軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ライバル、かあ

重い音をたてながら転がっていくグレイアームの死骸をそのままに、グラートは兜の中で小さく息を吐く。

「やったわ! 流石ねグラート!」

「いや……」

飛び上がって喜ぶローゼにグラートは首を横に振り、イストファへと視線を向ける。

「……イストファ、だったよな」

「え、はい」

「この前は本当に助かった。あの時は礼らしい礼も言えなかったし、今更だが……言わせてほしい。ありがとう」

「ちょっとグラート、何の話よ」

「情けない話さ」

ローゼにそう答えると、グラートは胸の中に溜まったものを吐き出すように「俺は」と呟く。

「ゴブリンヒーローに殺されかけたあの日、本当に冒険者を辞めるつもりだったんだ」

「え……」

「だが、お前の戦いを何度も思い返して……このままじゃダメだ、とも思った」

あの時のグラートの見たもの、恐慌状態に陥った中で覚えていたのは……片腕を失いながらもゴブリンヒーローに挑み、打倒したイストファの姿。ロクな装備もないというのにそれを為したその姿を何度も思い返す内……グラートは、もう1度やってみようと、そう考えたのだ。

「……モリスンには見捨てられちまったけど、それも仕方ないとは思う。あの時の俺は本当に情けなかったからな」

「そんな事はないと思います。だって、死にかけてたんですから」

「ああ。でもお前だって、あの時死にかけたはずだ」

「それは、まあ」

あの時はそんな意識すら無かったし、とイストファは思う。とにかくあの時は必死で、しかもドーマやカイルの助けがあってようやく勝てた有様だった。

「密林の追跡者とかいうレアモンスターを倒したって噂も聞いてる。正直、嫉妬したよ」

言いながら、グラートは拳を握る。

「だが、負けられない……と思えるようになった。イストファ、迷惑かもしれないが……俺はお前のように強くありたいと思ってるし、ライバルと思えるようになりたいとも思ってる」

「ラ、ライバル!?」

イストファは驚いたような声をあげるが、それはローゼもカイルも同じで……しかし呆然としたような表情のローゼとは違い、カイルは「フッ」と小さく、少し自慢げに笑う。

それはイストファという友人が認められた事に対する喜びであり、「俺の親友はすげえだろ」という無言の自慢でもあった。

「待ってよグラート! こいつ、そんなに強いの!?」

「ああ、強い。今会って良く分かった。たぶん今の俺じゃあ勝てないな」

「そんな……!」

「だが、俺だって強くなる。まずはこの階層でイノシシ野郎を真正面からぶった切れるようにならなきゃな」

お前なら出来るんじゃないか、という視線を向けてくるグラートにイストファは苦笑で返して。グラートは兜の奥でククッと含み笑いを漏らす。

「じゃあな、イストファ」

「待ちなさいよグラート! 説明しなさいよ!」

「今度な」

ローゼを背中に引っ付けて去っていくグラートを見送ると、カイルは「アイツ俺には礼言わなかったな……」と呟く。

「あはは……まあ、元気そうで良かったよね」

「まあな。アイツだって冒険者稼業始めた以上は半端なとこじゃ引けねえだろうし、新しい相方も見つかって安心ってとこじゃねえか?」

生きていく以上は稼ぎが必要だ。それは金稼ぎに来ているイストファもよく理解できているし、1人でやっていける程ダンジョンが優しくない事も知っている。

「それにしても……ライバル、かあ」

「お前の目標に向けて一歩前進してる証拠だな」

「そう、だね」

一流の冒険者。イストファのその目標に向かって進むのならば、いつかきっと……ステラの背中をイストファが追いかけようとしたように、イストファの背中を誰かが追いかける時も来るのだろう。

正確に言えば今のグラートもイストファの背中を追いかけているようなものだが、イストファ本人にはその自覚はまだ無い。それはまだ、イストファが目標に向けてガムシャラに突き進んでいる時期でもあるからだろう。

「ま、余計な時間……って程余計でもなかった気もするが、大分時間くっちまったしな。さっさと行こうぜ」

「うん、稼がないとね」

言いながら、イストファ達は再び森の奥へと向けて歩き出す。

そうして歩いている内に……どちらが先だろうか、口の端に笑みが浮かび、2人は笑いだす。

「聞いた、カイル!? 僕、強いって言われたの初めてかも! ちょっと前まで全然ダメだったのに!」

「おう、勿論聞いたさ! だがまだまだだぜ! お前は未来の大魔法士たる俺の親友なんだからな!」

「うん、カイルも強くなってるもんね!」

「当然だ! 俺達はまだまだ強くなる! あー、あとドーマもな!」

言いながら、カイルは拳を突き出す。それがどういう意味かなど、問うはずもない。

イストファも拳を突き出し、2人の拳が友情を確かめ合うように軽くぶつかり合う。

「よし、頑張って稼ごうカイル!」

「おうイストファ! 3階層なんざ、さっさとクリアしちまわねえといけないしな!」

言いながら、2人は勇ましく森を進んでいく。

今なら何も怖くない。アーマーボアにだって、密林の追跡者にだって勝てる気がする。

そんな無敵感にも似た感情を抱えながら、イストファとカイルは2階層を突き進んでいく。

そうして、2日という期間はあっという間に過ぎていく。今度は密林の追跡者が現れる事もなく、これ以上ない程に順調な探索だった。