軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そろそろ、時期だとも思うしね

「え? ステラさんは此処には住まない?」

「ええ、そうよ」

「ど、どうして?」

ステラから「お祝い」として渡された包みを床におろしながら、イストファはそう問いかける。

今までのお礼……というわけでもないが、ステラは当然此処に皆と一緒に住むものとイストファは考えていたし、他の面々もそうだった。

だからこそ、ステラの言葉は意外に過ぎたのだ。

「此処は君の家よ、イストファ。そこに私が住むのは『違う』わね」

「でも、ステラさんにはずっとお世話になって」

「そうね。でもそれは私の好意。返してもらう類のものではないわよ」

明らかな拒絶を受けて、イストファは何と返せばいいか分からなくなってしまう。

どうすれば。オロオロするイストファとは逆に、カイルは冷静にイストファの肩に手を置く。

「落ち着け。確かに予想外だったが、あり得る事ではあった」

「そう、なの?」

「ああ。つまるところ……こいつ、定住する気がゼロってことだ」

「そういうことよ」

頷き、ステラは「そろそろイストファにも分かると思うんだけど」と前置きする。

「私の存在は私自身がどう考えようと振舞おうと、政治的に利用可能なのよ」

「でも、カルノヴァ様は……」

「あの王様がどう考えるかじゃなくて。他の王様がどう考えるかってところね」

世界でも有数の実力者と言われるうちの1人であり、権力に靡かないライトエルフ、ステラ。

そのステラが何処かに定住したという噂が流れれば、それは様々な憶測を呼ぶ。

真実かどうかは関係なく、国レベルの動きを誘発するほどに……だ。

「流石に個人でそれをどうにかするのは手間がかかるのよねー」

「手間の問題じゃねえと思うが……」

「それに……そろそろ、時期だとも思うしね」

言いながら、ステラはイストファの頬に触れる。

「イストファ。君は凄い勢いで成長してるわ。たぶん、このままいけば一流の戦士にだってなれると思う」

「ステラさん……」

「だから、そろそろ手を離してみようと思うの。私の庇護下から、荒波に放り込むために」

その意味が、今のイストファには分かる。

ステラやガラハドが持っている金級冒険者の称号。

輝ける功績の証であるはずのソレも、ジョセフのような王族にとっては自分を飾るアクセサリーの価値を証明する程度のものでしかなかった。

ステラがそういったものを跳ね返していたのは、単純にその圧倒的実力による「物理的証明」を続けてきたからだ。

そしてイストファも、その庇護下に入れられていた。

ステラが大切にしているから、悪い考えを持つ者も近づかなかった。

それがなくなるとなれば……どうなるか。

「お前、イストファを婿にするとか戯言言ってたじゃねえか。いいのか? 別の女が近づくかもしれねえぞ?」

「え」

「えっ」

ドーマとミリィが驚いたような声をあげるが、とりあえずカイルは無視する。

「ああ、いいのよ。だって戯言だもの」

「……へ?」

「あー……」

疑問の声をあげるイストファと、納得したような声をあげるカイル。

もうすっかり頭の中が疑問符で埋まってしまっているイストファをそのままに、カイルは「やっぱりな」と呟いた。

「おかしいとは思ったんだ。いや、確証が出来たのは最近だが……イストファがどう成長したところで、お前の婿になる意味がねえ」

「あら、その言い方だと」

「おう、知ってるよ……いや、知ったよ。『超越者』ステラ……鍛えすぎてエルフの枠すら飛び越えちまったってのはマジ話か?」

「事実よ? といっても、もうイストファがあんまり分かってない顔してるから詳しい説明は省くけど」

「おう、そうだな」

すっかり話についていけてないイストファにステラは苦笑し、カイルは渋い顔をして。

ステラは、どう説明したものかと宙に指を彷徨わせる。

「んーとね、イストファ。エルフの種族欠陥については覚えてる?」

「あ、はい。確か同族同士では子供が出来ないって……」

「そう。その原因がエルフの持つ高い魔力にあることは説明したわね?」

「はい」

「たとえば、子供が無事に生まれる許容量が仮に50以下として……母親が100、父親が0。こういうパターンだと合計100のうち、半分を受け継いで子供が生まれる。そう仮定するけど、ここまでは大丈夫?」

「えーと……はい」

「この100を魔力が異常に強いエルフと仮定して。さて、私はどのくらいでしょう?」

ちょっと悪戯っぽい口調で問うステラに、イストファは「300……とかですか?」と答えて。ステラは笑顔のまま首を横に振って否定する。

「もっと上よ。でも300であったとしても、そのエルフは何をやっても子供が出来ない。この事実がどういう結果を招くか分かる?」

「……分かりません」

「努力をやめるのよ。自分を、魔力を鍛える事を恐れて怠惰に過ごすようになる。長い時間を、そう過ごして……程々のエルフでも魔法を捨てて剣とか弓とか、そういう方向にいきやすいわね」

「私は、それが理解できなかった」

だから、ステラは元々あった自分の才能を更に伸ばし続けた。

長命種に許された長い成長期の時間を鍛錬に費やし、誰もが到達できないような領域に手を伸ばした。

そして……失ったのだ。

「それを後悔はしてないわ。私は愛がどうとか繁栄がどうとか、そんなのよりも自分の限界を知りたくてたまらなかったから」