軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

説明足りないんですよ、貴方は

「よく間違えられるんです。だから、そんな自分を変えたかったんですが……」

「そんなもん筋トレしたほうが早いだろうに」

呆れたように言うカイルにミドも「そうですね」と苦笑する。

ダンジョンで得られる強さは筋肉などの「見た目」で分かる強さではない。

そうしたものに寄らない、鍛錬というよりは強化に近いものだ。その証拠にイストファは最初に比べればかなり強くなっているが、見た目はほとんど変わっていない。

だがそれでも、ダンジョンに一切入った事のない筋肉自慢の一般人を殴り飛ばす事くらいは出来るかもしれない。ダンジョンで強くなるとは、そういうことだ。

「その言い方からすると、やっぱりダンジョンに入りたてね? どうやって此処まで来たの?」

転送の宝珠を使うにしても、ミド1人では此処まで来ることは出来ない。アレは各階層をクリアし登録の宝珠に触れなければ階層が登録されないからだ。

「他のパーティに入れていただいて、一緒に手を繋いで転送をしてもらいました」

「……でしょうね」

言いながら、ステラは溜息をつく。つまりは此処まで来れる実力を持った何処かのパーティが明らかに装備に問題のあるミドを連れてここまで来て、そのあげくに置いていったということだ。

まともな冒険者のやる事とは思えないが……つまり、ミドと一緒にいたパーティとやらはまともではない連中ということだろう。

どうするべきか。少し考えて、ステラは帰還の宝珠を取り出す。

「ごめんね、イストファ。今回の同行はここまでよ。私はこの子を送ってくるわ」

「あ、はい。分かりました」

「例の仕事はいいのか?」

素直に頷くイストファに続けるようにカイルが問いかけると、ステラは軽く肩をすくめてみせる。

「いいってわけではないけれど。今すぐ解決しなきゃいけないってわけでもないわ」

「そうですね。それに、ミドさんの安全を考えればステラさんが付き添った方がよさそうです」

「え?」

「……ま、そういうことね」

疑問符を浮かべるイストファとは違い分かった風のドーマにステラは頷き、ミドを抱えると帰還の宝珠で消えていく。

その姿を見送るとイストファは「えっと……ミドが狙われてるってこと?」と問いかける。

「かもしれない、といった程度ですけどね」

「その場合は俺達じゃ不安かもしれねえ……が、あの女なら何も問題は無いからな」

「えっと……ごめん。全然分からないんだけど……」

疑問符を浮かべるイストファに、カイルとドーマは顔を見合わせると互いを突き合い……やがてカイルが根負けしたように「あのな」と切り出す。

「此処は寒くて、特に身体を暖める何かも無い」

「うん」

「そんな所に怪我人を明かりだけ置いて放置。此処から、どういう状況が考えられる?」

「……他のメンバーが全滅した、って答えじゃないってことだよね」

「ああ」

頷くカイルにイストファは考えるように目を伏せ……しかし、すぐに「その答え」に思い至る。

「見捨て……た?」

「一番良い可能性でも、俺はそういうことだと思ってる」

「補足すると、そうなると分かっていて連れてきた疑惑もあります。何故そんな事をしたかまでは想像するしかありませんが」

「どちらにせよ、ロクなもんじゃねえ」

つまるところ、死ぬと分かっていて此処に置いていったのだ。そんな事をした連中が義理人情に溢れた冒険者だと期待するのは楽観的に過ぎるし、それがバレた時に何をするつもりかは想像するまでもない。

「まあ、直接殺して崖下に捨てるんじゃなくて凍死させる方を選んだんだ。ちょっとくらいは罪悪感ってものがある……かもしれねえな」

「まあ、そんなものがあるかはともかく……その見捨てていった連中が外で見張っている可能性もあります。それで私達が目を付けられるのをステラさんは嫌ったのでしょうね」

「そっか……」

イストファが思い出すのは、1階層で出会った悪党だ。ああいう悪人が、冒険者の中にまだいる……その事実がイストファの中に言語化できない、もやっとした気持ちを発生させる。

何故そんな事をするのか、理解できない。理解できないが……許せない、という気持ちがイストファの中に生まれてもいた。

「……やめとけよ、イストファ」

そんなカイルの言葉に、イストファはビクリと身体を震わせる。

「許せないって思うのは分かるし俺もそうだが、俺達でどうこうする話じゃねえ」

「……うん、それは分かってる」

「この街の衛兵は腐ってねえ。連中に任せとけ」

「……そうだね」

それはイストファも分かっている。この許せないという気持ちが、思い上がりに近いものだと理解できてしまっている。

ほんの少し前まで路地裏にいた最底辺だったくせに、ちょっと幸運にもチャンスを得ただけの奴のくせに……一体何を考えていたのか。

「イストファ」

そんなイストファの肩に、ドーマが静かに手をのせる。

「その怒り自体を間違ってるとは思わないでください。それは人として、捨ててはいけないものです」

「でも、僕は」

「いいえ。貴方の憤りを私は理解しますし、共感します。もし犯人がこの場に居たら殴っていたかもしれません」

言いながらドーマは、イストファから決して視線を外さずに正面からその目を覗き込む。

「カイルは頭良いくせに馬鹿だから言葉足りませんけど、貴方を否定したわけじゃありません」

「おい」

「いいからカイルは黙っててください。説明足りないんですよ、貴方は」

カイルを睨んで黙らせると、ドーマはイストファに向き直る。

「いいですか、イストファ。貴方の目標はなんですか?」

「それは……僕は、一流の冒険者に」

「では今回の事件の解決は、一流の冒険者になる為に必要なものでしょうか? すでにステラさんがミドさんの保護をしているこの状況で、です」

言われて、イストファは考える。

イストファの知る限り一流の冒険者であるステラが、ミドを保護している。

そんな状況でイストファのやるべき事があるかといえば……答えは当然否、だ。

「……ううん、ない、と思う」

「ええ、私もそう思います。だからカイルは『心配するな』って意味で言ってたんですよ」

ドーマ越しに視線を向けられたカイルは「……伝わると思ったんだよ、悪かったな」と呟く。

「えっと……うん。僕こそ、ごめん」

「気にするな。俺も悪かった」

そうして、イストファとカイルは互いに小さく笑い合う。

ただそれだけの事で、イストファは自分の中の暗い感情が晴れていくのを感じていた。

何かが解決したわけではない。イストファの中に潜む劣等感のようなものが消えてなくなったわけでもない。けれど……イストファは再びしっかりと、前を向いた。

「そうだよね。僕達は、僕達のやるべき事をしなきゃ」

「おう、そうだな」

「ありがとうカイル、ドーマ。じゃあ、行こう!」