軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

理由は分かるかしら

「さあ、行きますわよ」

「はい。でも……護衛は僕1人でいいんですか?」

「何度も言うようですけれど、私に動かせるのは紅槍騎士が限界。衛兵隊が城の中に入れるなら話は別ですけれど」

無論、衛兵隊は城の中には入れない。これは職務の差の問題だが、イストファにそんな事が分かるはずもない。

「……そうなんですか?」

「そうですわ。気になるなら今度お兄様にでも聞きなさいな」

言いながらブリギッテは部屋の扉の前に立ち……そこで、立ち止まってしまう。

少し待ってみても動く様子のないブリギッテに、イストファは部屋の隅に控えていた、先ほどアルスレイカーを運んできたメイドに視線を向け……なんだかソワソワしているのを見て首をかしげる。

そしてもう1度ブリギッテに視線を戻すと、なんだか怖い顔でこちらを見ているのに気づきビクッとしてしまう。

そんなイストファにブリギッテはズカズカと音を立てながら近づき、キツい目つきで見上げてくる。

「気が利かないわね! 私がドアに近づいたら先んじて開ける! そんなので騎士が務まると思って⁉」

「え、そういうものなんですか?」

「そういうものですわよ! これだからド庶民は!」

「ご、ごめんなさい?」

イストファがドアを開けて外に出ると、そこには誰もいない。自分の滞在している居室にも騎士が居たのに、なんだか違和感を感じて……そうしている間にも、ブリギッテが部屋の外に出てきて小さく笑い声をあげる。

「なんですの、間抜けな顔でキョロキョロして」

「護衛の人が居ないなって……」

「言ったでしょう? 私に動かせるのは紅槍騎士が限界。そして紅槍騎士団は今、一番腐敗が激しい騎士団ですのよ?」

それはもしかしなくても問題なのではないだろうか。

そう考えるイストファに気付いたか、ブリギッテは肩をすくめる。

「お父様はご存じの上で放置しているんだと思いますわよ? 理由は分かるかしら?」

「いえ……」

「まとめて切り捨てるのが簡単だからですわ」

実際、他の騎士団には腐敗は広がっていない。紅槍騎士団に「だけ」腐敗や貴族の手が広がっているのは、意図してそうされているからに過ぎないとブリギッテは考えている。

王家の騎士団が4つに分けられているのには、王権に手を出そうという者に対する罠の意味合いがあるということだ。ほかに比べれば比較的手を出しやすい紅槍騎士団に影響力を伸ばそうとすることで、王への叛意や不忠を計測することができる。つまりは、そういうことなのだ。

そしてそれは……王子や姫とて同じことだ。

「私たちはお父様の子供であると同時に、餌でもある。私が殺されれば、お父様はそれを有効に活用するでしょうね」

「……」

何も言えずに、イストファは黙り込む。イストファとて親に捨てられた身ではあるが、王族の家族観は更に理解不能な何かに満ちている。

そして一番理解不能なのは、それを淡々と語るブリギッテであった。

「それで……いいんですか?」

「良くはありませんわね。だから貴方の護衛を受け入れているんですのよ?」

そう言って、ブリギッテは閉じた扇子でイストファの背を叩く。

「ほら、行きますわよ。ヘンドリクソンお兄様の部屋は、この階の真ん中あたりでしてよ」

ブリギッテに促されるようにイストファはブリギッテと共に廊下を歩き……やがて、1つの部屋の近くに辿り着く。

騎士ではなく執事のような格好の男の立つその部屋を視界に入れ、ブリギッテは「やっぱりですわね」と呟く。

「見捨てられたわね……哀れな人」

「見捨てられた?」

「紅槍騎士ではなく、執事が部屋の前にいる。つまり……ヘンドリクソンお兄様に従う紅槍騎士がもう居ないという証明ですわ」

ブリギッテはスタスタと歩いていき、執事の前に立つ。

「開けなさい。お見舞いにきましたわ」

「ブ、ブリギッテ様……しかし、ヘンドリクソン様は」

「施療士が止めるのを振り切って王城に戻ってきたのでしょう? 怪我は治ってるはずですわよ」

「ですが、その」

「五月蠅い!」

何とか止めようとする執事の声をかき消すような怒声と共に部屋の扉が開かれ、ヘンドリクソンが姿を現す。確かに怪我は治ったようだが……頬がこけていて、かなり痩せたようにも見える。

「あら、お兄様。お元気なご様子ですわね」

「何の用だ、ブリギッテ……! お前も俺を笑いに来たのか!」

「あらあら。お兄様ったら、他の兄弟にも人気なのね?」

「……この……!」

激昂しかけたヘンドリクソンではあったが、手をあげそうになった瞬間に間に割り込んだイストファに目を見開き……小さく舌打ちをする。

「……ブリギッテ。これは『そういう意味だ』と理解していいのか?」

「さあ? どうなのかしらね?」

「……さっさと帰れ。お前と話すことなど、何一つとしてない」

そのまま閉じられた扉を見つめ……やがてブリギッテは「行きますわよ」とイストファの背を押す。

「行くって……」

「次の兄弟のところに決まっているでしょう?」

他の兄弟。いるのは知っていたが、会ってどうする気なのか。

それが分からないままにイストファはブリギッテについていこうとして。しかし、そのブリギッテの足はすぐに止まる。

その理由は……通路の先、角の向こうから歩いてくる3つの足音にあるのは明らかだった。