作品タイトル不明
僕は、間違ってました
炎を放つだけではマジックイーターに吸われるだけだ。ならばどうするか。
近接戦でガラハドはイストファに負けるつもりはない。
如何に身体能力に特化した成長をしていようと、自分の方が上だという自負がある。
あるが……先ほどの一撃。イストファの必殺剣が、ガラハドの判断を揺らがせる。
もしアレがイストファの「普通」だったら……と、そう考えてしまうのだ。
対するイストファも、ガラハドに迂闊に踏み込めない。
必殺剣を、防がれた。その事実と、ガラハドから傲慢が消え始めたことによる隙の消失。
生半可な攻撃など繰り出しても痛い目に合うという、そんな本能的な警告がイストファに次の手を躊躇わせる。
そうして互いに牽制しあう2人だったが……先に動いたのは、ガラハドだった。
紅蓮剣ラゴウを振るい、イストファへと炎を放ち……当然のようにイストファはそれをマジックイーターの能力で切り払い消し去る。
そして、その瞬間。視界が炎で塞がれたその僅かな間に、ガラハドがイストファの眼前へと迫ってきていた。
そして振るわれるのは、高速の一撃。
「……うっ⁉」
なんとかアルスレイカーで防いだイストファではあったが、その衝撃まで殺しきれるものではない。
一瞬の痺れの隙を突かれるように第二撃、第三撃。それでも防ぐイストファだったが……その度に、アルスレイカーが欠けていく。
「フン、どうやら剣の材質ではこちらの方が上らしいな」
当然の事ではある。イストファの魔剣アルスレイカーは、品質のさほど良くない迷宮鉄から進化させてきた迷宮鋼鉄製。
対するガラハドの紅蓮剣ラゴウは、最初から「そう」であった剣。魔剣として比べるなら、文字通りにランクが違う。
「そのくらいで……!」
「そのくらいの事が、俺達には何より大切なんだよ」
放たれる炎。目隠し程度の意味で放たれたものであろうと、イストファはそれに対処せざるをえない。
魔力ゼロのイストファにとっては、その攻撃は文字通りに致命傷となり得るものなのだから。
切り払う、防ぐ、ぶつかり合う。
何度目かの攻防の後、イストファはボロボロのアルスレイカーでガラハドと鍔競り合う。
「お前は頑張ってるよ。その年で……しかもポッと出の新人にしちゃあな」
「ぐ、う……」
「だが、俺を嘗め過ぎだ。それがお前の……」
敗因だ、と。そう言おうとしたガラハドは急にゾクリという感覚を味わう。
目の前のイストファから……いや、剣から感じる圧のようなもの。
思わずガラハドは「焼き尽くせ!」とキーワードを唱え、鍔競り合いの状態からイストファへと強烈な炎を放つ。
使うつもりのなかった奥の手の1つ。それを放った瞬間にガラハドは後ろへと跳び……冷や汗を流す。
「……ハハッ、そうか。まだ奥の手を隠してたってか。そりゃそうだな。隠してないわけがねえ」
そこに居たのは、紅蓮の炎を食い尽くしたアルスレイカーと……輝く青い魔石の放つ光。
それがアルスレイカーが何かの能力を発動しようとしている前兆であることを、魔剣遣いであるガラハドは当然のように理解していた。
「そうですね。認めます」
「あ?」
「僕は、間違ってました。使えるものを使わずに、それが正しいなんて勘違いしてた」
そう、イストファは「それ」を使うつもりがなかった。
強い武器に頼っていては本当に強くなれないからと。
それは、ある意味では「傲慢」だ。だからこそ……イストファは捨て去った。
「負けてもいい戦いなんて、あるはずもないのに。僕は……弱いのに」
「……何の話か知らねえが……」
「だから……力を貸して、ノーツ」
ボロボロのアルスレイカーに嵌った青い魔石が、光り輝く。
イストファに応えるように強く、眩く。
「ルーンレイカー!」
叫ぶ。刀身が、巨大剣の……傭兵王の魔剣ルーンレイカーの姿へと変化する。
今この瞬間まで溜め込んできた全ての魔力を放出しながら輝くその姿。
「は、はは……! そういう剣かよ! だがなあ……!」
ガラハドの紅蓮剣ラゴウが炎を纏い、真っ赤に輝く。2つ目の奥の手、紅蓮剣ラゴウが紅蓮剣などと呼ばれる、その証明たるもの。
「言っただろ! 俺はお前の踏み台になる気はねえんだ!」
「それでも、勝ちます!」
「やってみやがれえええ! 紅蓮斬!」
放たれる、炎の斬撃。試合場を溶かしながら放たれるそれは……しかし、そうであるが故に。
マジックイーターの能力に食われ、消え去る。
「しま……っ!」
見た目の派手さに惑わされた。アレはマジックイーターであるのに、必殺の一撃のぶつけ合いであると、そう判断してしまった。
だからこそ、ガラハドは敗北を覚悟して……しかし、それでも意地で身を捩りイストファの必殺剣を回避する。
真横を通過した必殺剣をガラハドは滝のような汗で見送り……その「好機」に気付く。
「焼き……尽くせえええええ!」
再び放たれる強烈な炎がイストファを包み、しかし火傷を負いながらもイストファは炎の大部分をルーンレイカーで喰らい尽くす。
「この、ガキがあ……!」
「僕は、勝つ……!」
金級冒険者としてのプライド。ステラへの対抗心。こうまで食い下がるイストファへの怒り……様々な感情がない交ぜになり、ガラハドは……懐に仕舞っていた切り札へと、手を伸ばしていた。