軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何を、じゃねえよ

斬りかかる、防がれる。そこから流れるように次の攻撃に移り、その隙を狙い放たれる刃に当然のように防御に転じる。

一秒にすら満たぬ刹那の間に切り替わっていく攻防は、文字通り達人の領域。

しかし驚くべきは、ノーツの方が明らかに動きが遅いのに張り合えているという点であった。

見る者が見れば、それはその技術故だと思うだろう。

だが実際に何らかの技術を究極まで修めた者が見れば、気付くはずだ。

その動きに「利」はあっても「理」は無いと。本能に従い動いている、獣の如き動きであると。

それ故に、結果として無駄がないのだと。

「チッ……!」

ギイン、と大きな音が響く。互いの剣がぶつかり合い、ノーツが地面を靴裏で削りながら後退する。

力、速度。剣を相手の身体に押し込む為の大事な要素が、2つも欠けている。

目の前にいる相手は、サラディア八剣の一、神域のアルセウス。

その剣技、もはや人間の域に非ずと伝えられし男の剣は速く、強い。

それを受けているだけでもノーツの実力が非凡で収まらないものであることは誰にでも理解できる。

ノーツの表情にも、焦りはない。あるのはただ、何らかの煮え滾る感情の発露。

「ままならねえもんだな、オイ」

剣を構え、ノーツはグッと姿勢を低くする。さながら、飛び掛からんとする獣の如く。

「今の俺とお前が戦ったらどうなるんだと夢想した事もあったよ……こんなクソみてえな形になるとは思わなかったがな」

アルセウスは、答えない。その虚ろな眼窩は何も映さず、その表情には何の感情もない。

過去の幻影、虚ろなる偽者。幻影人のその大きな特徴から外れる事ないままに、アルセウスは剣先をノーツへと向ける。

「此処デ、貴方ハ死ヌノデス」

「やってみろよ」

ぐっ、と。ノーツの剣を握る手に力が籠る。

その視線はアルセウスを見つめ、しかしアルセウスだけを見ているわけではない。

ノーツが見ているのは、自分自身。相手がどうであろうと、自分が最高であれば即ち究極に通じる。それが、技術など何一つ持たないノーツの持つ真実だった。

「防いでみろ……俺の、剣をっ!」

走る。全身に意識が行き渡り、現時点での「最高」に直感で調整していく。

こう振るだとか姿勢はこうだとか刃筋はこうだとか、そんなものはノーツには無い。

獣が己が牙の使い方を自然と知るように、ノーツの本能が斬撃を調整する。

こう斬るべきだ、と。その為にはこう動くべきだ、と。

直感で調整された動きが、放つ事が可能な最高値を叩き出す。

故に、その剣は見て真似ても再現など出来ない。形に意味などないが故に。

「何故か」を……その鋼の真実を知らねば、永遠に辿り着かぬ剣。

剣士が人生の中で時折出会う「会心の一撃」を、自らの意志で放とうとするかのような無謀の剣。

それ故にノーツは……その剣を「必殺剣」とだけ称した。

そして、その一撃は……互いの交差の後、アルセウスをノイズに変える事でその威力を示した。

地面に落ちたペンダントらしきものをそのままに、剣を払い……当然何もついてなどいないが、癖のようにそうしたノーツは、僅かな舌打ちと共に手首を抑える。

はしる痛み。当然だ。理想の一撃とは、決して人間にとって最適な一撃というわけではない。

当然相応の無茶をしており、何度も放てばツケは身体に返ってくる。

「……情けねえもんだ」

そう呟くとノーツは、未だ剣戟の音響くイストファへと振り返る。

そちらにいるのは、やはりサラディア八剣の1人……城砦のダダン。

見た目通りの重戦士であるダダンの相手は、イストファには辛い事だろう。

生半可な攻撃は鎧に弾かれ、軽戦士であるイストファはダダンの重い攻撃を何度も受けられはしない。

そして、サラディア八剣などというものに数えられるダダンの攻撃が「単純に重いだけの攻撃」であるはずもない。

イストファとダダンの剣戟にドーマは入り込む隙を見つけられず、カイルが牽制のように放つ魔法は完全に見切られている。

イストファごと撃てば意表をつけるだろうが、それをするには今のカイルの魔力は多少大きすぎる。

ミリィの呪いはすでに弾かれ、反動で蹲る姿がそこにはあった。

「おう、やってるみたいだな」

「ノーツ……! 貴方なら、あそこに割り込めますよね!?」

やや焦ったようなドーマの言葉にノーツは「あー……」と呟きながら頬を掻く。

「ま、確かにオレなら出来る」

「なら」

「だが、やらねえ。チャンスだしな」

「チャンス!? 何を……」

「何を、じゃねえよ。アレ相手なら、イストファが勝つには2つのパターンしかねえ」

1つは、ファルシオンの打撃武器としても使用可能な重量を利用し、打撃のダメージのみで倒す事。

不可能ではない。事実イストファの攻撃は何度かダダンの分厚い鎧を叩いており、僅かなへこみも発生している。そしてそれは、重戦士を倒す方法としては極めてオーソドックスなものだ。

そして、もう1つ。それは……。

「イストファが、俺の教えた必殺剣をこの場で会得する。それが出来りゃ、それで勝ち確定だ」

もう、どうやるかは伝えている。

あとは出来るか出来ないか……ただ、それだけの話でしかない。

出来ない者は一生出来ないが、イストファは出来る。

特に理由は無いが、ノーツはそう確信していた。