカニなのかもな」

まさかカニの巨獣までいるとは、と。そう考えて……カイルは「ん⁉」と声を上げる。

「カニの巨獣だあ⁉ 明らかに水辺に棲んでるじゃねえか!」

「そうなの?」

「カニは水辺の生き物なんだよ! よし、行くぞ! 上手くいけば乗れるかもしれねえ!」

上手くいかなければ真っ二つにされかねないが、とにかく挑戦しなければ始まらない。

走っていくと……やがて、その巨体が露わになる。

ハサミをも含めたその身体は大きく、赤く。巨獣と呼ぶにふさわしい威容を誇っている。

そして何よりも……イストファ達を見ても、襲ってこない。

「なんか強そうだね……」

「並の巨獣を真っ二つにしそうなハサミがついてるからな……だがまあ、襲ってこないなら乗れるかもしれねえ」

表面は少しばかりつるつるしているが、出来ない事はないだろう。

早速カイルを背負ったイストファを中心に登ってみると……カニの巨獣は嫌がることもなく、その場にとどまっていた。

「乗れたね」

「ああ、だが……」

「動きませんね」

「ですね……」

生きているのは間違いない。ただ動かないだけだ。

しかし、いつまでもそれでは困る。

「動いてさえくれりゃ、水辺まで行ってくれそうな期待感はあるんだが」

「しばらく待ってみる?」

「ま、そうだな」

しかし、いつまでたってもカニの巨獣は動かない。

その場に根でも生えたかのようにピクリともしないのだ。

「……」

「……」

全員で顔を見合わせて、どうするべきか無言で問いかけあう。

初めて乗れた巨獣だし、期待したくはあるのだが……と、そんな心が漏れている。

「こんなチャンスが他にあるか分からねえ。ここでこのまま明日の朝まで休憩を兼ねて待ってみるか」

「それがいいかな」

「ですね」

「ええ」

半ばヤケにも思えるカイルの提案だったが……日が沈み始めて辺りが暗くなったその時。カニの巨獣は、ゆっくりとその身体を動かし始めた。