軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:蟲毒なる王族

……黒杖合わせの数日前。第2王子ジョセフは仮面をつけた男達に拉致され、何処かも分からぬ場所に連れて来られていた。

「く、くそっ! 俺を誰だと思って……!」

「儂の息子だろう、ジョセフ」

「……父上!?」

現れた自分の父……カルノヴァに、ジョセフは困惑したような声をあげる。

「まさかこれは父上が⁉ 何故こんなことを!」

「何故、と申すか」

ジョセフの言葉にカルノヴァは呆れたような……しかし感情の乗らない声を返す。

その言葉同様にその視線もまた……父が子に向けるようなものとは程遠い。

「どうやらアルトとトゥーリアの件は、お前にとっては何の勉強にもならなかったようだ」

「……! まさか……」

突如出された第一王子と第一王女の名前に……もう此の世に居ない者たちの名前に、ジョセフがビクリと大きく震える。彼らがどうなったか知っているからこそ……ジョセフには、この先が読めた。

「ま、待ってください父上! 俺は」

「言い訳は無用だ。お前が何をしたか、儂はお前以上に知っている」

「違うのです! 俺は連中を利用する度量を」

「ブラッドクリスタル」

カルノヴァの呟いた単語に、ジョセフは全身からダラダラと汗を流し始める。

それは知られていないはずなのに、いったいどうして。誰かがバラしたのか。

そんな思考がグルグルと巡り、しかし正解など出てこない。

「あの忌まわしき品をお前が隣国から受け取ったことはすでに調べがついている」

「ですから! 俺であればそんなものであっても使いこなせるのです! 隣国とて俺が王として相応しいと思っているからこそ」

「王太子選出の儀に他国の意思は絶対に関わらせない。そして、王太子にならんとする者は関わってはならない。それはこの国の絶対の掟だ」

「り、利用しただけです! 俺は兄上や姉上とは……!」

「違う、と? 同じなのだよ、ジョセフ。関わってはならない場所に他国を関わらせる事を許容してしまう者は、王となってからも『そう』する。線引きの能力が欠如しているからだ……そしてそれは、必ず国を滅ぼす要因となる」

そう、カルノヴァは王子や王女達が殺し合いをするのを許容する。

それはずっと……カルノヴァが王となる時も、その前も、その前も……ずっとそうであったからだ。

その権謀術数を乗り越え勝ち抜くのもまた、王に必要な能力であるからだ。

そして、だからこそ「他国の意思」だけは排除されなければならない。

この腐り果てた蟲毒の壺の中に、そんなものを入れる事は絶対に許容されないことだった。

他国の意思に簡単に左右される王など、究極的には国にとっての害悪でしかない。

「そ、それを仰るのであればカイラスはどうなのです! 王宮での勝負から早々に脱落し、冒険者などに身を落とし! あの正体不明のライトエルフの庇護下にいる! まさに他者……いや、下手をすれば他国の意思に左右されている状態ではありませんか!」

「……愚かだ。お前はステラ殿の事を何も分かっていない」

「な、何を……」

「あの方が権力などに興味があるのなら、すでに何処かの国があの方のものになっておる。喜んで王の椅子を差し出す国だってあるだろうよ」

「う、うう……」

そう、ジョセフとて1度痛い目にあって以来ステラの事を調べている。

そうして出てきたのは冗談のような噂話ばかりだったが……自分に御せる存在でない事だけは理解できていた。

「そして何より。カイラスは王の椅子に興味がない。儂としてはぜひとも興味を持ってほしいのだが……ままならないものだな」

「父上……!」

「だが、儂とてそうだった。この腐れた王宮を飛び出して自由に生きるのだと。血みどろの玉座に座る寸前まで思っていたよ」

独白のような言葉を続けるカルノヴァを、ジョセフは仮面の男達に押さえつけられたまま見上げる。

フィラード王国の王、カルノヴァ。苛烈な権力争いに勝ち抜いて王となった父の顔を、ジョセフは見上げて。そこに、本当に何の感情もない事を感じ取る。

「お前にも期待していたよ、ジョセフ。ステラ殿に手を出そうとして徹底的に城内での評判を落とした状態から、本当によくやった。甘言に乗り過ぎの傾向こそあったが、乗ったふりをして利用してやろうという意思が見えていた。だが……それ自体が間違いであったのかもしれんな」

「お、俺は……」

「まあ、全ては結果論だ。どの道お前は上手く他国に騙されブラッドクリスタルをこの国に持ち込み、見事に付け入られる隙を作った。ならば儂は王として、それを上手く使わねばならぬ」

その言葉の意味を、ジョセフは正確に察する。すでに自分の先が、決定していることも。

「俺を……殺すのですか」

「ああ。すでにブラッドクリスタルが何処にあるかは知っているが……もはや秘密裏に回収することは不可能だ。ならば、大々的にやるしかあるまいよ」

「……そう上手くいきますか?」

「聡い子だ。儂の手を読んだか。まあ、ステラ殿は動かんだろうが……それを測る事もできるな」

ステラとイストファ。師弟関係であることは知れているが、詳しい理由や経緯などについてはカルノヴァも調べる事は出来なかった。

しかし、ステラがイストファを気にかけている事だけは事実であるようだった。

イストファの持つ「性質」を考えるに、ステラが普通のエルフであればそこから推察できる可能性もあったのだが……。

「では、さらばだジョセフ。お前の死が無駄にならない事だけは確約しよう」

それが、最後の言葉。

こうして第2王子ジョセフはこの世から退場し……この場で行われた会話が外に漏れる事もない。

当然、イストファ達が知ることもない。全ては、闇の中……語られない物語である。