軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

事前に説明されたとはいえ

第6階層、追憶の幻影都市。

その始まりは、何処かの室内のような場所だった。

恐らくは集会所か何かであるのだろうか、広々としている割には何もない部屋の中には、何組かの冒険者が腰を下ろして談笑していた。

「お、イストファ達じゃねえか。お前等もついにこの階層か」

「あ、はい。えっと……皆さんは休憩中ですか?」

「まあな。理由は……外に出りゃ、すぐ分かるがな」

この階層の事は、イストファも来る前のミーティングでカイルから聞かされている。

だからこそ、別の心配もある。この階層が2階層同様に、最初の地点に密林の追跡者のような何かが出てくるのでは……と思ってしまうのだ。

「なんだよ。なんか言いたげな顔だな」

「えっと……その、こんな所で休憩って安全なのかなって。2階層でも同じような場所があったんですけど」

「あー」

言われてイストファが何を言いたいのか理解して、冒険者の男は「そういうことか」と頷き、近くにいた別の冒険者の男が「2階層の話か?」と会話に加わってくる。

「アレだろ? レアモンスターが安全なはずの場所に出たっていう。ま、此処でも可能性はないわけじゃないわな」

「ですよね?」

「だがよ、それでも他よりは安全だ。これはかなりデカいメリットだぜ?」

「ま、お前等もこの階層を進んでみりゃ、すぐに分かるよ」

そう言われてしまえば、イストファにはもう何も言う事は出来ない。

カイルにポンと肩を叩かれ、イストファは奥の……いや、正面の扉から部屋の外へ出る。

すると……其処に広がっていたのは迷宮都市エルトリアのような……いや、それ以前に入り組んだ街の光景だった。

地面にはきっちりと、しかしどこか乱雑に敷かれた石畳。

周囲にはとにかく適当に建てたという感じの否めない石造りの建物の数々と、お店であることを示す木の看板。

遠くには……この街の領主のだろうか、城が建っているのが見える。

「事前に説明されたとはいえ……凄いですね、これは」

「ダンジョンが不思議空間ってのは体感してたつもりですけど、それでも自分の目を疑います」

そんなドーマやミリィの感想も、無理はない。

まるでダンジョンを抜けたら何処かの街に辿り着いたと、そんな風に感じてしまうのだ。

「でも、どの看板も読めないよ」

「あ、そういえば……共通語でもエルフ語でもないですね」

近くに揺れる看板を見ながらのイストファの戸惑うような言葉に、ドーマが頷く。

ようやく共通語の知識が年相応に身についてきたイストファはともかく、ドーマにも読めないというのは相当だ。

「やはりダンジョンだからってことでしょうか?」

「いや、違ぇよ。こいつは古代語だな。今じゃ使われてねえ。つーか説明しただろうが」

大きな溜息をつきながら、カイルは人差し指をたててみせる。

「第6階層、追憶の幻影都市。此処は過去に存在した「傭兵王国サラディア」の王都……を再現したと思われる場所だ。傭兵王国サラディアなんてものが存在したのは何千年も前だから、誰も確かめられねえけどな」

「火山の噴火……っていうので消えたんでしたっけ」

「おう。つーかミリィ、分かってるよな」

「はい。今日からは人前でも呪法解禁です!」

昨日宿に帰った後、イストファ達はステラとデュークから街中に潜んだアサシン達の壊滅と、ウルゾ子爵の私兵達の捕縛を聞かされていた。

エルトリア迷宮伯の治める地で権力を振りかざし勝手な事を散々していた彼等ではあったが、王宮の騎士団長の1人であるデュークが来てしまってはどうしようもない。

王直属であり、凶悪な不穏分子の討滅が任務の蒼盾騎士団の団長であるデュークに「ウルゾ子爵の私兵達は国の利益を害する存在である」と認定されてからの衛兵たちの行動は早く、あっという間に全員が捕縛され王都への移送を開始されたと聞いた時には、イストファ達は思わずポカンとした顔をしてしまったものだ。

ステラ達曰く「結局は権限の問題」だとのことで、この後ウルゾ子爵自身にも捜査が入るのは間違いないとのことであった。

呪術に関しても王国法に照らし合わせても禁じる記述はなく、今後何かあった時の為のデュークによる証明の書類もミリィは受け取っている。

結局はそういった大人たちの権力ゲームに巻き込まれた形であり……カイルが難しい顔をしていた以外は、概ね解決していたといっていい。

そう、概ねは……だが。

「あとはボクがミドに戻れれば一番良かったんですけど……」

「諦めろ。手続き上『ミド』は死んでるし、『銅級冒険者のミリィ』はしっかり登録されちまってるんだ」

その辺りを解決するには結構長い時間もかかるとのことであり……『呪法士のミド』の復活にはまだしばらくの時間がかかりそうであった。

ついでに言うとカイルの潤沢な予算から購入されたミリィとしての変装用の服の性能も非常に高く……もはや着る事にも慣れた自分にミリィは少し複雑な気持ちもあったのだが、それはともかく。

「この階層の地図は一応買ってるが、あまり意味はねえ」

「うん。とにかく目につく建物を全部探していこう!」

そう、この階層の攻略の鍵は……文字通りに「鍵」だ。

この階層にいる各個人にだけ認識できる「鍵」を人数分探さねば、守護者に挑戦する事すら出来ない。

そしてそれは……この広い幻影都市の何処にあるかは、全く分からないのだ。