軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何はともあれ、このままじゃ終われんな

逃げる、走る。

少しでも速く、少しでも遠く。

走ればいつの間にかグラスウルフの声は聞こえなくなっていて、それでも安心できずに走る。

やがて何処まで走ったのか分からなくなった時、イストファはようやく立ち止まりカイルの手を離す。

「ぜ、ぜえ……はあ……」

流石に息が切れた。そんな事を考えているイストファの近くでは、カイルがどさりと倒れ込む。

「ひゅ、ひゅー……ふは、ひゅー……」

「え? うわっ、大丈夫!?」

「ひゅ、ぜふ、ぐはっ……お前、ひゅー……」

息も絶え絶えといった様子のカイルであったが、そうしているうちに調子が戻ってきたのか一言「殺すぞお前……」という文句が漏れ出てくる。

「殺すぞって……あのままだと死んでたよ」

「そんな事は分かってる。お前の判断も正しい。あのままだと俺は死んでただろう。だが殺す」

「理不尽な」

「ふはー……」

深呼吸してガバリと起き上がると、カイルは周囲を見回す。

「こんな場所だとよく分からんが、撒けた……か?」

「さあ……ていうか、その言い方だと……やっぱりモンスターからこっちは見えるの?」

「ああ、そうか。知らないんだったな。ギルドの情報によると『モンスターからはある程度遠くが見えたり聞こえたりするらしい』事が分かってる。だから、ちょっと逃げて見えないからと安心してたらガブリ……ってわけだな」

やっぱり、とイストファは思う。

おかしいとは思っていたのだ。イストファが態勢を整える前に攻撃準備に入っていたゴブリン。

仲間を呼ぶ叫びを聞きつけ、やってくるグラスウルフ。

人間よりも「遠くが見え、よく聞こえる」ようになっていなければ、有り得ない事だ。

「ある程度、ってことは……全部ってわけじゃないんだ」

「もしそうだったら、このくらいで逃げ切れはしないだろう」

「だよね」

水筒を取り出し水を飲み始めるカイルにイストファは頷き、大きく溜息をつく。

「しかし、不運だ。ただのゴブリン相手でよかったのに、レアモンスターなんぞに会うとはな」

「レア?」

「ああ。これもギルドで買った情報だけどな。ダンジョンの各階層のモンスターは常に一定の比率が保たれている可能性があるらしい。この階層でいえば、ほとんどは普通のゴブリンだ」

「えっ」

その割にはイストファはゴブリンスカウト、ゴブリンマジシャン、ゴブリンファイター……そしてグラスウルフにまで会っている。

「特にグラスウルフなんぞは、この広い一階層に10匹程度しか居ないと推測されてるんだが……いやはや、俺も中々に運がない」

「そ、そうなんだ。じゃあ、ゴブリンスカウトとかは?」

「分からんが、普通のゴブリンに比べたら確率は低いらしいぞ」

「へえー……」

言いながら水筒を仕舞い、カイルは立ち上がる。

「何はともあれ、このままじゃ終われんな」

「まあ、ね」

逃げる為とはいえ、鋼鉄のナイフを失ってしまった。

しかも稼ぎで言えば、今日はまだ0イエン……むしろマイナスだ。

イストファとしても、このまま帰るわけになどいかないのだ。

「とりあえず今日俺にとって幸いがあったとするなら、お前に会ったことだな」

「僕?」

「ああ。俺は体力が無い方だって自覚はあるが、お前はそっちの方に自信がありそうだからな」

「どうかな……」

いつも肉体労働だったから、確かに体力はあるかもしれない。

ダンジョンに潜ってゴブリンを倒す度に少しずつだが動きが良くなっているような……そんな気もする。

けれど「体力に自信がある」かと聞かれれば、やはりイストファは首を傾げてしまうのだ。

「とにかく狩るぞ。もうあんなのには出会わんだろう」

「あれ以上強いのとか居たりしないよね?」

「居るぞ」

「えっ」

イストファが驚きに声をあげると、カイルは二ッと笑う。

「心配するな。そいつは階層の守護者みたいなものらしいからな、こっちから会いに行かなければ出会う事はない」

「階層の、守護者……」

「ああ。いつか第二階層に行こうと決めた時には必ず戦う事になるがな」

「どんなモンスターなの?」

「知りたいか?」

「うん」

素直に答えるイストファにカイルは「ふむ……」と考える素振りをみせると、真面目に見える表情で「ダメだ」と言う。

「え、な、なんで?」

「その方が面白いからだ。というか俺も情報に金を払ってるしな。いつか俺とお前で挑戦する事があれば教えてやるぞ」

「うっ、それもそうか」

情報がタダじゃない事はイストファもよく知っている。

こんなに教えてくれる事が、有り得ないくらいの幸運なのだ。

イストファは気分を入れ替えると、グッと強く短剣を握って。

「危ない!?」

イストファの近くに立っていたカイルを庇い、空中に出現したグラスウルフの大きく開かれた顎の前に飛び出す。

無論、無策でも無茶でもない。

短剣を突き刺すように繰り出し、その口中を貫かんとばかりに腕を伸ばす。

だが、グラスウルフは空中で身を捻ると、そのまま回転しながらイストファ達と距離をとり着地する。

「グ、グラスウルフ!? 別の個体か!?」

「いや、違う……こいつ、たぶんさっきの奴だ」

何故なら。こいつは、真っ先にカイルを狙ってきた。

自分の嫌いな火を出す人間だと分かっているからこそ、そうしたのだろう。