軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

予想はしてるが

第8階層、巨獣大陸ガルファング。実在のその場所を再現したと思われるこの階層は巨獣たちが闊歩し、その強さは今までのモンスター達の比ではない。

大きさが強さを体現するような巨獣達に対抗するには、相当な装備であっても不安があるのは間違いないが……そう思う者達が今のイストファ達を見れば、相当驚くだろうことは間違いない。

「これで大丈夫かな……」

「恐らく、だがな」

そう、イストファ達は全く武装をしていない。武器も、鎧も、何もかもだ。

そしてこれには理由があった。

【私達がこの場所に辿り着いたのは幸運だったのか、それとも不運だったのか。海賊共の襲撃を乗り越え、何度もの嵐を越えて。武器も食料も水も、何もかもを失った私達は、それでもこの大陸で食料や水を補給するしかなかった。しかし後々のことを考えれば、此処で武器を下手に持っていなかったことが命を救う結果となったのは間違いないだろう】

この文章にカイルは着目していた。この階層では逃げても隠れても巨獣達が襲ってくるが……とてもではないが、勝つことが出来ない。

しかしこの階層を抜けている先人達がいる以上、抜ける手段はあるはずであり……それがこの海洋研究者ウルスの残した文章通りに行動することだった。

すなわち……「武装しない」ことだ。正気の沙汰とも思えないような行動ではあるが、これしかない。

そして、今……頭上を翼持つ巨獣がイストファ達には目もくれずに飛んでいく。

離れていても地上に届く風を残しながら飛び去っていく巨獣を見上げながらイストファは「成功した……?」と呟く。

「いや、まだ分かんねえぞ。地上を歩く奴は……」

言っているカイルに応えるかのように遠方から巨獣が全速力で近づき……そのまま走り去っていく。

「……何処かに行ってしまいましたね」

「ということは……」

「成功、だよね」

「と、思っていいだろうな。やっぱりコレが正解か……」

そう、普通であればダンジョンの中で武器も持たず鎧もつけないなど有り得ない。

有り得ないが……此処ではそれがルールだということだ。

過去の「海洋学者ウルスの行動をなぞる」こと。それがルールなのだ。

それに従わない者は、巨獣達と戦い通り抜けるしかない。

「正解なのはいいですけど、武器も鎧もない状態では、ほとんど何も出来ませんよ?」

「……確かにな」

そう、武器も鎧もなければ戦闘力というものは格段に落ちる。

魔法もそうだし、ミリィの呪法だって同じだ。事実、海洋学者ウルスもそれで苦労したようだった。

【この大陸に生きる小さき者達は狡猾だ。生き残る手段に長け、逃げる事も奪う事も何一つ躊躇わない。同族を仲間と見做していないその姿は、この過酷な大陸で生きる辛さを如実に表していたが……そんな彼等から異種族であり余所者である我々がどう見えているかなど、少し想像すれば分かるはずだった】

この一文はガルファングに生きる二足歩行の狼のようなモンスター、ワーウルフの生態を記したものだが……当然、これから階層出口に向かうにあたりワーウルフとの戦闘も考えなければならないだろう。だが、カイルには勝算があった。

「イストファなら、なんとか取っ組み合いでいけると思うんだよな」

「頑張るけどさ……大丈夫かな」

「ミリィの呪法で一瞬でも動きが止まれば何とかなるんじゃね?」

「うーん……」

「まあ、大丈夫ですよ。私も手伝いますから」

そう言って笑うドーマにイストファも「うん、頼りにしてる」と返す。

ドーマの体術はイストファの尊敬しているポイントでもあり、こういった素手でしかどうにか出来ない場面では非常に頼りにしたいものでもあった。

「じゃあ、行こうか」

「ええ」

イストファとドーマを先頭にカイル、そしてミリィがその後ろをついていく。

狙い通りであれば多少堂々と歩いても問題ないはずだが……それでも心臓がバクバクなる音を聞きながら、イストファ達はガルファングを進む。

「しっかし、ほんと暑いな……水をしっかり用意してなきゃ干上がってるぜ」

「そうですね。こんな中で保存食は辛い。生の果物を中心に詰め替えて正解ですね」

見つけた岩の陰でリンゴを齧りながら、カイルとドーマは溜息をつく。

いつもなら荷物にならないように、という意味も含めて干し肉や干し果物などの保存食を持ってきているが、この階層では別だ。ただでさえ水を消費する環境で食べ物まで水を必要とするものでは、干上がってしまう。

だからこそ、この階層に来る前にイストファ達のバッグの中身は水と果物に変わっている。

「問題は、何日でこの階層を抜けられるかだ。どの程度の広さかもわからねえし出口の場所もわからねえ……大陸の端から端まで行くような距離だったら、一度戻って保存食を詰める事も考えないといけなくなる」

「何処にあるんだろうね、この階層の出口」

「さて、な……」

海洋学者ウルスの本を読む限りでは、幾つかの候補があるとカイルは考えている。

たとえば、ウルスが乗ってきた……そして脱出に使った船などは第一候補だろう。

つまり、何処にあるかも分からない海岸線を探すのが最優先ともいえるが……。

「予想はしてるが、違う気もするんだよな」

そんなカイルの呟きが、ガルファングに響く。

第8階層の探索は、未だその入り口に立ったに過ぎず……熱い太陽が、イストファ達を容赦なく照らしていた。