軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それが答えだろ

そして、施療所。

寝かされている3人を前に、カイルは椅子に座って壁に背中を預けていた。

腕の良い回復魔法の使い手のいる施療所では治らない怪我はほぼ存在せず、重傷の者は大体此処に運び込まれる。

イストファ達もすでに怪我は回復しきっており、今は体力回復のために寝ている状態だった。

其処に扉を開けて入ってきた人物をカイルはチラリと見て、軽い溜息をつく。

「……デューク。暇なのかお前は」

「いいえ。ですが、貴方様のお仲間が担ぎ込まれたという話を聞きまして」

「それでわざわざ?」

「ええ。此処への襲撃計画を立てていた残党どもを掃除しまして。念の為の確認に」

それを聞いてカイルは「まだいたのか」と舌打ちをし、デュークは頷いてみせる。

「それで、ミノタウロスを撃破したとか?」

「ああ。ったく、ダンジョンってのは怖ぇ場所だぜ」

「そうですね。だからこそ未だに全容が解明されていない。此処は新しいダンジョンだから活気がありますが、古いダンジョンでは「より深く潜ろう」という意欲は消えていると聞きます」

「だから此処を選んだんだよ」

カイルのその言葉にデュークは無言で応え、しばらくの間誰も喋らない静かな時間が続くが……やがて、デュークが「彼は……」と呟く。

「あ?」

「イストファは短剣を使うようですが。ミノタウロス相手には通用しましたか?」

「……いや。あの野郎、硬すぎる。最終的にはイストファが斧奪ってブチ割ったが、まともな手段じゃ攻撃通らねえだろ、アイツ」

「慧眼です。ミノタウロスの筋肉は物理攻撃を弾き、革は魔法攻撃を弾く。伊達に迷宮の怪物と呼ばれているわけではありません」

……そう、ミノタウロスはイストファの短剣だけではなくカイルの魔法も、ミリィの呪法も弾いてみせた。

驚く程に、ミノタウロスは強すぎる。恐らくは今まで出会った階層守護者のモンスター達が全員でかかっても、ミノタウロスに傷1つつけられないのではないだろうか?

「だが倒した。それが事実であり結果だ」

「ええ。ミノタウロスとて無敵ではない。事実、私も奴を両断できます」

「自慢か?」

「多少は」

「ケッ」

悪態をつくカイルにデュークは微かに笑い……しかし、真面目な表情を作り直す。

「通常であればミノタウロスの討伐には魔剣の類を使います。しかしミノタウロスの斧は……こう言ってはなんですが、普通の斧です。それで倒したというのは、少し驚きですね」

「……で?」

「彼に魔力が無いのは一目見て分かりました。年齢に似合わぬ身体能力がそのせいであることも。ですが、まさかミノタウロスを魔力無しで斬る程とは……」

「アイツの短剣じゃ通じなかった。それが答えだろ」

ミノタウロスの斧だから通じた。それで納得しろと言外に言うカイルに、デュークはイストファを見つめ「……そうですね」と答える。

「短剣が通じなかったのは、単純に黒鉄製だからでしょう。武器の軽さの問題もある……もしこれがメイスの類であったなら、あるいはそれで勝っていたかもしれませんね」

「……フン。重戦士にでもなれってか?」

「彼が望むなら。あるいは彼であれば全身鎧であっても、現時点で並の戦士以上に動けるでしょう」

そんなデュークの言葉に、カイルはハッと馬鹿にしたような息を吐く。

「分かって言ってんだろ? 迷宮の奥に潜れる全身鎧がどれだけ存在してる? 魔法の武器もだ。その結果、どうなった?」

「大抵は迷宮の奥に沈んだと聞きますな」

「今回のドーマが良い例だ。防御には限界がある。どんな装備を使っても、結局は回避や逸らしの技術を磨くしかなくなってくる……そういう意味ではイストファの方向性は間違ってねえはずだ」

