軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これが、僕の明日を作ってくれる

「や、やった! やったぞ! ハハハ、嘘みたいだ! グラスウルフを仕留めちまった!」

喜び駆け寄ってくるカイルとは違い、イストファの心は不思議なくらいに凪いでいた。

あの目。

路地裏に潜む、何度も見たあの目。

あの目と同じ目を見ても、イストファは恐ろしくなかった。

襲い掛かってくる殺意を目の前にしても、引かずに乗り越えることが出来た。

それは、何を意味しているのか。

「……強くなれた、ってこと……なのかな」

「ハハハ、何言ってんだ! グラスウルフを倒したんだ! 俺もお前も強くなってるぞ!?」

「あはは……そうだね」

「なんだその反応! もっと喜べよ!」

肩を組んでグリグリと拳を押し付けてくるカイルを軽く押しのけると、カイルは「お?」と声をあげる。

「ごめん。でも、コレなんとかしないと」

「あー、そっか。そうだな」

イストファがグラスウルフの死骸を指差すと、カイルは納得したように少し離れる。

そのまま放置すれば、何らかのアイテムになってしまう。

イストファは魔石が欲しいのだろうと、そう察したのだ。

「ウルフの心臓ってどこなのかな……」

「あまり細かい事は気にしなくていいと思うぞ。ダンジョンモンスターは普通のモンスターとは違う生き物らしいからな」

「そうなの?」

短剣で斬った場所に赤い魔石があるのを確認するとイストファは魔石を取り出す。

ゴブリンファイターの魔石よりも更に大きな……それでもイストファの拳よりも小さいものだが、それを取ると同時にグラスウルフの死骸は消えていく。

「ああ。魔石なんてものが出るのはダンジョンモンスターだけらしいからな。逆に言うと、素材を剥げるのは外のモンスターからだけらしいが」

「消えちゃうものね」

イストファは魔石を袋に仕舞いながら、ゴブリンスカウトの鋭刃の鉄短剣の事を思い出す。

アレを欲しくて握っていても、結局手に入る事は無かった。

「……いったい、どういう仕組みなんだろう」

「さあな。ギルドでもその情報は売っていなかった。どこぞの研究家の説であれば死ぬほどあるらしいがな」

そんなものを買う気はねえ、とカイルは肩をすくめる。

確かに本当か間違っているかも分からない情報にお金は出したくないな、とイストファも思う。

まあ、売っていてもイストファに買える額なのかは分からないが。

「しかし、まあアレだな! この調子なら守護者を倒して次の階層に行く日も近いかもしれねえ!」

ハハハッと楽しそうに笑うカイルに、イストファは苦笑する。

確か臨時の仲間という話だったと思ったのだが、いつの間にか仲間に組み込まれているのだろうか?

……でもまあ、悪い気分ではないと。そうも思う。

仲間なんてものは、今まで出来た事が無かったからよく分からないのだけれども。

「とりあえず、もう少し狩りたいね」

「ああ。俺の魔法も今のでまた少し強くなったはずだしな!」

「そう上手くいくかなあ」

「いくとも! 俺は自分の可能性を信じている!」

そんな話をしながら歩いていると、数歩先の距離に現れたゴブリンがカイルの大声に気付き振り返る。

持っているのは、木の棍棒。

「ギイ!?」

「下がってろイストファ! くらえ、フレイム!」

自信満々に放ったフレイムの魔法が、棍棒を滅茶苦茶に振るいながら突っ込んできていたゴブリンの表面を軽く焦がす。

「ギアアア!?」

「あ、あれ!? もっとこう、焼き尽くす的な」

「充分だよ!」

棍棒を取り落とし顔面を抑えるゴブリンを、イストファは短剣で刺し貫く。

「ギッ……」

「せあっ!」

引き抜き、斬撃一閃。深々と切り裂かれたゴブリンは断末魔を残す事すらなく倒れ、そのまま動かなくなる。

そのままトドメを刺そうとして……イストファは、その動きをピタリと止める。

「ん、どうしたイストファ」

「ああ、いや、うん。これ以上のトドメは必要ないなって」

「まあ、どう見ても死んでるしな」

「……うん。なんとなくだけど、それが分かった」

それは、直感的なものだ。

これで仕留めた、と。そう強く感じたのだ。

それが自分の油断であるかもしれないとイストファは自問して、やがて「違う」と結論付ける。

足元に転がるゴブリンは、確かに死んでいる。

ならばこの感覚は……自分の成長の証なのだろうかと。イストファは、拳をそっと握る。

「魔石はいいのか?」

「あっ」

カイルの言葉にハッとしたイストファは、慌ててゴブリンから魔石を取り出す。

小さな小さな、最小の魔石。

それでもイストファは笑顔でそれをつまみ上げると、袋へと仕舞う。

「そんなもの一つに随分嬉しそうだな」

「嬉しいよ。これが、僕の明日を作ってくれるんだもの」

そう、そうなのだ。

この小さな輝きが、今日の稼ぎとなって明日への糧となる。

その先は、イストファの目指す「一流冒険者」へと繋がっている。

だから、嬉しくないはずなんてないのだ。

「ふーん、そんなもんか……」

「うん、そんなもんだよ」

笑顔のイストファに、カイルは少しだけ呆けたような顔になり……やがて、何かを納得したかのように何度も頷く。

「……そうか。そんなものか」

そう、呟いて。カイルは、イストファの肩を強く叩く。

「よし、それじゃあこの未来の大魔法士様が今日は稼がせてやるぞ!」

「はは、ありがとう」

それにイストファも笑顔で返して。

そして二人は歩き出す。そこには、二人が出会った時にはなかった……少しだけ、柔らかい雰囲気があった。