軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

率直に言おう

そして、次の日。

王宮の一室に与えられた部屋で目を覚ましたイストファは、天井を見上げてぼうっとする。

見覚えのない天井に一瞬何事かと覚醒し跳ね起きて。

「……あ、そっか。王宮に泊まったんだった……」

そう呟き、頭を掻く。豪華な王宮の食事に、きらびやかなお風呂。

想像ですらしたことのない数々に、精神的に疲れてしまっていた事を自覚し、イストファはベッドに腰掛ける。

今着ている寝間着も、何やら高級な着心地がして逆に具合が悪いくらいだ。

そして、何より慣れないのは。

「あのー……」

「はい。お召し物は責任をもって綺麗にさせていただいております」

「いえ、そうじゃなくて。僕みたいなのにそういうのは……」

「そういうわけには参りません。陛下のご友人たる貴方様に礼を失するわけには参りません」

部屋の隅に控えているメイドである。カイルいわく「それが連中の仕事だから」らしいのだが、どうにも慣れることが出来ていない。

「では、お召し替えのお手伝いを」

「わあ、本当にそれはいいですから!」

何とか部屋の外に出てもらって着替えると、見計らったようにメイドが再び入ってきて部屋の隅に控えている。

(うーん……お城に住んでる人って、毎日こんな生活してるのかな?)

中々気疲れしそうではあるが、そもそもの話。いつ自分が「王の友人」なんてものになったのかがイストファには分からない。もしかして何か勘違いではないだろうか?

そう考えてイストファは聞こうとするが……その前に、扉が軽く叩かれる音が聞こえてくる。

「エルトリア迷宮伯がお出でです」

「えっ!?」

扉の外から聞こえてきた声にイストファは思わず驚きの声をあげてしまう。

エルトリア迷宮伯。それは言わずと知れた迷宮都市エルトリアのトップであり、普段は王都に居るというその人だ。

そんな人物が自分に何の用なのか。慌てるイストファをそのままに、メイドが扉を開け……騎士に先導され1人の男が入ってくる。

白い髭を蓄えたその老人は周囲を見回して……やがて床に平伏しているイストファを見て「うおっ」と声をあげる。

「ど、どうしたのかね」

「お、お初にお目にかかります!」

「お、おお。礼儀を忘れないとは感心な子だが……頭をあげたまえ。うむ、なんだ……陛下の友人として認められたというからどんな子かと思うたが、なんとも初々しい」

そんな事を言うエルトリア迷宮伯に、イストファは顔をあげて「それなんですが……」と言う。

「何かの間違いじゃないんでしょうか。僕が王様の友人だなんて」

「間違いではないぞ? それと君は陛下を名で呼ぶ事を許されたのだ。キチンとしたまえ」

「は、はい。えっと……僕がカ、カルノヴァ様、の友人だなんて」

「今言ったが間違いではない。陛下の名を呼ぶ事は儂でも許されぬ。それは陛下の友であるという証明だからな」

それを聞き、イストファは一気に肝が冷えたような感覚を味わう。

王様を名前で呼ぶ事が許される。それがそんな意味だなんて、知らなかったのだ。

「え、ええ……?」

「まあ、知らんだろうな。陛下もそれを知ってて君にそう仰ったのだろう……相変わらず悪戯好きでいらっしゃる」

「あの……それって……」

「勿論今更無しになど出来ん」

「ですよね……」

「じゃが、これ以上ない栄誉ではあるぞ? 無論権力を伴うものではないが」

言いながらエルトリア迷宮伯は髭を撫で、メイドの持ってきた椅子に腰を下ろす。

「さて、イストファ。君の今回の活躍については陛下やカイラス様からも伺っておる」

「は、はい」

「だからこそ言おう……君に感謝する。今回の事も……それに至るまでの事もだ」

言いながら頭を下げるエルトリア迷宮伯に、イストファは思わず立ち上がりかけてしまう。

「な、何を……!?」

「カイラス様は君の事を本当に信用しておいでのようだった。それでいて、しばらく会わぬ間に素晴らしい方に成長なされたようにも思える……君の影響が多分にあろう」

「いえ。カイルはずっとカイルでした。僕が何かしたわけじゃないです」

そう答えるイストファにエルトリア迷宮伯は一瞬キョトンとして、すぐに破顔する。

「ふ、ふはは! そこは即答するのだな君は! 面白いにも程があるだろう!」

「え、えーと……」

「うむ、なるほどな。君という少年が少し理解できた気がする……自己紹介しよう。儂はエルトリア迷宮伯、コダール・アーガントだ」

「はい、エルトリア迷宮伯様。僕はイストファです」

「うむ。さて、それより君も座りたまえ。王の友人をいつまでも平伏させておくのは儂も本意ではない」

その言葉の直後には椅子を持ってきたメイドがイストファの背後に立っており、イストファも椅子に座りエルトリア迷宮伯と向き直る。

エルトリア迷宮伯。エルトリアに住む者でもほとんど拝謁したことがないという人だが……そんな人物が今、イストファの目の前に座っている。その事実が、イストファをドキドキと緊張させていた。

「イストファ。率直に言おう。儂はな、君を他の迷宮都市に取られたくはないのだよ」