作品タイトル不明
お前が他の兄弟共より俺寄りなところ
それにしても、とイストファは思う。
兄弟が13人……信じられない大家族だ。
イストファの生家では4男の自分ですら口減らしの為に放り出したのに、13人。流石は王族なのだろうか、とすら考えてしまう。
アレから会った他の王族は程度こそ違うが、皆第2王子ジョセフと……凄くよく似ていた。
イストファを平民と蔑み、ブリギッテに敵意を向けてきた。イストファよりも年下……およそ7歳頃に見える王子や姫すらも、その視線の質に違いはなかった。
そしてそれは、イストファの精神を確実に削っていたのだ。
「……疲れてますわね」
「なんていうか、強烈で……」
「まあ、貴方にはこの世界は合わなさそうだなとは思いますわね」
ブリギッテから見ても、イストファは裏表のない善人だ。
権力の集まる王族として生まれた以上は出会える確率がゼロに近いタイプの人間であり、しかし同時に生き残れないタイプでもある。
それに比べると「ステラ」は裏表が激しいタイプで、ブリギッテにも理解しやすい。
利用しようとしたら殺す、というシンプルなルールが立ち居振る舞いの全てから提示されているからだ。故に、何故イストファが師匠と崇めているか分からないのだが……たぶん「裏」に気付いていないのではないだろうか、とブリギッテは考えている。
それとも、気付いていても問題ないほどに懐いているのか……その辺りは分からない。
ともかく、こうしてイストファを連れて歩くことでブリギッテにはある種の確信ができていた。
「……おかしいですわね」
「何がですか?」
「貴方に関する情報があまりにも伝わっていませんわ。私にすら伝わっている程度の情報が、何故……?」
イストファがステラの弟子であるということは、大々的に公布されているような情報ではないが、調べれば分かることだ。少なくともオークエンパイアの事件から辿れば見つかる程度の話ではあるのだ。それを嫌がらせの類に使っているとはいえ、情報の大切さを知っている第2王子ですら知らないように見えた。それは何故なのか?
「まさか……誰かが情報を止めているんですの?」
「それはねえよ。誰が王族への情報ルートを止められるってんだ」
言いながら現れたカイルに、ブリギッテは思わず身構える。いや、正確にはカイルにではない。
その背後にいるステラに……だ。ブリギッテが視界に入っていないかのようにイストファに笑顔で手を振るステラに、ブリギッテは思わず冷や汗を流す。あの目はよく知っている。対象以外の相手を何とも思っていない目……自分もよく「する」目だから、本当によく分かる。
カイルの微妙な目を見る限り、彼は気付いているようだが……イストファは全く気付かずにパッと笑顔を浮かべている。その事実が、何とも恐ろしい。
「イストファ、頑張ってるかしら?」
「そのつもりではあるんですが……難しいです。結果を出せてもいませんし」
「ふふ、焦る必要はないわ。でもまあ、『頑張ったからOK』で終わらないのは正しい事よ」
会話だけで判断すれば、実に正しく微笑ましい師弟の会話だ。
しかし、そこにいるのはステラなのだ。少なくともフィラード王国内では最強の一角と言われながら、本人がそういった格付けに全く興味のない世捨て人にも近いライトエルフ。
事実、ここ数年は全く噂話すら聞かなかった程なのだ。
(いったい……いったい何をすれば、この規格外にこうまで気に入られるんですの……?)
ブリギッテは知らない。イストファは、本当に何もしていない。
いや、「何かした」というのであれば……「正しく生きていた」をした。
僅かな悪にも染まらず、ただ正しく生きていた。自分に出来る全力を日々尽くしていた。
そして、「僅かな魔法の才能にすら恵まれなかった」という不幸を背負っていただけ。
そういった条件が重なり、与えられた「金貨1枚」というチャンスを正しく使った。
言ってみれば、ただそれだけの事だが……たとえ説明されたとしてもブリギッテには理解できないだろう。
(……ま、ブリギッテには理解できねえだろうな)
ブリギッテが何を考えているか、おおよそを理解したカイルはそんな事を思う。
イストファが看破した通り、カイルとブリギッテには似ている部分がある。
しかしながら、カイルとブリギッテは大きく違う部分がある。
ブリギッテは……王族的な範囲でしか、物事を理解できない。
(お前は何でも出来たし、家族からの愛情も持ってた。それが『普通』になっている以上、間違わない事の難しさが永遠に理解できねえ)
「……ブリギッテ」
「な、なんですの?」
「お前が他の兄弟共より俺寄りなところが、1つある」
「何の話か分かりませんが」
「いいから聞け。お前は『庶民』ってやつに興味がある。理解してるわけじゃねえが、目を向けられる」
「それがどうしたっていうんですの」
「分かんねえのか? オークエンパイアの件で、載っているはずの『俺以外』の情報が目に入らないとかいうアホじゃねえってこった」
「……あっ」