軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アタシは忙しいんだから

小さな小屋には鍵の1つもかかってはいなかったが、小屋のすぐ近くに置かれた椅子に座っている男がジロリと睨んでくるのが見えていた。

……が、ナタリアがドアを開けても男が何かを言う事はない。

やがてナタリアとイストファが小屋に入ると、ナタリアは「ドア閉めてね」と声をかけてくる。

「あ、はい。それでこの小屋が……?」

「んー」

イストファがドアを閉めると、小屋の中のランタンの明かりのみが窓のない部屋をぼんやりと照らす。

この部屋には何もなく、とてもトラップスミスギルドがあるようにはイストファには見えなかったが……ナタリアは床をコンコンと叩くと、イストファにも聞こえないほどの小声で何かを床下に向けて囁く。

それに返ってきたのは、ガチャリと鍵のようなものが外れる音。

「よし、行こっか!」

「え……」

「大丈夫、大丈夫」

床の一部に偽装されていた扉を開き、ナタリアはイストファを手招きする。

少し不安に思いながらもイストファがその先の階段を降りていくと……そこは、少し広めの通路のような場所だった。

そこには、やはり見張り役らしい男が一人いてイストファを睨んでくる。

「ナタリア、そいつはイストファとかって奴だろ? コードとかいうのはどうした」

「アイツは此処連れてこれないって! 彼は護衛だねえ」

「……護衛、か」

「うん。状況は刻一刻と……ってね。それじゃ、行くから」

「ああ」

黙り込んだ見張り役に手を振り、ナタリアはイストファを先導する。

その先にあった分厚い扉を開くと、イストファの視界に飛び込んできたのは……魔法による眩い明かりと、それに照らされた広い空間だった。

ガヤガヤと騒がしいその場所には軽装の男女が数多くいて、カウンターらしきものも設置されているのが見える。

更に地下への階段があるのも見えるが……そうしてキョロキョロと見回しているイストファを見て、一人の女が近づいてくる。

「あら、ナタリア。こんな初心そうな子連れてきて、どうしたの?」

「はいはい、近寄らない。アタシは忙しいんだから」

その女を手をパタパタと振って遠ざけ、ナタリアはイストファを連れカウンターへと歩いていく。

「おっす。ウルゾ子爵様の件、情報入ってる?」

「入ってるけどよ。金はあるんだろうな」

「ハッ、どうにか出来ないと商売あがったりなのはそっちも同じでしょうに。タダで寄越しなよ」

「……」

「……」

カウンターにいた男とナタリアは睨み合い、やがて男の方が根負けしたように大きく息を吐く。

「そこにいるのはイストファだろ? お前のパーティメンバーじゃねえ。一緒にいる理由はなんだ?」

「それが対価?」

「ああ」

「此処に来る途中で、装備の整った落ちぶれ者どもに襲われた。その時助けて貰ったってワケ」

ナタリアの言葉に男は「なるほどな……」と呟き顎ヒゲを撫で始める。

「なあ、イストファ」

「え? あの、僕……何処かで会いましたか?」

「いや? だがお前さんは有名人だ。此処に来るような奴じゃねえって意味でもな。その上で、まず言っておきたい事がある」

そう言うと、男は「ちょっと耳を貸せ」とイストファを手招きし……その言葉をささやく。

「……俺達トラップスミスギルドは『ミド』の行方を正確に掴んでる。その上で、この情報は永久に秘匿とするつもりだ」

「……!」

目に見えて驚くイストファに、男はニヤリと笑う。

「トラップスミスギルドは通称『裏ギルド』。地域密着、横の繋がりで世界の情報をも制するギルドだ。お前さんの知らない事も、色々と知ってる。だが、その上で言うと……あのステラを敵に回すつもりはねえ。アレよりも、激怒してるドラゴンの巣の方がまだ安全だろうよ」

ステラを馬鹿にされたと思ったイストファが少しムッとするのを見て、男は再度笑う。

「ハハッ、そう怒るなよ。ま、ともかくそんな俺達からの話だ。信用性ってものは保証できるってこったな」

「ちょっと、何ボソボソやってるの。こっちの話でしょ?」

「おっと、すまねえな。で、ウルゾ子爵の件についてだったか」

言いながら、男は表情を真面目なものに変える。

「……まず、最初に言うとだな。迷宮伯はこっちに来ねえぞ」

「え、でも使者は……まさか」

「おう。衛兵隊が使者として送った冒険者だが、『盗賊に襲われたような状態』で見つかってる。発覚にはもうちょい時間がかかるだろうな」

その言葉にイストファはゴクリとつばを飲み込む。

それは……ひょっとしなくても、かなり問題なのではないだろうか?

「待ってよ。王都に使者に送られるって事はかなり手練れのはずだけど」

「それを殺せる奴がいるってこったな。たぶん子爵のとこのアサシンが混ざってるんだろうな。まだどれが『そう』かはこっちでも確定しきれてねえ」

「……此処に混ざってくる可能性は?」

「無い。連中の顔は全部割れてる。来たとしても、永遠にお引き取り願う手はずになってる」

そう言うと、男はカウンターに一枚の書類を載せる。

「連中が引くこともない。ウルゾ子爵は、自分の子供が呪法士に呪われて死んだと疑ってる。タチの悪い熱病だと診断書も出てるんだがな」

最低1つでも呪法士の首をとらないと帰らないだろうな……と。

そう言って男は書類を……診断書の写しを、軽く叩いてみせる。