軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そういう場所なんだ

しばらく地面の上に倒れていた2人だったが、やがてドーマはヒョイッと起き上がる。

「さて、と。慣らしも済みましたし、今日はこのくらいでしょうか」

「あ、うん。おつかれさま、ドーマ」

「はい、おつかれさまです」

ニコリと微笑むドーマにイストファも起き上がって笑い返して、それを合図にするかのようにドーマはイストファに背を向けフリートに一礼する。

「ありがとうございました。それでは、私はこれで失礼します」

「おう。んじゃ、表まで送ってやる」

「ええ、ありがとうございます」

そんな事を言いながらドーマとフリートが店の表まで歩き去っていったのを視線で見送ると、ケイが小走りでイストファの近くまで来てしゃがみ込む。

「ね、イストファ君」

「はい、なんでしょう?」

「あの子って……ドーマ君、で合ってるよね?」

「はい、そうですけど……」

首を傾げるイストファに、ケイは「あっ」と気付いたように声をあげる。

「あの、えっとね。違うの、その……えーと……」

言い難い事を言おうとするかのように指を絡ませながら、ケイは疑問を口にする。

「もしかして、その……ドーマ『ちゃん』だったりするのかなって」

「?」

何を言ってるのか分からない、といった顔で首を再度傾げるイストファに、ケイはようやく「だ、だから……もしかして女の子だったり、って」と口にする。

なんとなく、なんとなくだけどそうなんじゃないかな、と思って聞いただけだったのだが……ケイの見たイストファの顔に浮かんでいたのは、きょとんとした表情だった。

「えっと……分かんないです」

「そ、そうなの? えっ、今まで1回も聞いたことなかったの?」

「聞いたことは……ありましたけど、ドーマはドーマなんだからいいかなって」

「え、ええー……?」

それって上手く誤魔化されてないだろうか?

そう思うケイではあったが、ケイ自身ドーマが「どっち」であるかは自信がない。

というか、今までは男の子だと思っていたのだ。

今日何となく「実はそうなんじゃないか」と思ったのだが……改めて考えてみると、気の迷いだったような気もする。

もしドーマが「女の子に間違えられやすくて、それを気にしてる男の子」だったりしたら……これは非常に繊細な問題だ。

「う、うーん……えっと、その、勘違いだったかも。忘れて?」

「はい、分かりました」

「うう、私ってば嫌な子かも……」

なんだか落ち込んだように呟きながら立ち上がるケイだったが、イストファも同じように立ち上がるとケイを真正面から見つめる。

「ケイさんは良い人ですよ」

「えっ……」

「だって、全然ダメだった頃の僕の事も気にかけてくれましたし」

「いや、でも、それは……」

「僕はケイさんのこと、尊敬してます」

顔が真っ赤に染まっていたケイは、その一言で「あー……」と冷静になる。

「そっかあ、尊敬かあ……」

「はい! ステラさんとフリートさんの次くらいです!」

「しかも他の女の人の名前出しちゃうのかあ……おまけに負けてるし……お父さんにまで……」

よろけて壁に手をついたケイにイストファは何か間違えたかとオロオロするが、ケイに「お願い、そっとしといて……」と言われてしまう。

「あ、あの。僕、何か間違えました?」

「ううん、イストファ君は間違ってないよ。間違ってるのは私の心根だから……」

「ええっ!?」

「だって放っておいてほしいのに、心配してもらえると嬉しいんだもの……」

「……何やってんだ、お前等は」

そこに戻ってきたフリートが溜息をつき、イストファの肩に手を置く。

「ま、お前は気にすんな。何があったか知らんが、ほっといていい」

「え、でも……」

「人間、一人になりたい時はあるんだよ」

言いながらフリートはイストファを店の表まで連れていく。

「あの……ケイさん、ほんとに大丈夫なんでしょうか?」

「平気だ。ああいうのは放っておくのが一番いいんだ」

「そうなんですか」

「おう」

フリートがそう言うならそうなんだろう、とイストファが納得したような表情を見せていると、フリートは自分用に置いてある椅子にどっかりと座ってイストファに視線を向ける。

「なあ、イストファ」

「え? はい」

「お前……何処まで行くんだ?」

「何処まで……って?」

「ダンジョンだよ。何処まで行く気なんだ」

「え……っと」

答えに詰まるイストファから視線を外し、フリートは店の中に並ぶ武具を見回す。

「ダンジョンがこの世に現れてから、およそ数百年。このエルトリアの迷宮が現れたのは、およそ40年くらい昔と言われてる」

「40年……」

「だが、最も古い迷宮なら出現は数百年前。だが、最深部に辿り着き戻ってきた奴は何人いると思う?」

その質問に、イストファは少し考え……「100人くらいですか?」と答える。

「0人だ。俺が辿り着いた階層こそ最深部だと嘯く奴は居たらしいが、全員ほら吹きの類だと知れ渡ってる。お前の師匠のエルフだって、ありゃ怪物の類だが……最深部に辿り着いちゃいないだろう。英雄譚に謳われるような連中でも、ダンジョンの最深部を目指し消えていった。お前が潜ってるのは、そういう場所なんだ」