イストファのスタイルは軽戦士だ。それは予算の問題が大きくはあるが、結果的には正しいと今のカイルには言い切れる。

事実、守りに入った時にイストファの装備はほぼ毎回破壊されているが……それは真正面からの防御の難しさを示してもいる。

装備に頼った時点で死ぬのは、これまでダンジョンに潜ってきた先達が証明している。

防具であろうと、武器であろうとだ。

「だが……武器に関しては問題だな。何か考えないといけねえな……」

現状、イストファの武器は短剣1本だ。

その取扱いに問題はなく、事実短剣は優秀な武器だ。

しかし、それが通じない時にイストファの武器がなくなる。

魔法が使えない以上は遠距離攻撃もできないが……弓を持つのが正解かどうかも分からない。

悩むカイルを黙ってみていたデュークに、カイルは不機嫌そうに振り返る。

「……で? お前はいつまで其処に居るんだよ」

「そうですね。もう行くつもりではありますが……」

「おう」

「良い友人を持たれたようですね」

「ああ。親友だ」

即答するカイルに、デュークは微笑み頷く。

「将来的に、貴方の側近にするご予定は?」

「……此処にいる俺は、ただのカイルだ」

「存じております。その上で伺っています」

カイルは、デュークに視線を向ける。

何を考えているのか……それを探ろうとする視線を、デュークは真正面から受け止めて。

カイルはやがて、チッと大きく舌打ちをする。

「一緒に居てくれればいいとは思うよ。だがそりゃ、俺のエゴだ」

こいつの夢は一流の冒険者とやらだからな、と言うカイルにデュークは……「そうですか」と答える。

「それにコイツは、腹芸は得意じゃない。見てて分かんねえのか」

「いえ、よく分かります。私はもう失ったものです」

「王宮なんざ、毒虫を詰め込んだ鳥籠だ。ダンジョンは死を詰め込んだ墓穴だが……大分マシだと、俺は思うよ」

それに、デュークは答えない。ただ、静かにその場を去る事で……その答えとしていた。

だが……それで終わらないのも、大人という存在の持つべき責任だ。

施療所の入り口に立つ1人のエルフの女に、デュークは声をかける。

「……会わなくてよろしいのですか? 貴方の可愛い弟子でしょう」

「私が会うべきは、このタイミングじゃないわ。あの子が元気に回復して、自分の戦果を友達としっかり確認できてから。師匠なんてものが出張るのはそれからでいいのよ」

そんな女の……ステラの言葉に、デュークは苦笑する。

「しっかり師匠をされているようですね」

「当然でしょ。で? 王宮の方は任せていいんでしょうね」

「ええ。この件は王にも報告致します。カイル様は信じてくださいませんが、あの方は本当に気にかけておられます」

「……伝えなければ伝わらない。当然でしょ」

「耳の痛い話です……それで、そちらの方は?」

「可愛いイストファを狙われたのよ? 逃がすと思う?」

ゾッとするような視線を向けられて、デュークは反射的に剣に手がのびかけ……意志の力でそれを抑え込む。

「そうですか。では……」

「ええ、街の中は綺麗になったわ。大人の汚い世界なんてあんまり見せたくないし……良い機会だったかもしれないわね」

街中に潜むアサシンや連絡員の殲滅を軽い調子で告げてくるステラに、デュークは頷き……しかし、同時に思う。

今の自分は、彼女に勝てるだろうか……と。

「やってみる? 意外といけるかもしれないわよ?」

思考を完全に読んできたかのようなステラの言葉に、デュークは完全に戦意をそがれ、ゆっくりと首を横に振る。

「……やめておきましょう。貴女に手の内を晒すのは恐ろしい」

「そう? 残念だわ」

恐らくは本気でそう言っているであろうステラにデュークは……僅かな興味を覚えて口を開く。

「貴方の弟子の、イストファですが……」

「何よ、あげないわよ」

「いえ、そうではなく。彼が短剣を使うのは貴方の指導ですか?」

「違うわ。でも、短剣は全ての基本。人が武器を持つ意味を体現したモノではあるわね」

「ですが、それでは」

「ええ。魔力がない以上、短剣1本ではいずれ頭打ちになる……私はイストファを獣に育てる気は無いのよね」

武器とは牙だ。牙無き人が相手を傷つける為に生まれ、真正面から殺し合う為の牙だ。

それ故に武器持つ人は獣に近くなっていく。

だが獣に近くなり過ぎれば、人は人では無くなる。

それ故に人はより良い武器を求める。

本能ではなく、理性で戦う為に。

……もっとも、良すぎる武器によって獣に堕ちる者がいるのも事実ではあるのだが。

「成長するのって、本当に一瞬ね。ふふ……師匠として、プレゼントの1つでもあげるべきかしら」

その呟きの意味を、デュークは問わない。

だが……恐らくイストファはまた強くなるだろうと。

そんな、確信めいたものだけはあった。